yu_photo - stock.adobe.com売上1000億円を突破し、ラーメンチェーンで店舗数・売上で首位の座に君臨する「餃子の王将」。庶民に愛され、中華が食べたいときに餃子の王将をイメージする人は多く、絶対的な存在感を放っている。
しかし、3年で5回の値上げを実施。生活不安で家計が厳しい中での度重なる値上げに、お客さんは行きたくても控えてしまう状況だ。
◆客単価が上がり、客数は伸び悩む餃子の王将
直近(25年3月期)の決算資料によると、既存店ベースで、24年7月・10月、25年3月の客数が前年割れ。
そして、今期(26年3月期)に入っても、5月の客数が前年割れ状態だ(全店ペースは+1.4%)。ちなみに既存店とは、開店後15ヶ月以内の店舗や改装店舗を除外した店舗のことである。
客単価は2年前5月の1125円から1294円と+約170円、15%アップしている。これは強みでもあるお得感や割安感が徐々に低下していることを意味する。
売上は好調で、今期に入っても4月は88億円(前年比+13.7%)、5月は91億円(前年比+12.3%)と2桁成長だ。
しかし、客数は4月(前年比+1.8%)、5月(前年比−0.4%)と伸び悩んでいる。その分、上がっているのが客単価で、4月(前年比+11.7%)、5月(前年比+12.7%)となっており、売上好調の要因は客単価の著しい伸びにある。
その結果、売上は40ヶ月連続で過去最高を更新している。顧客はこの値上げに対して、「高くなったから行く回数が減る」という声もあれば、「今までが安過ぎた、仕方ない」との声もあり、反応は様々だ。
もちろん、餃子の王将としては、単に物価高騰でコストが上昇したから値上げしたわけではない。
商品・サービスの向上に向け、調理と接客の研修の実施や餃子の改良、麺のリニューアルなども行っている。そして、付加価値を高め、顧客満足度を追求していることも価格改定の要因の一つだ。特に人的資本への積極的な投資は社会貢献度が高く、評価される取り組みである。
◆先の不確実性に備えた経営力
餃子の王将は直営店主体の店舗展開で、直営店比率は75%。店舗数は725店舗(直営549店、FC176店、25年5月末時点)である。
25年3月期(通期)の売上(直営全店)は1013億6100万円(前期比109.5%)と過去最高を更新し、FC(出荷)売上を含む全社売上は1110億3300万円と好調だ。この好業績を今後も維持できるかが注目される。
餃子の王将は原価管理技術のレベルが高く、前年比で+1%だったものの原価率は32.4%と低く安定している。
営業利益は109億円、営業利益率も9.8%と収益力は高い。財務の健全性も自己資本比率が76.8%と高水準であり、不測の事態が起きても、潤沢なキャッシュフローにより安心できる。
中途半端に他の事業に進出せず、本業の中華・ラーメンに特化し、経営資源を集中して効率経営を実現している。
◆麺飯類の値上げ&定食はほぼ1300円に
5回目の値上げでは、主食である麺飯類の値上げ率が高かった。
値上げ前、餃子の王将のラーメンは600円台と際立って安く、ラーメン一杯“1000円の壁”がある中で、値打ちのある商品だった。
しかし、今回の値上げでラーメンが税込750円程度になってしまった。それでも十分安いが、今までから100円以上値段が上がったことは消費者にとって痛手であることに変わりはない。
また、単品ではなく定食・セット商品を注文すれば、もれなく1000円を大きく超えてしまう。
餃子定食1100円(税込)、炒飯セット1299円(税込)、餃子の王将ラーメンセット1290円(税込)と、ランチ利用の会社員が気軽に頼める額ではなさそうだ。
◆顧客の来店動機を高めるキャンペーン実施
餃子の王将の堅実経営には定評があり、安定した財務状態は強みだ。
店を取り巻く環境が激変しても、経営基盤が安定しているため、顧客は安心して食事ができるのは事実。ただし、度重なる値上げは顧客の行動に影響を与えてしまうだろう。
餃子の王将も、値上げに伴う客数の鈍化を傍観しているわけではない。顧客の来店動機を高め、将来的に店を支えるロイヤルカスタマーを作るための施策を積極的に行っている。
集めたスタンプ数に応じて会計が5%割引になるカードや限定グッズを贈呈する「2026年版(6月27日〜12月14日)2026年版ぎょうざ倶楽部 お客様感謝キャンペーン」もそのひとつ。
2025年版はすでに終了してしまったが、3月から6月まで4か月連続で月後半の約15日間、ポイントが倍増になるキャンペーンを行っていた。
スタンプを貯め続ければ、飲食代10%割引のプラチナ会員になることも可能だ。10%割引は強い利用動機となるだろう。ちなみに筆者もプラチナ会員である。
◆ディナー帯の活性化も課題だが…アルコール類も値上げ
餃子の王将は夜の時間帯の売上アップのため、食事だけでなく飲み需要も狙った商品展開をしている。
少量メニュー(ジャストサイズ)の拡充で一人飲み客を誘致。個食ニーズが高まる中、ビールとジャストサイズを注文し、仕上げにラーメンを食べることでワンストップで完結し、利便性も高く人気だ。
1人の時間を楽しみながら美味しい中華を堪能し、1日の疲れを癒せるのは魅力である。ただし、5月からビールなどアルコール類も値上げされた。
特に瓶ビール(大、税込)は638円から715円に値上がりし、ビール好きには残念。
生ビールキャンペーンも実施しているが、庶民派の店では瓶ビールを好む人も多いため、今後もお得感のある企画を期待したい。
筆頭株主(持ち株比率10.9%)のアサヒビールの意向もあるとは思うが、中華とビールの最適な組み合わせを今後も大切にしてほしい。
◆「あくまでも人によるサービスにこだわる」魅力
人手不足や人件費上昇を背景に、多くのファミレスチェーンはDXを活用して人手不足と生産性向上の両立を図っている。
だが、餃子の王将はあくまでも人によるオペレーションにこだわっている。
そのため、値上げした分を賃上げの原資にして待遇改善や人的投資に積極的だ。「店は人なり」という考えが浸透している店である。
日本には中華料理やラーメンを好む人が多く、餃子の王将の存在意義は大きいだろう。
現在、ラーメンチェーンで餃子の王将は2位のリンガーハットを大きく引き離し、3位日高屋、4位幸楽苑はエリアを限定しているため、全国展開する餃子の王将には絶対的な優位性がある。
今後もQSC(商品品質・接客サービス・店の清潔さ)の向上と顧客満足主義をさらに追求し、美味しく手頃な価格の店であり続けてほしい。
<文/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan