※写真はイメージです(Photo by AdobeStock) 高いクルマは高所得者しか買えない、というイメージが強いかもしれません。ですが、街を走っている高いクルマ、とりわけアルファードを見ると、若くてヤンキーのような風貌の人が乗っているのが目立ちます。
アルファードは新車の場合、最低でも500万円します。若いヤンキーのどこからそんなお金が……?
最近、インターネット上では「残クレアルファード」という言葉を見かけますが、彼らは決して高所得者というわけではなく、ある特殊な買い方をしているからアルファードなど高価な車が買えるのです。今回は、そのカラクリを筆者がディーラー勤務時代にあった経験談をもとに解説します。
◆「マイルドヤンキー」が顧客ターゲットに合致
なぜ、いわゆるマイルドヤンキーたちがアルファードを欲しがるのか、というのは明確な理由があります。
彼らは「地元志向で家族・仲間との時間を重んじ、見た目が派手で快適なミニバンを好む」という特性がありますが、アルファードや兄弟車のヴェルファイアの大きくて威圧的なデザイン、豪華な内装・広い室内がまさにそれらにマッチします。
以前、トヨタの販売店向けマニュアルがSNSに流出して話題となりましたが、そこには顧客ターゲット層として「マイルドヤンキー」という単語が書かれており、そもそも彼らに向けて設計・企画されていることがうかがえるのです。
◆最低500万円ものクルマを若いマイルドヤンキーが買えるワケ
500万円のアルファードを若いマイルドヤンキー層が購入できる理由は、いくつかの現実的な背景があります。まず、ディーラーが提供する「残価設定ローン(残クレ)」を活用すれば、車両価格の全額を支払う必要はありません。将来の下取り価格を差し引いた残りを分割で支払うため、ボーナス払いを併用すれば月々の負担は5万円以内に抑えられることが多く、若年層でも手が届きやすくなります。
また、地方のマイルドヤンキー層の中には高校卒業後すぐに就職し、工場勤務や建設業などで高い年収を得る人もいます。実家暮らしで家賃や生活費がかからず、可処分所得が多い人がいることも大きな要因です。
さらに、見た目のインパクトや“威圧感”のある車に対する憧れや、仲間内でのステータスとしての価値も購入動機となっています。
加えて、親や祖父母などから頭金やローンの一部を援助されるケースもあり、経済的な支えがあることも事実です。このように、支払い方法・収入環境・価値観・家族の支援など、複数の要因によって、若いマイルドヤンキー層が高額なアルファードを所有できるのです。
◆アルファード以外にもマイルドヤンキーが好む車があった
トヨタのミニバンに限らず、マイルドヤンキーが好む車は国内メーカーにもあります。筆者は2016年まで日産系のディーラーに勤務していました。当時はマイルドヤンキーという言葉はあまり浸透していませんでしたが、マイルドヤンキーに合致するターゲット層が好む車がありました。
それは“エルグランド”です。現行モデルのE52型はアルファードに引けを取らない威圧的なフロントフェイスが特徴で、見た目を重視している層には刺さるものがありました。筆者は見た目重視かつアルファードは他人と被るから嫌だというヤンキー層に数台のエルグランドを販売したことがあります。トヨタがターゲッティングするような地元が大好きな建設業に従事する方で、筆者と同年代でも年収は高かったと記憶しています。アルファードとの明確な違いは残クレを使わなかったことで、7年以上の長期間ローンを組んで買っていたのが印象的でした。
◆クルマは単なる移動手段ではない
このように一見、収入と釣り合わないように見える若いマイルドヤンキー層のアルファード所有ですが、実際はメーカーのマーケティング戦略、残クレといった金融商品の普及、そして地方ならではの生活環境や価値観が背景にあるのです。メーカー側が「地元志向・仲間重視・派手好み」というマイルドヤンキー層に向けて車を設計し、販売店が彼らの生活実態に寄り添ったローンを提案することで、高額なミニバンも現実的な選択肢となります。
元ディーラーとしての実体験から言えば、こうした車選びは彼らの“自己表現”そのものであり、社会的な評価軸とは異なる「地元内でのステータス」が何よりも大切にされている印象を強く受けました。彼らにとって、クルマは単なる移動手段ではなく、生活の中心であり、誇りであり、存在証明にもなっているのかもしれません。
<文/宇野源一>
【宇野源一】
埼玉県在住の兼業ライター。大学卒業後、大手日系自動車ディーラーに就職。その後、金融業界の業務・教育支援を行う会社に転職し、法人営業に従事しながら、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP資格を取得。X(旧Twitter):@gengen801