※写真はイメージです インバウンド需要に沸く日本。しかし今、各所では外国人観光客による“マナー違反”が問題となっている。日本と海外ではマナーに関する認識が異なることも多く、彼らに悪気はなくとも周囲が「迷惑」と感じてしまうケースが少なくない。
◆ホテルで「え、そんな使う?」と言いたくなるほどの量を…
金倉ももかさん(仮名)は、観光地の比較的リーズナブルなビジネスホテルに宿泊した。
「フロント前にはアメニティコーナーがあり、チェックイン時に必要な分だけ部屋に持っていくシステムでした。歯ブラシセットだけは有料で、募金箱のようなところに“気持ち”の金額を入れるようになっていました」
金倉さんがフロント前で30分ほど待っていると、中国人と思われる観光客2人組がチェックインに訪れた。フロントスタッフからアメニティの説明を受けたあとの行動に、金倉さんは思わず目を疑った。
「無料だけど『え、そんなに使う?』と思わず声に出してしまうほどのクレンジングをカゴに入れていました。続いて洗顔料、シャンプー、トリートメントなど、全てをガバッと……」
本来は“気持ち”が必要な歯ブラシも、お金を入れずにそのままカゴに入れていたという。
一方で、同行者は必要な分だけを取っていたそうだ。しかし……。
「パジャマを『Two!』となぜか2枚貸してくれと言っていました。その後、部屋に向かったのですが、すぐにこっそりと戻ってきたんです」
フロントスタッフが別の客の対応に忙しくしている隙を狙ったかのように、今度は紅茶のティーバッグやコーヒーのシュガーをポケットにパンパンに詰め込んで持ち去ったという。
「思わず笑ってしまいました」と金倉さんは振り返る。
◆大量に持ち帰ったアメニティの使い道は?
そして物語は思わぬ展開を迎える。金倉さんが部屋に戻った後、大浴場でその外国人観光客と再会したのだ。
「大声で話していたので、入口で気づきました。びっくりしたのが、あれほど大量に持っていったクレンジングやシャンプーを使っていなかったんです」
彼女たちは、自分で持参したものを使用していた。必死で集めたホテルのアメニティは一体何のために……?
「お土産にするのか、それとも家に帰って使うのか……使い道が謎です」
お風呂から出た後も貸し出しパジャマは着用せず、「もちろん自前のパジャマを着ていました」と金倉さんは苦笑する。
文化の違いか、それとも単なる「タダなら欲しい」という精神なのか……。
アメニティは無料なので、大量に持ち帰ることもダメではないのだろう。とはいえ、日本人の感覚からすると「常識の範囲」なのは言わなくてもわかること。しかし、一部の外国人観光客には通用しないらしい。
◆列に割り込んできた外国人観光客
田中健さん(仮名)は土曜日の夕方、駅近くの大型スーパーで買い物をしていた。店内には外国人観光客の姿が多く、英語や中国語があちこちで飛び交っていたという。
「レジに並んでいると、私の後ろには地元の主婦や学生風の若者が数人いました」
そのとき、予想外の出来事が起きた。
「大きなキャリーケースを引いた欧米系の若いカップルが、横からスッと列に割り込んできたのです」
男性はTシャツにサングラス姿で身長190センチ近くある。女性はスマートフォンで何かを見ながら笑っていたという。
2人がしれっとレジ前に立つと、周囲が一瞬静まり返り、田中さんを含む何人かが驚いた表情で顔を見合わせた。
◆「列があるとは気づきませんでした」
田中さんは少し戸惑いながらも、英語で「Excuse me, but there’s a line.」(すみません、並んでいますよ)と声をかけた。すると意外な反応が返ってきた。
「きょとんとした顔で女性の方が『Oh, sorry! We didn’t realize there was a line.』(あ、ごめんなさい。列があるとは気づきませんでした)と謝ってきました」
どうやら、レジの前にロープや明確な仕切りがなかったため、「並んでいない」と思ってしまったようだ。田中さんの後ろにいた学生らしき男性が「ある意味、海外あるあるですね」と小声でつぶやいていたのが印象に残ったという。
その場にいた若い女性スタッフがすぐに対応に入り、丁寧ながらもはっきりと「Please line up properly. Others have been waiting.」(正しく並んでください。他のお客様もお待ちです)と伝えた。
カップルは少しバツが悪そうに「Our bad. Sorry.」(すみません、悪気はなかったです)と言いながら列の最後尾へ移動していった。
それを見ていた年配のご夫婦が「まあ、いい経験になったでしょうね」と穏やかに笑っていたという。
「文化や常識の違いがあるのは当然のことです。日本のルールを知ってもらうためには、こうした小さな場面でも丁寧に伝える。そうすれば、大きなトラブルにはならないんです」
外国人観光客への対応を我々も少しずつ学んでいくしかないのだ。
<文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo