家賃相場は大幅上昇も‥‥安易な「ワンルーム投資」がリスキーな理由

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2025年06月19日 18:20  週プレNEWS

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住宅・不動産業界向けの専門紙『住宅新報』による今年3月1日時点の家賃調査によると、東京圏のワンルーム平均値の家賃は10万3938円。昨年9月1日時点と比べ、29.26%上昇という結果となった。コロナ禍で広がったリモートワークの機運もいつしか収束し、独身者の都心回帰が鮮明となってきているのだ。

そうしたなか、にわかに勢いづいているのがワンルームマンション投資への勧誘だ。「今後も高騰が見込まれるワンルームマンションに投資しませんか」という具合である。しかし、むやみな手出しには慎重になった方が良い。

ワンルームマンション、というカテゴリーは不動産業界の中で「鬼っ子」のような位置づけになる。ようするに、業界内ではあまりリスペクトされないグループだ。

数年前、ワンルームマンションの開発を専業する会社の経営者が日本を代表する美人女優と浮き名を流した。その際も、業界内に漂うムードは「なーんだ、ワンルーム屋の社長か」という受け止め方だったように記憶する。


不動産業界ではワンルームマンションを開発する業者のことを「ワンルーム屋」と呼ぶ。最寄り駅には近いけれど、普通のマンションや戸建て住宅の開発分譲に向かない土地が出てくると「ワンルーム屋に持って行くか」という具合になる。ワンルーム屋は多少条件が悪い土地でも、いい値段で買ってくれるのだ。

ワンルームマンションとは、大まかには1住戸の面積が25平米以下の狭い区分所有住宅を指す。住むのは独身のサラリーマンや学生が中心である。都心なら事務所的に使う人もいる。彼らは日当たりが悪くても、窓の外が隣の建物でも、幹線道路に面していても、大して気にしない。住む場合には長くても4年くらい。日中はほとんど部屋にいないライフスタイルの人が多いからだ。

■勤務医は絶好のカモ!?

ワンルームマンションは通常、エンド投資家に販売されてきた。「エンド」というのはエンドユーザー、つまり一般人のこと。

そこそこの給与収入があって、不動産投資に興味がある素人がターゲット。20年くらい前は年収600万円くらいのサラリーマンがボリュームゾーンだったが、今は勤務医が狙われやすい。その理由は、価格が上がり過ぎたから。普通のサラリーマンでは手が出しにくいくらい高くなってしまったのだ。

東京の都心周辺の物件なら3000万円台でも買えないくらい。4千万円台や5千万円台の物件も珍しくない。となると、年収がある程度あり、金融機関から融資を引き出しやすい勤務医や大手企業のサラリーマン、公務員などを主要なターゲット=カモにするしかない。

ハッキリ言って、今のご時世で新築のワンルームマンションを買わされる人間は、ワンルーム屋からすると「カモ」でしかない。その理由は、買う側にほとんどメリットがないからである。

かつては、都心エリアで販売されるワンルームマンションは2千万円台か3千万円台だった。2千万円台であれば、販売価格をすべてローンで賄う投資であっても、家賃収入から返済と管理費等を支払ってもいくばくかのお釣りが残った。つまりお金は少しずつ入ってきた。

ところが、不動産価格が高騰した今は、家賃収入だけではローン返済と管理費等のランニングコストの負担が賄えない。毎月数万円程度の持ち出しになる。であれば、いったい何のためにワンルームを買うのか‥という疑問が残る。

ワンルーム屋たちがカモにささやくお決まりのセールストークは以下の3つ。

「35年のローンを支払い終えれば、家賃は100%オーナーであるあなたのモノ」
「毎月、ほんの数万円の負担で、あなたも"大家さん"になれます」
「不動産事業が赤字になるので確定申告をすれば所得税・住民税が軽減できます」

それぞれ、嘘ではない。

ただし、35年後に残るのは築35年の老朽マンション。修繕費の負担は年々大きくなっているはず。家賃を貰うのではなく、ローンを支払う「大家さん」が現実。所得税などの軽減については、購入した年分の確定申告では多少の還付が期待できるが、2年目以降はローン支払いなどの持ち出し分にも及ばないだろう。

だから、新築ワンルームマンションを投資で購入するメリットはほとんどない。多くのエンド投資家は購入した後でそのことに気付く。

私はこれまで何人もの勤務医さんたちから「この物件をどうしたらいいですか?」という相談を受けた。ワンルーム屋から何戸も買わされているケースが多かった。

勤務医は多忙だ。ただ、それなりに収入があり、周りには不動産投資で成功している同僚・先輩が多い。だから「自分も‥」と焦るのだろうか。ついつい「ドクター最優遇、必勝の不動産投資セミナー」なんて誘いに乗って、ワンルームを何戸も買わされてしまうのだ。

■家賃上昇も収益性低下

現在、東京の都心エリアで販売されているワンルームマンションは、建材費や人件費の高騰を受け、「年間家賃収入÷(物件価格+諸経費)」で計算される利回りが3%未満になる場合がほとんど。これに対して、エンドに適用されるアパートローンの融資金利はほとんどが4%以上。そこからして、赤字なのだ。

それでも「大家になりたい」という変わり者の人間がいることで、ワンルーム屋たちのビジネスは成り立っている。

ただ、以前に比べてワンルーム屋たちにとってはビジネスの環境が悪化していることも確か。価格が高くなったことで、エンドを惑わせにくくなっているのだ。

最近では1住戸単位でエンドに売るよりも、1棟ごとファンドに売却するケースが多い。しかしながらワンルームマンションを1棟ごと購入・運用するファンド勢にしたところで、その物件を借りて住み、家賃を払ってくれる借り手の需要が細れば、ビジネスは成立しない。

近い将来、東京都の人口も減少に転じる。ワンルーム屋を巡る事業環境は徐々に厳しくなるのではないか。

文/榊淳司 写真/photo-ac.com

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