「残クレアルファード」 トヨタの高級ミニバン・アルファードを残価設定クレジットで購入する家族についての曲「残クレアルファード曲」が、YouTubeの「破滅チャンネル」で330万回以上視聴(6月中旬現在)されて話題沸騰している。登場する子どもの名前は「羅偉翔(らいと) 天煌(あぽろ) 宝翔(だいや)」とキラキラネーム全開。さらに「手取り20万でもイケる」「ドンキでドヤる」「近所の川が俺たちのハワイ」などインパクト抜群の歌詞がエモいラップに乗って流れる中毒性のある動画。他にも、スズキ車に乗る「チー牛」、「残クレレクサス」など全方位にわたり手を広げている。
一体どんな人間が作っているのか? “中の人”を直撃した。
取材に応じてくれたのは、「破滅チャンネル」を運営する40代男性の“あつし”さん。本業はサラリーマンで、愛車は中古15万円のトヨタ・ポルテ。賃貸住宅で小学生の子どもを育てているという。
◆まったくの初心者がノートパソコン一台で動画制作
――チャンネル開設からわずか1か月で「残クレアルファード曲」などがバズっています。YouTubeを始めたきっかけは?
あつし 子育てのお金が足りず、2021年頃から副業を始めようと思って、とりあえずブログ、インスタ、転売などいろいろやってみたのですが、どれもうまくいかなくて。もともと車やバイクをいじるのが好きで「まーさんガレージ」というYouTubeチャンネルをよく見ていたのですが、そこで募集していた切り抜き動画のチャンネルをやり始めたのがきっかけです。
――すでに他のチャンネルを運営していたんですね。
あつし そうです。仕事は建築現場なので、あまりパソコンを使うことがなく、動画編集するためにノートパソコンを購入して、「まーさんガレージ」の方にも裏で支えていただきながら学んでいきました。今回は自分ひとりの力でどこまでやれるか挑戦してみたくて「破滅チャンネル」を始めました。投稿している音楽や動画はすべてAIで作っているのですが、AIを1週間も勉強していない状態で、ぶっつけ本番でやってみました。
◆残クレアルファード着想のきっかけは?
――「破滅チャンネル」は、ほぼAI素人の状態でスタートしたんですか。
あつし はい。私は素人なので、さまざまな生成AIソフトに14万円くらい課金して作っています。そうすれば、他よりも良い動画が作れるかなと思って。自分に才能があるとは1ミリも思っていないですし、何がバズるか分からないので、とりあえず「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」かなと。まずは100本くらい手当たり次第に投稿すれば、1本はヒットが打てるかなって。でも、わずか3本目で「残クレアルファード曲」がバズったので、正直びっくりしました。
――「残クレアルファード」を着想したきっかけは?
あつし 正直いうと、パクリですね(笑)。「いろはス」さんというYouTubeチャンネルで「残クレアルファード」の動画を発見したのがきっかけです。そこにX(旧Twitter)界隈で「残クレ」に関する面白いワードを拾って、それを自分で組み合わせて、最後にChatGPT で手直しして歌詞を作成しました。音楽は「Suno(スノ)」、画像は「Midjourney(ミッドジャーニー)」、動画は「Vidu(ビデュ)」という生成AIソフトを使っています。
――歌詞の中の子供の「羅偉翔(らいと) 天煌(あぽろ) 宝翔(だいや)」というキラキラネームに爆笑してしまいましたが、これもAIですか。
あつし はい。ChatGPTにヤンキーっぽい名前をいっぱい出してもらった中に、「天煌(あぽろ)」があって、これはイケると思いました。「ぽ」がついている名前って、アホっぽいじゃないですか(笑)。
◆「アルファード来たら、普通、道ゆずるやろ」は実際に言われた言葉
――他にお気に入りのワードは?
あつし 「近所の川が俺たちのハワイ」ですね。タワマンに住んでいる人がお金が回らなくなって、遠出ができないから近所の川でバーベキューをやっているという話を聞いて、これは残クレの人たちも一緒だろうなと思って使いました。
でも正直に言うと、私が作った歌詞なんかよりも視聴者さんのコメントの方が上手だし、刺さるんですよ。「残クレアルファード」を見てくれた方のコメントに「アルファードにあおられて道をゆずらなかったら、パーキングエリアで休憩している時に『アルファード来たら、普通、道ゆずるやろ!』って絡まれた」という話があって。なるほどと思って、次に投稿した「残クレアルファードのお通りだ!」でさっそく使わせてもらいました。
マイルドヤンキーの方に個人的な恨みはありません。私もドンキやイオン、スシローに行きますから(笑)。
――あれは視聴者コメントが発端だったんですね。
あつし コメントは全てチェックしています。「チー牛スイフト 〜底辺ヒエラルキーの勝負〜」は、「チー牛の曲も作ってほしい」というコメントを受けて作りました。最初は「チー牛」が分からなかったのですが、ネットで調べてなるほどと思って。あと、意外だったのは「残クレで買うのは勝手じゃないか」というコメントが3件くらいしかなかったこと。アンチコメントは削除しているんじゃないかと指摘する人もいますが、全くそんなことはしていません。
◆80時間残業しても「手取り20万円」
――生成AIソフトで音楽や画像、動画を作っているということですが、どんな指示を出したのですか。
あつし 画像作成は「ヤンキー」「タトゥー」などいろんな指示をして、とにかく大量の画像を作成しました。それを何時間もかけて選別して、動きをつけて。あとは「ラップ調」など音楽の指示を出して完成です。「残クレアルファード」は8時間くらいかけました。
――休日に部屋でひたすら制作する感じですか。
あつし そうですね。あとは仕事の昼休みにノートパソコンで一人黙々と作業を進めています。休憩時間に同僚と30分しゃべっていても生産性がないことに気づいたので(笑)。
――あつしさんを駆り立てる原動力は何ですか。
あつし 私には才能が全くないので、とにかく行動する。とにかく投稿を続けることを考えています。実際にやり始めてみると、すごく楽しいんですよ。
私自身は至って普通の人生を送ってきて、真面目に勉強して大学を卒業して、一つの会社に勤め続けることが正解だと思っていたんです。新卒で運送会社の事務職に就いたのですが、残業を80時間しても手取り20万円だった。そこで、真面目に生きているだけではダメだと、やっと気付きました。今の会社に転職する前の半年間、バイクで日本一周したり、海外ツーリングをして過ごしたのですが、旅先で出会った人は割と自由に生きている人が多くて、その影響も大きいと思います。
今はYouTubeに全力を注ぎ、最終的には脱サラするのが目標。いろんなことにチャレンジし続けたいです。
◆10万人突破したら「残クレでアルファード買います」
――歌詞の「手取り20万」は実体験でもあったんですね。今後も車関連の動画を中心に投稿を続けるつもりですか。
あつし そのつもりです。もともと車好きということもありますが、「まーさんガレージ」の切り抜き動画をやっている中で、マイカーを持たない人が増えているはずなのですが、まだ世の中には車好きな人がたくさんいるんだって実感したんですよね。だから、飽きられるまで車ネタをこすり続けようと思っています。個人的にはスズキやマツダの車が好きなので、トヨタ以外のメーカーの車の動画も投稿していくつもりです。
――「残クレアルファード」がバズったことで、パクリ動画も増えています。
あつし すごくありがたいと思っています。そもそも私も「いろはス」さんのパクリですし、私の動画がバズると同時に、「いろはス」さんの動画や登録者数も右肩上がりに伸びていて、相乗効果が生まれています。AIで同じような指示を出しても、作り手によって全く違うものができるのも面白いと思います。だから、他の人にもどんどんパクってもらって、新しいジャンルになればいいなと思っています。
――年内にチャンネル登録者数が10万人を突破したら、残クレでアルファードを購入する公約を掲げていますよね。
あつし そのつもりです。約束は必ず守りますし、それも動画にしたいと思います。
◆「残クレは情弱ビジネス」と断言
――ちなみに「残クレ」に対してはどのようなお考えですか。トヨタは月々の支払い負担が軽くなり、「ラクにかしこくクルマが買える」とアピールしていますが。
あつし はっきり言って情弱ビジネスだと思います。どう考えても賢くないでしょ(笑)。数年後に返却する時の車両価値をあらかじめ残価として保証し、残りの金額を月賦で支払うというものですが、それはきれいな状態で返却した場合のみ。歌詞でも触れていますが、事故歴や走行距離のオーバー、タバコ臭などがあれば価値は減損して、「一括で300万円お支払いをお願いします」というケースもある。全く保証されていないんですよ(笑)。会社の同僚など周囲にも残クレで車を購入している人は多いのですが、これだけは僕にはちょっと理解できないですね。
――自動車業界をいじり倒していますが、訴えられたりしませんか。
あつし トヨタのような大企業が、こんな一個人なんて相手にしないでしょう。もし仮に訴えられたとしても、それをXとかYouTubeで発信すれば、もっとバズると思うので。いや、トヨタのことは尊敬しているんですよ。マイルドヤンキーが好きそうな車を作るのが本当に上手なんで。私も15万円で購入した中古のトヨタ車に乗っていますし、今後もお世話になります!
<取材・文/中野 龍>
【中野 龍】
1980年東京生まれ。毎日新聞「キャンパる」学生記者、化学工業日報記者などを経てフリーランス。通信社で俳優インタビューを担当するほか、ウェブメディア、週刊誌等に寄稿