高級おにぎりブームの裏に「凄腕IT人材」!? “大人の遊び”が社会現象になるまで

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2025年06月22日 17:20  ITmedia ビジネスオンライン

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おにぎりサミットの様子

 近年、おにぎり専門店が提供する高級志向のおにぎりが流行をみせている。コロナ禍を契機としてブームになった背景があり、食べログの調査によると、おにぎり専門店の数は、2020年の1316店舗から2025年3月時点で2149店舗に増え、実に約2倍になっている。


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 このブームを下支えしてきた団体が、一般社団法人おにぎり協会だ。同協会は2014年に設立。日本の伝統的な食文化である「おにぎり」を、国内外に広めることを目的として活動している。


 活動の一環として、2024年から日本コカ・コーラの緑茶「綾鷹」とコラボしている。現在は、東京・渋谷にあるn_spaceでコラボ店「おにぎり食堂 綾鷹屋」を展開した(6月21日に終了)。


 また、2024年から毎年2月ごろに「おにぎりサミット」を開催し、おにぎりに関する啓発活動をするだけでなく、環境問題やフードツーリズムなどの議論を通じ、おにぎりの優秀な具材を産出する地域間の連携強化と、新たな価値創出を推進している。2月7日に開かれた「おにぎりサミット2025」では、北は北海道羅臼町から南は福岡県柳川市まで全国12自治体の首長や担当者が集った。


 なぜ、おにぎり協会はこうした活動を続けるのか。その狙いについて中村祐介代表理事に聞いた。中村代表は高級おにぎりブームの仕掛け人ともいえる人物だ。ここ数年のブームの裏側に迫る。


●編集者からデジタルマーケ職に転向 異色のキャリア


 実は中村代表は、おにぎり協会以外の別の顔を持つ。それはデジタルマーケターとしての顔だ。デジタルマーケティング企業エヌプラス(東京都千代田区)の社長も2005年から務めている。


 中村代表は小学3年生の頃、お年玉で購入した「MSX」というパソコンがきっかけで、プログラミングを始めるようになった。高校時代には、パソコン通信を通じて作家やプログラマーと交流し、大人たちとのネットワークを築いた。その際、インターネット黎明期の技術や情報収集の方法を学び、リサーチの手伝いをしていたという。


 大学時代には、インターネットが普及し始めたタイミングでWebサイトを運営し、出版社やテレビ局から注目されるようになった。そこからパソコンやインターネットに関する編集業務を請け負うようになる。特に宝島社や日経BP社を中心とした複数の出版社の通信を含めたIT、そしてビジネス専門誌を中心に編集業務にも携わっていた。


 こうした経験から、紙媒体だけでなくWeb媒体の新規立ち上げにも関わるようになり、Webサイト構築の仕事にも携わっていく。


 「当時は2000年代でしたが、既に出版業界に斜陽の空気がありました。私も出版社の人から『校正記号を覚えるよりHTMLタグ1個覚えた方がいい』と言われるほどでした。私は、HTMLタグは全部分かっていたので、出版業界でコンテンツ制作やマーケティングを学びたいと考えていました」(中村代表)


 やがて、グローバル企業などからWebサイトのプランニング・制作の仕事も引き受けるようになり、受注に法人格が必要だった経緯から2005年に自身の会社であるエヌプラスを設立する。当時、Web業界ではデザイナーやエンジニアが多かった一方で、クリエイティブディレクター(CD)やストラテジスト、プロジェクトマネージャー(PM)にあたる役割を担う人材が不足していた。中村代表も「編集者としての経験が、戦略策定やディレクション、マネジメントに役立った」と振り返る。


●「大人の遊び」から始まったおにぎり協会


 エヌプラス設立後は、Webサイト構築や企業のコミュニケーションプラン策定やブランディングなどを中心に、デジタルマーケティング業に邁進(まいしん)していく。特に海外クライアントとの仕事では、日本市場へのPRや進出支援などを策定する機会もあった。そこで日本文化や製品について雑談レベルから深い議論まで発展させる過程で、新たなアイデアやビジネスモデルを構築することが多かったという。こうした経験が、2014年のおにぎり協会設立にも生きていく。


 一方でその設立の経緯は、深く考えてのことではなかったという。


 「協会設立当初は、自分が深掘りするデジタルマーケティングの題材として面白そうだという興味関心が勝っていました。言わば利益を求めない『大人の遊び』でしたね。一般社団法人にしたのもそれが理由です。ですから、最初は極力コストをかけない形で進める必要がありました」(中村代表)


 そこで中村代表は協会のWebサイトを立ち上げ、自身の経験からブランディングとSEO(検索エンジン最適化)対策を実施。インターネット上でおにぎりについて深掘りするような検索をすれば、協会のWebサイトにたどり着くような仕組みを構築する。これにより、おにぎりに関するメディアからの取材が、中村代表に集中するようになった。このメディア露出によっても、協会の知名度は向上していくことになる。


 他にも、設立前年の2013年に和食文化がユネスコ無形文化遺産に登録されたことなども追い風となった。おにぎりが「お腹が減ったときに仕方なく食べる食べ物」から日本料理として前向きに消費する志向が高まったのもこの頃からだという。最初は「大人の遊び」として始めたおにぎり協会だったが、「だんだん遊びでなくなってしまった」と中村代表は振り返る。


●多岐にわたるおにぎり協会の事業


 おにぎり協会が現在営んでいる事業としては、おにぎりに関するイベント実施のほか、出版物などの発行、「おにぎり検定」の実施や、主に企業会員の製品に向けた「協会認定」の付与といったブランディングなど、多岐にわたる。ある製品が協会認定を受けると、協会に登録しているおにぎりファンの一般会員約5000人に向け、一斉にメールを送信する仕組みもある。


 自治体や企業向けのコンサルティング業務も展開している。例えば2024年に日本コカ・コーラが原宿で綾鷹のプロモーションイベントを展開した際、おにぎり協会が間に入ることで、豊島区北大塚にある「おにぎりぼんご」や、台東区浅草にある「おにぎり浅草宿六」など、行列ができる都内屈指の人気店とのコラボを実現させた。


 2025年4月時点で、協会の企業会員の数はパナソニックや日本コカ・コーラ、JTBなど18社。近年では自治体会員の数も増えてきている。米の名産地で知られる新潟県南魚沼市や、海苔の産地で知られる福岡県柳川市、上質な昆布を産出する北海道羅臼町や、梅の産地の和歌山県みなべ町など、11自治体が加入している。


 「おにぎりは海苔や塩という海のもの、そしてコメなどの陸のものが組み合わさっている実に島国・日本らしい料理。ただ昨今の気候変動やそれに伴う海水温の上昇、そして人口減による担い手不足などの問題から海苔不足、コメ不足、具材不足が起きています。おにぎりをこれからもおいしく食べていくためには、企業だけでなく一次生産地である地域の皆さん、そして自治体の力も必要不可欠です」(中村代表)


 企業会員の会費は、正会員で一口あたり20万円、自治体会員で一口40万円に設定し、協会の活動費に充てている。企業、自治体共に40万円以上の年会費のみでおにぎりサミットに出展できる。おにぎりサミットは2024年が初開催で、1回目の2024年が東京・大手町、2回目の2025年が東京ミッドタウン八重洲という、いずれも東京駅前の一等地で開催している。遠隔地からの交通アクセスなどにも配慮しているという。


 さらにおにぎり協会は、4月13日に始まった大阪万博を通じても、おにぎりの魅力を世界に発信していく。会員企業である象印マホービンが大阪外食産業協会のパビリオンに出店し、「万博おにぎり」を販売する。この万博おにぎりの海苔には、会員企業であるニコニコのりのものを使用するほか、会員自治体の産品も一部利用する。


 「2024年におにぎりサミットを開始して以降、特に自治体会員の数が増えていっています。おにぎりを日本の食文化として海外に発信していくだけでなく、企業・自治体間の連携向上によって、おにぎりの質向上にもつなげていきたいですね」(中村代表)


 6月末には、米ニューヨークでのデモンストレーションも控えているという。今後も広がるおにぎりの企業・自治体間連携が、海外も巻き込み、おにぎり文化向上につながるのか。大阪万博を通じてどう魅力を発信していけるのか。おにぎり協会の取り組みは続いていく。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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