ITmedia Mobileでは、NTTドコモの前田義晃社長にインタビューする機会を得た。2025年のドコモは、4月に新料金プランを発表し、5月には住信SBIネット銀行の子会社化を発表するなど、大きな動きが起きている。一方で、課題となっているネットワーク対策の現状も気になるところ。今回は、6月5日から提供している新料金プランの話題をお届けする。
●膨れ上がる販促費 指名買いを目指して“競争の構図”を変える狙いも
―― 新料金プラン「ドコモ MAX」「ドコモ mini」の反響について教えてください。
前田氏 6月5日に始まって、お申し込みいただいた数自体は、まさに計画通りですね。悪くない出だしだと感じています。プラン自体のご評価については、DAZNでスポーツ見放題の特典や、ローミング30GB、Amazonプライムの(最大6カ月間無料の)施策などが高く評価されています。eximo ポイ活からドコモ ポイ活 MAX移行している方も、予想以上に多い印象です。
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―― 弊誌でドコモの新料金プランについて読者アンケートを取ったところ、この企画の中ではかなり多い、2000件を超える回答が集まりました。それだけ、ドコモの料金プランに関心の高い読者が多いということが改めて分かったのですが、残念ながら、約78%が「魅力的ではない」という回答でした。この結果は、実態とは乖離(かいり)しているのでしょうか。
前田氏 確かに今回の料金プランは、お客さまに共感いただけることが前提になります。KDDIさんも同様ですが、今の経済環境を考えると、通信料金は一定程度上げていかなければならない時期に来ていると認識しています。では、それをどう実行していくのか。単純な値上げではお客さまにご理解いただくことは難しいでしょう。そのため、付加価値を加えることで、全体の価格をご理解いただきたいと考えています。
もう1つは、ネットワーク強化の必要性ですが、通信サービスは各社が努力すれば、品質は均質化していきます。そうなると、お客さまの獲得競争は、端末の値下げや、販売チャネルへの販促費投入といった形になります。例えば、弊社が販促費を大きく投じて200数十万の契約を獲得しても、他社も同様に200数十万を獲得してきます。
昨年度(2024年度)、弊社は4000億円以上を販促費に投じていますが、他社も同様でしょう。互いに多額の販促費を投じているため、拮抗(きっこう)状態に陥り、実質的な利益はそれほど得られません。
この4000億円以上の費用を今後も投じ続ける必要がありますが、もし他社が5000億円を投じれば、それに追随しなければシェアが低下し、モバイル通信収入も低下します。あまりいいスパイラルに入っていけないため、付き合わざるを得ないわけです。
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正直なところ、この構造の中だけで事業を継続するのは難しいと感じています。販促費への投資は一定必要ですが、お客さまに価値を提供することに、より多くのお金を投じていきたいと考えています。
今回の新料金プランが「スポーツに特化している」と揶揄(やゆ)されることもありますが、スポーツに多くのファンがいらっしゃいます。サッカーの競技人口も含めてそうですし、野球もバスケットボールも同様です。
サッカーを例にすると、J1からJ3までの試合を全て視聴できるのはDAZNだけです。DAZN for docomoで4200円を払わなければ見られません。これだけのコンテンツを見たいというニーズに応えたい。プロダクトとお客さまのニーズをうまく結び付けたいと考えています。
これが実現できれば、ファンの方々から「ドコモのサービスを使いたい」と、ある種の「指名買い」の状況を作り出すことができます。われわれはその指名買いしていただける価値に投資をしたい。つまり、競争の構図を変えていきたいのです。料金プランというよりは、サービスプランとして、どういうものを提供できるかを、これからの競争の軸にしていきたいですね。
スポーツ以外の価値を、今後増やしていくことはもちろん検討を進めていますので、ご期待いただければと思います。
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―― ドコモ MAXには月額4200円のDAZN for docomoがバンドルされていますが、eximoとの基本料金の差分は1133円であり、ドコモの持ち出しが多くなるように見えます。DAZNとの価格交渉の中で、収益に影響が出ないように調整されているのでしょうか。
前田氏 先ほどもお伝えした通り、サービスを提供するときにかかるコストは、原価だけではありません。固定費も販促費も含めたトータルコストの中で、どのようにモデルを構築するかです。4000億円もの販促費が使われていることを考えると、販促費を投じなくても、より効率的に指名買いで獲得できるのであれば、DAZNさんにお支払いする金額を差し引いても、トータルの負担は効率化されます。われわれとしては、マーケティングを効率化する一手だと考えています。
●既存プランの値上げは現状考えていない
―― 読者からは、オプションのないシンプルな使い放題プランも欲しいという意見も挙がっています。サービスがフルに付いたプランをメインに据えていますが、オプションなしのプランは考えなかったのでしょうか。
前田氏 全体の価格戦略としては、一定程度値上げをしないといけないので、価値を加えたプランを主軸にすることを考えました。おっしゃる通り、シンプルなプランをお求めになる方がはいることは理解しています。そういった意味では、無制限ではありませんが、ahamoは引き続き提供しています。eximoは新規受付を終了しましたが、既存のeximoやギガホをお使いのお客さまには、今後ドコモ MAXにどのような価値が加わるかを見て、ご判断いただければいいと考えています。
以前のプランを急に値上げしたり変更したりすることは、現時点では考えていません。お客さまには新料金プランを徐々にご理解いただきながら、ご利用いただけたらと思います。
―― KDDIは、既存プランを8月以降に値上げすることも発表していますが、ドコモは、ahamoやeximoなどの値上げは現状、考えていないと。
前田氏 現時点では予定していません。非常に難しい問題だと認識しています。「値上げします」となると、お客さまに納得いただく必要があるので、お客さまの環境を注視しながら慎重に考えていきたいと思います。
●irumoの0.5GBプランがなくなっても競争力には影響ない
―― irumoがなくなり、0.5GBを選べなくなりました。これによって対サブブランドの競争力が下がる懸念がありますが、低容量〜中容量帯の競争についてはどう見ていますか。
前田氏 サブブランドでもそこまで低いプランは提供されていないので、0.5GBプランを廃止したことが、それほど不利に働くとは考えていません。確かに、そういうプランを求める声があることは理解していますが、irumoの0.5GBプランのユーザーの約半分は「キャリアホッパー(頻繁にMNPでキャリアを乗り換える人)」でした。また、使われるデータ量は上がっているので、0.5GBを超過する方もかなりいらっしゃいます。トータルで見てもトラフィックは毎年2割ずつ増えていることを考えると、0.5GBプランを残し続けることに、それほどの効果があるのかと疑問に感じています。
もちろん、お客さまにしっかりご理解いただけるようマーケティングをする必要があります。irumoをご利用中のお客さまは、引き続きプランをご利用いただけますし、「ドコモ mini」の初速もまあまあ良い感じです。特に4GBのところはしっかりご支持いただいています。
―― ドコモ miniも想定通りということですね。一方で、割引の条件に「ドコモでんき」の契約もあり、割引のハードルが上がっています。
前田氏 割引の割合は増やしていますけどね。できる限りリーズナブルにご利用いただきたいと思っていますが、そのリーズナブルな状況を通信の部分だけで作っていくのが、なかなか難しいですよね。トータルで利益を最大化していく中で、どうやってサービスを開発していくか。組み合わせで使うことで、お得になる部分もあるので、そういうスタイルを理解いただきながら、便利でお得に使っていただきたいと思います。
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