なぜ航空会社がサブスク? 飛行機乗り放題が“ほどほど条件”になった理由

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2026年05月18日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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航空会社のサブスクが再び登場

 サブスク全盛の昨今。定額でサービスが利用し放題というビジネスモデルは、Netflixなどの動画配信サービスに限らず、あらゆる業界に広がっている。


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 「飛行機のサブスク」もその一つだ。


 台湾の格安航空会社(LCC)、タイガーエア台湾が3月、台湾の航空会社としては初となるサブスクの販売を始めた。最安プランでは、毎月1588台湾元(約8000円)を支払うと、年4回、往復航空券と交換できる。


 日台間の往来が活発になる中、複数の日本路線を運航する同社のサブスク導入は、利用者の間でも話題となった。


 LCCが主導する「飛行機のサブスク」だが、どのような狙いでサービスを展開しているのだろうか。はたして利用者にとって、“お得”といえるのだろうか?


 航空業界に詳しいトラベルジャーナリストの橋賀秀紀さんに話を聞いた。


●意外と古い? 航空サブスクの歴史


 航空会社の乗り放題サービスは、国内ではコロナ禍に登場したものが記憶に新しい。


 ピーチ・アビエーション(大阪府泉佐野市)は2021年11月の1カ月間、最安1万9800円で国内全路線が乗り放題になるサービスを販売した。フジドリームエアラインズ(静岡市)は2021〜22年にかけて、2〜3日間限定の乗り放題サービスを販売していた。


 「実は、航空業界のサブスクは今に始まったものではなく、古くは1970年代から、形を変えて存在していました」(橋賀さん)


 当時、米国の航空業界では規制緩和が進み、その一環として外国人旅行者向けの「周遊券」といった乗り放題パスが登場した。ユナイテッド航空やデルタ航空、ノースウエスト航空(当時)などは、海外から米国を訪れる観光客向けに、30日間などの期間限定で国内線を自由に利用できるパスを販売していた。


 1980年代には、アメリカン航空が「AAirpass」という型破りのサービスを打ち出した。


 約25万ドル(当時の為替レートで約5500万円)を支払えば、生涯にわたってファーストクラスに乗り放題となる破格のプランだった。しかし、このプランは後に航空会社にとって大きな誤算となる。


 「中には、1人で1万回以上利用した人もいました。ランチを食べるためだけに米国から欧州へ飛ぶといった使い方もされ、結局は航空会社の想定を大幅に上回るコストが発生し、継続困難になりました」(橋賀さん)


 こうした失敗もあり、1990年代以降、航空会社の乗り放題サービスはほぼ姿を消した。


●航空会社が損をしない「サブスク」


 一度姿を消した「航空サブスク」が、再び注目され始めたのはコロナ禍前後のこと。背景には、航空会社のデジタル化と、コロナ禍による需要低迷があった。


 「かつては旅行会社経由の販売が中心でしたが、現在はほとんどがオンラインに移行しています。航空会社が自社サイトでチケット販売をコントロールできるようになり、サブスクを提供しやすい環境が整ったといえます」(橋賀さん)


 また、2020年頃からはマレーシアのLCC、エアアジアが積極的に展開。先述した日本のLCCが2021年以降サービスを始めたのは、コロナ禍で落ち込んだ需要を底上げしたいという狙いがあったためだ。


 ただ、現代のサブスクはかつてのアメリカン航空のような「大盤振る舞い」とは性質が異なる。航空会社は過去の失敗から学習し、「企業側が損をしない、逆にいえばユーザー側が得をしすぎない」(橋賀さん)絶妙なラインで条件を設定している。


 「航空会社が最も避けたいのは、安いサブスク利用者で席が埋まり、より高い運賃を払ってくれるはずの顧客を逃すことです。


 そのため、現在は多くのプランで『予約は10日前から』といった制約を設けています。これは、出発直前になっても空いている席、つまりそのまま飛べば“空気”を運ぶだけになる席をサブスク客に割り当てることで、収益性を確保しているのです」(橋賀さん)


●タイガーエア台湾が狙う「PR効果」


 3月から新たにサブスクの販売を始めたタイガーエア台湾も、こうした先行事例を精査した上で導入していると考えられる。最安プランの「Team Lite」は、毎月1588台湾元(約8000円)を支払うと、年4回、往復航空券と交換できる。


 ただ、仕組みはもう少し複雑だ。このプランは、片道運賃につき最大4000元(往復計8000元)までをカバーするもので、運賃がこの上限を超える場合には、その差額を別途支払う必要がある。つまり、完全に無料で搭乗できるわけではなく、あくまで「一定額まで使える運賃割引券」を定期的に購入するイメージに近い。


 また、他の航空会社のサービスと同様に、空港でかかる諸税や予約手数料などは月額料金に含まれておらず、チケットの引き換え時にその都度支払う必要がある。


 「年間4回以上、台湾に行かないと元が取れない設計になっている。セールを狙えばもっと安く行ける場合もあるため、万人向けのサービスというよりは、決まった頻度で確実に台湾へ行きたいコアな層に向けたものといえるでしょう」と橋賀さんは指摘する。


 航空会社にとって、サブスクは直接的な収益以上に「PR効果」としての側面が大きいと橋賀さんはみる。


 「タイガーエア台湾の今回のプランは、日本と台湾の双方で話題になること自体が、社名の認知度を高める広告として機能します。サブスクという言葉の響きは、それだけでSNSなどで拡散されやすく、検索エンジンの上位にも上がりやすくなる。航空会社にとって、こうした話題作りはマイナスにはなりません」


 また航空サブスクは、いわゆるレガシーキャリアよりも、LCCとの親和性が高いといえる。


 「レガシーキャリアはブランドイメージを考慮し、安売りを連想させるサブスクには慎重です。一方、LCCにとっては空席を効率よく埋められるだけでなく、『安さ』や『お得感』を打ち出すPR材料としても機能します。『面白いことをやっている』という社名の拡散効果は、企業にとって大きなメリットになるのです」(橋賀さん)


●航空サブスクの行方は?


 今後、航空業界のサブスクはどのような方向に進むのか。橋賀さんは「条件がものすごく良いものは期待しにくいが、限定的な形での導入は続くのではないか」と予測する。


 「航空サブスクは、居住地に依存するサービスです。例えば、特定の地域の路線をよく使う人や多拠点生活をしている人など、ターゲットを絞った形での展開は考えられます」


 足元ではイラン情勢の緊迫化に伴う燃油価格の高騰など、さまざまな不安要素もある。


 「大盤振る舞いの乗り放題サービスはもう出てこないでしょう。しかし、航空会社にとっては空席の有効活用になり、利用者にとっては特定のライフスタイルにおいて選択肢の一つになる。そんな『持続可能なほどほどのライン』でのサブスクが、今後の主流になっていくのではないでしょうか」(橋賀さん)


 想像以上にシビアで合理的なバランスの上に、現在の航空サブスクは成り立っているようだ。


(濱川太一)



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  • 空を飛ぶ 街が飛ぶ 雲を突き抜け 星になる。この場合、星になったらちょっとまずいよね。あ、TOKIOと思ったでしょ?O・EDOでした!
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