中国フリマアプリで「柴犬」と検索すると、多数の出品が出てくる市場規模7兆円を誇る中国ペット業界で今、信じられない事態が起きている。大人気の「柴犬」がフリマサイトで投げ売りされ、劣悪な環境で取引されているというのだ。命を軽視する恐るべきペットビジネスの裏側とは?
◆死んだ犬まで販売!悪質すぎる柴犬ビジネス
ペットブームが拡張し続ける中国では、市場規模はこの20年で50倍にまで成長し、現在は7兆円以上となっている(中国ペット業界調査機関「亜寵研究院」調べ)。同国では現在、1億2600万匹ものペットが飼育されており、ペットショップやブリーダーも増加の一途をたどっているという。
こうしたなか、信じられない事態が起きている。中国事情に詳しいライターの広瀬大介氏は言う。
「日本原産の柴犬は世界的に人気となっていますが、中国でも都市部で“無駄吠え”が少なく、都市型住宅にフィットする大きさから近年、需要が高い。しかし今、その柴犬が劣悪な環境で扱われ、飼育放棄された個体が投げ売りされているんです。とくに中国フリマサイトでは、汚いケージに複数匹が押し込まれている出品画像も堂々と掲載されているんです。さらに死んだ柴犬まで“標本”として売られるケースもあり、思わず目を背けたくなります」
記者も中国版メルカリと呼ばれる「閑魚」で「柴犬」と検索すると、数多くの出品がヒットした。ちなみに日本のフリマアプリではペットの売買は禁止されているが、中国では可能だ。
◆妊娠中のメス犬も「まとめて販売します」
まず、男性に抱えられた2匹の柴犬の写真を掲載していた出品者の説明文を見てみた。
<豆柴・柴犬、自家繁殖。お好きな方はどうぞ。お引き取り可能、地方発送可能、健康保証、輸送リスク保証、送料は自己負担、生体の特性上、子犬は発送後の返品・返金はできません>
一方、ケージの中に5〜6匹の柴犬が押し込まれた画像をアップしていた出品者はこう書いていた。
<柴犬のオス譲渡。2歳過ぎで交配力旺盛。メス犬も1匹おり、2匹まとめて引き取ってくださる方。メス犬は少し逆さまつげがありますが、繁殖には影響なくこれまでに2回産んでおり、現在妊娠中です。気になさらない方はどうぞ。表示価格は犬2匹分の値段です>
ブリーダーもいるようだ。写真には、排泄物の清掃がされず不衛生な環境でケージに押し込まれたし複数匹の犬がいるではないか。
<柴犬・豆柴を専門に繁殖しています。自家犬舎での繁殖のため健康保証付き、どの子もワクチン接種済み・体内外の駆虫済みです。性格はおとなしく甘えん坊で、ご家庭での飼育に適しています。直接のお引き取りに対応しており、発送対応も可能>
他にも「長期出張のため飼えなくなった」「ペットが増えすぎた」など、個人による出品もあった。価格は生後3か月以内の子犬で2万〜2万5000円前後、成犬は数千円のものが多い。中国事情に詳しいジャーナリストの周来友氏は言う。
「柴犬はTikTokなどショート動画で世界的にバズっていたことに加え、昔から映画『ハチ公物語』が人気で(※編集注:ハチ公物語のハチは秋田犬)、数年前に中国版リメイク作品が公開されたこともあり、中国でも売れ筋となっています。十年ほど前までは大型犬がブームで、希少な大型犬・チベタン・マスティフが数億円で取引されることもありました。しかし、噛傷事件が相次いだり、ノーリードで散歩させるマナー違反が多発したりしたことで、都市部で大型犬の飼育が条例で禁止されるようになりました。こうした事情が重なり、中国でペット犬=柴犬となったのです」
◆普通の宅配便でそのまま発送
さらに実態に迫るべく、複数のブリーダーに接触してみた。
まず返信があったのは遼寧省で柴犬を専門的に扱うブリーダー。この業者は50匹近い柴犬を出品しており、価格帯も約4000〜3万円と幅広い。メッセージで問い合わせたところ、「子犬は8000円。我々の飼育場所まで引き取りに来てくれてもいいし、郵送もできますよ」との返信があった。この業者は豆柴の動画を送ってきたのだが、怯えた表情を見せ、身体はずっと震えていた。
配送について、さらに具体的に聞くと、驚愕の返答があった。なんと「ケージに入れて一般の荷物として送ります。郵送費用はそちら負担でお願いします」と説明したのだ。
「柴犬ペット人気に便乗した悪質なブリーダーが増えており、コストを抑えるためにワクチン接種もせず、劣悪な環境で飼育させている業者も多数、存在しています。また売れたペットを一般の荷物として郵送するケースも中国では日常茶飯で、5年前に通常宅配便で送られたペットの大量死事件が社会問題になったにも関わらず、現在も堂々と行われています。数千円で販売されている子犬の場合はかなり怪しい。ワクチンを接種させ飼育をしていればこんな低価格にはならないはずです」(周氏)
さらに、なんと1400円という激安価格で生後2か月の柴犬を出品していた人物にメッセージを送ると、「地方に引っ越すことになったんだけど家に犬が多すぎて、一部を処分したいから」と返事があった。
「これは詐欺ブリーダーとみて間違いないでしょう。高額な輸送費を別途、請求してきたり、犬がすでに感染症に罹患しているケースかと思われます。こうした犬は購入後、数週間で死んでしまうので『星期狗(週間犬)』と呼ばれています」(広瀬氏)
◆興奮剤を投与して元気な様子を撮影
中国でのペットの低価格化競争の裏では、ワクチン未接種にもかかわらず証明書を偽造したり、撮影時に興奮剤を投与して元気に見せたりする手口も横行しているという。動物虐待が堂々と行われている中国だが、法整備が追いついていないようだ。
「中国には、日本で言う動物愛護法などの法律がまだ存在せず、動物虐待に関しては治安管理処罰法などを間接的に適用している状況です。摘発のハードルも高く、悪質ブリーダーが処罰される可能性が低いのが現実です。フリマサイトなどのプラットフォーム側も見て見ぬふりで野放し状態。中国国内では動物愛護団体も増えているので、こうした状況が改善されればいいですが……」(同)
日本人にとって特別な思い入れがある柴犬が、こんな凄惨な状況に置かれていることに胸を締めつけられる。こうした状況が一刻も早く改善されることを望むばかりだ。
ジャーナリスト・周 来友氏
1963年、中国生まれ。ジャーナリスト。1987年に来日、東京学芸大学大学院を卒業。テレビや週刊誌で中国事情について論評している