※画像はイメージです いまや退職はビジネスと化している。制度を悪用して1円でも多くぶんどって辞めようとする退職者を助長する退職コンサル業者。そこに対抗して予防線を張る経営者——。退職をめぐる“仁義なき争い”の実態を追った!
◆退職コンサルが入れ知恵、給付金を限界まで搾取!
退職代行がブームになるなか、すんなり辞めるだけでなく、退職にまつわる制度を逆手に取り、利益を享受しようとする会社員まで現れている。そして、彼らに悪知恵を授けているのが、「退職コンサル」を名乗る業者だ。
「在職中に『眠れない』『食欲がない』などと医師に訴えて診断書を会社に提出し、傷病手当を申請しました。そのまま退職したので失業保険まで受給でき、もう2年ほどブラブラ実家暮らししてます」
そう語るのは、加藤俊樹さん(仮名・29歳)。彼は退職時に退職コンサル業者を利用し、「給付金を最大化するスキーム」を指導され実行した。
「『会社とは争わず、弱った姿勢を取るように』と言われました。淡々と、心身が限界な様子を演じろと。そうすれば、会社は反論できないと」
コンサル料は55万円と、決して安くない金額だが……。
「コンサルからもらった試算では、傷病手当として毎月給与の8割が最長1年半支給される。その後に退職し、年収270万円だったので失業給付が続くことで総額200万円から300万円に達すると。安いものだと思いました」
◆コロナ給付金から休職の繰り返しの指南まで
さらに、「オプション」も指南されたという。
「住民票を移して一人暮らしを証明できれば、家賃補助が出る自治体もある。さらに、緊急小口資金や総合支援資金といったコロナ禍で拡充された制度も『利用できる可能性がある』と紹介されました」
ただし他の給付との併用は条件次第で、すべてが通るとは限らない。しかし、「そこは細かく説明されず、とりあえず全部いただいてしまえというノリでしたね」という。
社会保険労務士の田中豪氏は、次のように語る。
「たとえば『休職は最長6か月』という社則を逆手に取ってギリギリで復職し、すぐに再休職することで、長期間にわたり傷病手当金をもらい続ける人も少なくありません」
よって、一定期間内に繰り返される休職を「通算」する制度が広まりつつある。
「『当初の疾患に起因する類似・同様の病気による休職も通算対象とする』条項を追加するなど、より厳密な制度整備を行う会社もあります」(同)
◆あまりの“脱法”ぶりに思いとどまる人も……
一方、退職コンサルに相談しながらも一線で踏みとどまったのは、岸由香さん(仮名・39歳)だ。
「制度を知らないと損するっていう文句に、正直ちょっと心が動いたんですよね」
だが実際に面談を受けてみると、業者は前出の加藤さんと同様に「仮病」を提案し、そのうえで「障害認定」にまで言及してきたという。
「うつ病や適応障害で休職状態が続けば、障害年金の対象になる可能性もある。『障害等級2級』が取れれば月に10万円以上が支給されるが、これは失業保険と重複しない別枠のため、さらに上乗せも可能という説明でした」
ただし障害認定は通常は非常にハードルが高いため、「提携しているクリニックを紹介する」とも説明されたという。心身共にいたって健康であると自任していた岸さんは、抵抗感を拭えなかった。
「やたらと『違法じゃない』と強調してくる点も、怪しくて……発覚したら再就職が不利になる不安もありました」
◆“怪しい”業者に振り回される企業
とりあえず岸さんが資料を要求すると、業者は「この場で決められないなら、もうやめましょう!」と“逆ギレ”し、説明を打ち切ってきたという。
「いくらなんでも、品性までは失いたくなかった……。ただ、もし困窮していたら藁にもすがる思いで利用してしまったかもしれません」
労務問題を専門とする弁護士の米澤章吾氏は、こうしたケースへの対処法を話す。
「仮病のみならず、職場での些細な不満をきっかけに診断書を取り、労災申請を行う人も増加しています。申請が認められると、企業側は就労していない社員にも一部給与の支払いを強いられます。企業としては、業務起因性を否定するために労働基準監督署に意見書を提出し、問題のなかった労務管理体制を証明する必要がある。その後の調査に対しても、事実に基づいた説明ができるよう準備しておくことが不可欠でしょう」
制度を悪用し、“働かないこと”で稼ぐ者たちを野放しにしていいのだろうか。
【社会保険労務士・田中 豪氏】
田中豪事務所代表。社労士のほか精神保健福祉士、一級建築士など多様な立場から労務コンサルティングを行う
【弁護士・米澤章吾氏】
米澤総合法律事務所代表。サラリーマンを経て’06年に司法試験合格。労働問題を中心とし、足利事件などの再審事件弁護団にも参加
取材・文/週刊SPA!編集部
―[泥沼[退職バトル]の舞台裏]―