
2児の母であるSayakaさん(@saya_cono)が、コインランドリーで遭遇した出来事をThreadsに投稿。怖い思いをしたエピソードを紹介しています。
Sayakaさんがコインランドリーに行ったところ、洗濯物を畳むためのテーブルで、洗濯を終えたスキーウェアらしきものに防水スプレーを吹きかけている中年男性が…。
窓は閉まって密室なのにお構いなしの様子。「もしかしたら防水スプレーではないのかも…」と思ったものの直接は言えず…「こわっー!」と思いながら抱っこしている6ヶ月の娘さんと慌てて外に出ようとしたところ、同じ空間内で絵本の読み聞かせをしている赤ちゃん連れのお母さんがいたのです。
「外で使ってもスプレーする時は息を止めてやってます」
「吸い込まないようにあんなに臭いニオイにしていると聞いたことがある」
「説明書読まない人多い!」
「こわっ。いえでやれよ、ですね…」
「スプレーの粒子が肺に入って肺胞に付着すると、吸った空気を血液に渡すことができずに呼吸困難や肺炎などの肺障害を起こすようです」
など、おじさんの非常識な行動に驚いた方や、危険性をコメントしてくれる方も。
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「密室で使って吸い込んだ人が窒息死した事故。知らないのかな?乾燥機ガンガン回ってるから、爆発の危険性もあるのに…明日でもコインランドリーの管理者に連絡してみようと思います」と防水スプレーの使い方を危惧。
今回、投稿主のSayakaさんに当時の状況を、そして一般社団法人日本エアゾール協会(東京都千代田区)に防水スプレーの危険性について取材しました。
未然に事故を防げたら…という思いで投稿
――この時はどういった目的でコインランドリーに?
自宅で洗濯した衣類、シーツや毛布などをまとめて乾燥機に入れに行きました。14時ごろの昼間で、当日は特に天気が悪いわけではなかったのですが、私の花粉症もあり、大量のシーツ、毛布等、一気に乾かしたい!という感覚でした。
――おじさんはどういった様子で防水スプレーを?
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私がコインランドリーに入ったタイミングでシューシューしていたように感じます。洗濯物を乾燥機に入れながら、「あれ?さっきのは防水スプレー?あれ?赤い分厚いのはスキーウェア?あれ?こんなところで危なくないか?」と頭でグルグル考えていました。花粉症もあるからか、その時に匂いはそこまで感じていませんでした。
――同じ空間にいらっしゃった親子さんにお声をかけたことも英断であったかと。
親子さんは全く気づいていない、気になっていない様子でした。コインランドリーに入った時に、「娘と同じくらいの子が居るな〜」と視線には入っていたんです。
奥に進むと「スプレーをしている人がいる!?え?危なくないか?でも、違うかもしれないし…でも、もしそうだったら、赤ちゃん、危ない!」と思い声をかけました。
うまく伝えられたかは謎でしたが、少し不思議そうな表情を見せつつ、ランドリーの外に出てくれていたので安心しました。
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「余計なお世話すいません!違うかもしれないけど…多分、防水スプレー使ってて。吸い込んだら体に悪いから外に出たほうがいいですよ」と伝え、外に出たそうです。
――その後Sayakaさんは?
外に出た後、乾燥機終了まで40分ほどあったので、近くのお店に買い物へ行きました。スプレーをしていたことが気になったので、2時間程後に洗濯物を取りに行きました。その時は特に匂いなどはありませんでした。
――コインランドリーの管理者さんに連絡などは?
管理会社に連絡をしようと思ったのですが、確実に防水スプレーとは言い切れなかったので、連絡はしませんでした。
――Sayakaさん親子も、もう一組の親子さんも被害がなくて良かったです。
今回、思いのほか反応があって驚きました。コメントを下さった方は防水スプレーの危険性を把握されてる方が多く居ましたが、知っているからコメントしてくださるんだろうな…と。Threadsに投稿して、どこまでの方が読んでくださるかは分かりませんでしたが、未然に事故を防げたらいいなぁと思っていました。この記事をきっかけに、正しい使い方が広まると良いなと思います。
防水スプレーの危険性は?「事故報告は届いています」
エアゾール製品に関する調査や研究、正しい使い方や捨て方の周知を行っている一般社団法人日本エアゾール協会に危険性や注意点などについて聞きました。
協会によると、防水スプレーの使用時にスプレーの細かい粒子を吸い込んでしまうと、撥水性の樹脂が肺に付着することで健康被害の恐れがあるとのこと。咳が出る、気分が悪くなる・吐き気、呼吸困難、息苦しくなるなどの症状が起こりうるのだそうです。
――今回のように密室である上に、乾燥機など熱を帯びた機械も並んでいたと想像しますがその危険性は?
換気が不十分な屋内で使用すると、局所的に撥水成分や溶剤の空気中濃度が高くなる場合があります。その場合、噴霧者を含む同一室内にいる人へのばく露量(化学物質や有害な物質にさらされる量)が増加し、健康への被害が大きくなる危険性が高まります。
そして、防水スプレー製品の中には引火性の高い成分で出来ているものがあります。そのため一度に大量に使用すると電気製品の漏電や静電気により引火や爆発する危険があります。
ちなみに、防水スプレーなどのエアゾール製品は、高温となる場所に保管されると破裂する恐れがありますので、40℃以上になるところには置かない事になっています。
――かなり危険な空間となっていたのですね。「誤った使用を防ぐためにわざと独特なニオイ」と聞いたこともあるのですが…。
国内メーカー各社さまは、安全性を確保するために厚生労働省医薬局が発行した「家庭用防水スプレー製品等安全確保マニュアル作成の手引」(※)に基づき製品設計をされております。ニオイについての基準までは設けておりません。
そのためメーカーさまによっては独自でそのような工夫をされているかもしれませんが、当協会では把握できておりません。製品によっては撥水成分を溶かす為に配合されているアルコール系溶剤や石油系溶剤によって独特なニオイとなっている製品もございます。
――風通しの良い屋外で、短時間で塗布し終えるのが良さそうですね。
防水スプレー製品も最近は多岐に渡り開発されています。以前は塗布するものとしてスキーウエア等が主流でしたが、水をはじき汚れにくい撥水剤(フッ素樹脂・シリコーン樹脂等)を成分に使い、鞄・靴・傘・テントに…と用途の広がりを見せています
防水スプレー製品のスプレーパターンは広範囲系が多く、洋服にスプレーした場合、その周囲にも防水スプレー製品の成分は浮遊します。これを吸い込む事で息苦しくなる事があり、この原因を厚生労働省医薬局と共に調査、実験をして安全な製品設計基準を定めております。
――ちなみに、消費者からスプレー使用後の体調不良のご相談などは?
直接の体調不良等の問い合わせはありません。ですが、協会には厚生労働省 医薬局 医薬品審査管理課 化学物質安全対策室より事故報告が届きます。
防水スプレー製品での吸い込み事故については当局と連携して対応を実施しています。当協会も事故防止に係る独自の自主基準を作り遵守させていますが、残念ながら海外製品(輸入品*)は使用上の注意等の表示がなく、国内安全マニュアルに則った製品ではありません。
*国内の防水スプレー製品消費は500万本程度(国内流通エアゾール製品5.5億本)、そのうち輸入品の防水スプレー製品は30万本予測
――なるほど、海外製品については盲点でした。
我々が定めた2014年の安全マニュアル作成以降、2015年11月〜2024年迄の調査で47件もの吸い込みによる症例報告があります。調べでは、やはり「密閉空間」での使用が原因です。
換気扇を回して扉を開けて…としていても、狭い空間での使用によって起きています。風向きが変わることもあります。「いつもこの場所で(密閉空間で)使っているので大丈夫」との思い込みもあるようです。マスクを必ず使用し、使用上の注意事項をお守りください。
「防水スプレーの正しい使い方」
・必ずマスクを着用して屋外で使用する
・屋外で風上から風下に向かって使用する
・顔の近くでスプレーしない
・一度に大量に使用しない
・身に着けたまま使うなど、顔の近くでスプレーしない
・子どもやペットの側で使用しない
・火気の近くで使用しない
防水スプレーでの事故…どんな事例が?
危険性についても伝わるように消費者庁のホームページでも防水スプレーによる吸い込み事故事例が紹介されています。
「狭い玄関で戸を閉めて、10分ほど防水スプレーを使用した。10時間以上経過しても呼吸困難感や悪心が続くため受診した」(20歳代)
「玄関のドアを開けて防水スプレーを靴にかけていると、風向きが変わり、霧を吸い込んで呼吸困難になった」(40歳代)
「閉め切った車内で靴に防水スプレーを使用した際、吸い込んだ。呼吸が苦しくなり、受診して入院となった」(70歳代)
「閉め切った室内でレインウェアやリュックに防水スプレーを多量に使用した。発熱、呼吸困難があり、入院となった」(50歳代)
「新しく購入したソファに、室内でマスクを着用せずに、防水スプレーを1本分使用した。使用した本人と部屋にいた家族2人に発熱などがあり受診した」(40歳代)
どのシーンも日常生活の中でよくある場面であり、防水スプレーを使う環境によって呼吸器に大きな影響を及ぼしていることがわかります。
また、2023年に事務所で、ガス抜き作業後にガス爆発が起こったのも記憶に新しいところ。使用方法だけでなく、捨て方にも注意が必要です。引き続き、日本エアゾール協会に教えてもらいました。
スプレー缶の正しい廃棄方法の確認を
――スプレー缶はその捨て方が大きな事故や危険に繫がることもあるかと。改めて捨て方のポイントは?
中身が残っている状態で、不要になった防水スプレー製品を空にする場合は、必ず屋外でマスクを着用して安全に処理してください。協会のYouTubeで詳しく説明しています。
エアゾール製品の多くは、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)などの可燃性ガスを噴射剤として使用している為、中身が残っているエアゾール製品の容器に、不用意に穴をあけたり、中身が残ったまま「ごみ」に出すと、火災や破裂事故につながることがあります。
例えば、使い切れないスプレー製品を「換気扇があるから…」とキッチンのシンクで缶に穴を開けると、この穴から自分が思っている以上に遠くまで勢いよく燃焼ガスが噴き出し、コンロ・ストーブの火種で火災となります。
国内のスプレー缶の90%はLPG(プロパンガスとブタンガスの混合)を使用しています。このガスは可燃性で空気より重い性質です。換気扇は役立ちません。必ず屋外で火の気の無い場所でボタンを押して空にしてください。ガス抜きキャップがある場合は利用し、完全に空にしてから穴あけをしてください。
――正しく使って、正しく捨てることが大切ですね。
本協会には「エアゾール製品の捨て方」についての問い合わせが1日約5件、年間で約1200件ございます。
お電話をくださる一般消費者さまのほとんどの方が、お住まいの自治体に相談後に当協会の電話番号を聞き、問い合わせをくださっています。
そのことからも、昨年から各自治体ホームページや、各家庭に配布する「ゴミ出しのルール」の紙にYouTube動画「エアゾール製品の正しい捨て方」のリンク掲載を依頼しています。ぜひもっと多くの方々に動画を見ていただけたらと思います。
◇ ◇
お話を聞いて、コインランドリーでの防水スプレーがかなり危険な行為であることがわかりました。機転によってSayakaさん親子、もう一組の親子さんが無事で何よりです。公共の場での分別のない行動は控え、誰もが防水スプレーの使い方を見直す必要がありそうです。
これから梅雨に入り、ゲリラ豪雨や台風など雨量の多い季節に。アウトドアやキャンプ、登山やフェスなどのオンシーズンにもなります。防水スプレーを噴霧する機会が多くなりそうですが、あらためてスプレーする環境と用法の確認を。使い終わったら適切に処理し、各自治体の分別方法に従って捨てるようにしましょう。
(※)厚生労働省「家庭用防水スプレー製品等安全確保マニュアル作成の手引(第3版)」
(出典)消費者庁ウェブサイト「コラムVol.13 防水スプレーの吸込み事故に注意!
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)