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サブスク市場が拡大を続ける一方で、撤退するサービスも後を絶たない。とりわけファッション領域は黒字化の難易度が高く、コストの壁を超えられず撤退した企業も目立つ。そんな中、創業から10年で初の黒字化を達成したのが、エアークローゼット(東京都港区)だ。
同社が運営する「airCloset」は、プロのスタイリストが利用者の好みに合わせて選んだ服を、月額制で届ける女性向けファッションレンタルサービスだ。月額料金は7980〜1万3980円で、プランに応じて1回につき3着または5着のコーディネートが届く。
2015年にサービスを開始し、2022年に東証グロース市場へ上場。月額有料会員は4万人を超え、登録会員数は140万人を突破している。6カ月以上利用するユーザーの月次継続率は94%を超えており、一度使い始めると長く利用し続ける傾向が強い。
2025年6月期は、売上高が49億5700万円(前期比17.6%増)、純利益が2300万円と、創業来初の黒字化を達成した。同社社長の天沼聰氏は「アパレル大手の傘下ではない独立系ファッションレンタル企業で、黒字化しているのは当社だけ」と語る。
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しかし、ファッションサブスクは通常の小売やECとは根本的にコスト構造が異なり、参入企業の大半が数年以内に撤退を余儀なくされてきた。なぜ、この事業モデルは利益を出しにくいのか。そして、エアークローゼットは何を変え、黒字化を実現したのか。
●「送れば送るほど赤字」の構造
ファッションサブスクの収益化は、なぜ難しいのか。最大の要因は、通常の小売やECとは比較にならないコスト構造にある。
一般的なECであれば、商品を保管し、注文が入ったら発送すれば取引は完了する。しかしレンタル型のサブスクでは、発送した後に返却を受け付け、届いたアイテムを1点ずつ検品し、クリーニングや修繕を施した上で再び貸し出すという循環が発生する。
いわば「静脈物流」(消費者から事業者へ商品が戻る物流)を自前で構築しなければならず、通常のEC倉庫では対応できない。天沼氏は「創業当初は月額会費6800円や9800円という水準に対し、1回の配送にかかるコストが6500円ほど。送れば送るほど赤字になる状態がスタート地点だった」と振り返る。
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このハードルの高さから、大手企業の参入と撤退も目立つ。AOKIホールディングスは2018年にスーツのサブスク「suitsbox」を開始したが、わずか半年でサービスを終了した。20〜30代の若年層を狙ったものの、実際の利用者は40代が中心となり、既存店舗との顧客の奪い合いが発生。物流を外部委託したことによるコスト増も重なり、黒字化の見通しが立たなかった。
ZOZOが2018年に手がけた「おまかせ定期便」も、約1年で終了している。厳密には月額課金型のサブスクではないが、スタッフが利用者の好みに合わせて服を選び、定期的に届けるという点ではエアークローゼットと共通する。しかし、気に入ったものだけ購入する仕組みゆえに、既存会員による購入率が伸びず、事業継続は困難と判断された。
課金の仕組みこそ異なるものの、両社に共通するのは「継続利用を前提とした体験設計」と「コスト構造の最適化」が十分に詰められていなかった点にある。ファッションサブスクの難しさは、サービスを始めること自体にはなく、続けることにある。
●1配送6500円を2500円に削減できた理由
エアークローゼットの黒字化を支えた大きな要因の1つは、1配送当たりのオペレーションコストを創業時の6500円から現在の2500円まで削減したことにある。ただし、特定の施策で一気にコストが下がったわけではない。
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天沼氏自身もクリーニング工場に足を運び、ストップウォッチを片手にパートスタッフの動線を観察し、最も効率のよい作業に統一するといった改善を繰り返した。
「クリーニング1回当たり5〜10円のコスト削減でも、1配送で3〜5着、毎日数千点を発送すれば、その効果は非常に大きくなる」(天沼氏)
中でも大きな効果をもたらしたのが、洗濯に耐えられるRFID(電波で情報を読み取る自動認識技術)タグの全品導入だ。レンタル事業では同じデザインの服が100点あっても、どの1点が誰に貸し出されているかを把握しなければならない。
当初は、返却されたアイテムを写真と目視で照合していたが、全アイテムにRFIDタグを付けたことで、ゲートを通すだけで個体IDを識別できる仕組みに転換した。創業当初は洗濯に耐えられるRFIDタグが高額(1枚約500円)で、仕入れコストが大幅に増加することから導入できなかった。その後、1枚100円を下回り、事業規模とのバランスを見極めて導入を決断した。
コスト削減を支えた要因として、パートナー企業との関係構築も挙げられる。エアークローゼットはクリーニングや物流の委託先を価格で切り替えるのではなく、自社スタッフが工場に入り込んで業務効率化をともに進める協業型のアプローチを採っている。効率化によって生まれた余力分だけ取扱量を増やし、パートナー側のトータル利益も確保する設計だ。
コンサルティング会社のように現場に入り込むこの手法は、コスト削減にとどまらない価値を生んでいる。パートナーの処理能力が上がれば、ユーザーの手元に届くまでの時間も短縮される。自社、パートナー、ユーザーの三者にメリットが及ぶ仕組みを、10年かけて築いてきたことが、このビジネスモデルの強みといえるだろう。
●継続率を高めるための地道な取り組み
黒字化を支えるもう1つの柱が、94%を超える月次継続率だ。細かなサービス改善を重ね、例えば返却の仕組みは、当初ボックスごと返送する方式だったが、通勤途中にコンビニで返却する利用者が多いことが分かり、持ち運びしやすいアルミ製バッグに変更した。
さらにヤマト運輸と連携し、アプリ上のQRコードをコンビニで提示するだけで返却が完了する仕組みを、日本で初めて導入した。天沼氏は「お客さまにとって『なくてはならないサービス』になることが全て。返却が面倒では、そうした存在にはなれない」と語る。使い続ける上でのストレスを一つずつ解消していく姿勢が、高い継続率の土台となっている。
一方、ユーザーが離脱する最大の要因は「届いた服が期待と違った」というスタイリングのミスマッチにある。好みに合ったものが欲しいのか、新しいテイストに挑戦したいのか、トレンド重視なのかはユーザーによって異なるが、以前はこうした期待値の違いを把握しきれていないこともあった。
現在は、AIを活用した「AIスタイリストアシスタント」を導入し、登録時の情報に矛盾がないかを自動検知する仕組みを構築している。画像では「フェミニン」なテイストを選んでいるのに、言葉では「クール」と回答するケースなど、ユーザー自身も気付いていないズレをAIが検出し、確認を取ることで初回からの満足度を高めている。
2026年3月には「セルフセレクト」機能も導入した。スタイリストに任せるだけでなく、自分で服を選ぶことも可能にしたものだ。「自分で服を選びたい」という声は、退会理由の約4割を占めていた。新機能では、既存ユーザーの離脱を防ぐと同時に「人に選んでもらう」ことに抵抗があり、これまで入会しなかった層の取り込みも狙っている。
●黒字化は「第2のスタートライン」
しかし、利益を出し続けるには別の難しさがある。2026年6月期の業績予想は、売上高57億1600万円(前期比15.3%増)と成長を見込む一方、営業利益は8100万円(同20.9%減)の減益を見込む。倉庫移転費用に加え、広告宣伝費や人件費の上昇が重なる。
広告を打てば新規会員は増えるものの、1人当たりの獲得コストは年々上昇しており、広告に依存した集客モデルからの転換が課題となっている。エアークローゼットは次の一手として、5月28日から男性向け「airCloset Men's」を開始する予定だ。女性向けで培った物流基盤を活用し、追加投資を抑えながら展開していく。
加えて、自社の循環型物流基盤を他社にも開放する取り組みも始めた。ファッションサブスクでは、返却→検品→クリーニングという循環型の物流を自前で構築する必要があり、参入障壁が高い。天沼氏は「業界が盛り上がるには、3社以上のプレーヤーが必要と言われるが、それが難しい市場」と語る。物流面のハードルを下げることで参入企業を増やし、市場そのものを広げる狙いだ。
コスト構造の改革、継続率を高めるUX設計、パートナーとの協業。エアークローゼットは、そうした体験設計をゼロから積み上げてきた。「サブスクとは、1カ月間何かを可能にする権利を購入していただくもの。商品代金を分割して『サブスク』と呼ぶケースがあるが、それは決済方法の変更であって体験設計の変更ではない」と天沼氏は説明する。
服をレンタルして着る権利、スタイリングしてもらう権利、気に入ればそのまま購入できる権利。複数の体験を組み合わせてこそ成立するという考えだ。サブスクの勝算は「毎月課金されること」にはなく、継続率の高い体験を低コストで回し続けられるかどうかにある。
エアークローゼットにとって黒字化はゴールではなく、同社の言葉を借りれば「第2のスタートライン」にすぎない。成長投資と利益のバランスをどう取るか。次の舵(かじ)取りが問われている。
(カワブチカズキ)
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ココイチ「1200円」の壁で苦戦?(写真:ITmedia ビジネスオンライン)215

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