「ミステリー小説専門店」に行列 健康食品の「わかさ生活」が運営する書店はなぜ、人気になったのか?

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2026年05月11日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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ミステリー小説に特化した書店「謎解き生活」

 名古屋市にある大須観音通りの商店街に、通行人が思わず足を止めたくなる店がある。階段の手すりから今にも滑り落ちそうなマネキン、たくさんの手が生えている花壇。怪しげな外観に、「いったい、何のお店だろう……?」と興味をそそられるのだ。


【画像】「ミステリー小説専門店」に行列 健康食品の「わかさ生活」が運営する書店はなぜ、人気になったのか?


 気になった通行人が一人、また一人と吸い込まれるように店内に入っていく。このお店は「謎解き生活」というミステリー小説に特化した書店だ。国内外のミステリー小説約1万5000点を扱い、週末には1日1500人以上が訪れるほどの人気で、混雑時には入場制限をかけることもある。


 行列ができる書店として、大須の新たな名所になりつつある。特定ジャンルに特化した書店というだけでなく、本が売れない時代といわれる中、来店客の3分の1から半数近くが本を購入していくという、高い購入率も特徴だ。さらに、健康食品を扱う「わかさ生活」が運営しているという意外な一面もある。


 謎解き生活はどんな書店なのか。なぜ、健康食品の会社が書店を運営するのか。謎解き生活の副店長の本間絢香氏と、わかさ生活の広報の井野佑美氏に話を聞いた。


●ミステリーと謎解きに特化 13のジャンル別に陳列


 店内に入ると、まず2階建ての書店を再現した大きなジオラマが目に入る。細部まで作り込まれたミニチュアからは、この店の世界観が伝わってくる。


 一般的な書店において、小説は出版社ごとに並べられることが多いが、この店では13のジャンルに分けて陳列している。ジャンルを「ACT(アクト)」と名付け、来店客が棚を巡りながらミステリー小説の歴史や潮流をたどれる構成にしている。


 例えば、ACT1は「名探偵たちの書斎」。シャーロック・ホームズやアガサ・クリスティなどによる昔ながらの海外ミステリーを並べている。ACT3「新本格ムーヴメント」には、綾辻行人さんなど、ミステリー作家を多く輩出している京都大学推理小説研究会出身者の作品が集められたコーナーがあったり、人が死なないミステリー小説だけを集めた「日常の謎」コーナーを設けたりしている。


 ACT8のテーマは「警察官と私立探偵」。刑事ドラマでおなじみの立ち入り禁止エリアに張る「CAUTION」のテープが目を引く。こうしたディスプレイのアイデアをはじめ、選書やポップ作成まで各ACTの担当スタッフが担っている。スタッフの多くは書店での勤務経験はないが、本好きが集まっているという。


 「常にカバンには本が入っているような本好きばかりです。自分が読んでいいと思った本を仕入れることもあれば、スタッフ間で『青春小説っぽいミステリーある?』など情報交換をすることも多いですね」と本間氏は話す。


●店内に仕込んだ「謎解き」に、月間800冊売れる本


 謎解き生活は、本のラインアップを充実させるだけでなく、店内を楽しむための独自イベントも多く展開している。「謎解き×地域活性」をテーマに活動する「KAGENAZO」と共同開発した店内回遊型の謎解きゲームがあり、レジで販売している謎解きキットを購入すれば参加できる。ゲームは初級編「キンダンの青」と中級編「ユウワクの赤」の2種類。参加者は、封入された手紙とLINEを使いながら、1〜2階のフロアを巡って謎解きに挑戦する。


 「本を見に来て、謎解きゲームに気付いて参加する方がいたり、謎解きゲーム目的で来店され、帰り際に本を買われたりする方もいます」(本間氏)


 また、中身が見えない状態で購入する「ブラインドブック」も人気で、月間の販売冊数は800冊ほどに上る。本に関するいくつかのキーワードが紹介されており、それをヒントに購入する仕組みだ。「お連れさまにプレゼントされたり、お店に来た記念に買っていかれたりする人が多いです」(本間氏)という。


●来店客の3分の1から半数が本を買う なぜ?


 謎解き生活のメインの客層は30〜40代の女性で、次いで多いのが40〜50代の男性だが、学校が休みの時期には子ども連れの家族の姿も目立つ。謎解き生活には大人向けのミステリー小説だけでなく、児童書や漫画、ライトノベル、ボードゲームなども取り扱っているためだ。他県から訪れるミステリーマニアも多く、今年の春休みには開店前から行列ができたという。


 本間氏が「意外だった」と話すのは、若年層の来店だ。大須は食べ歩きなどを楽しむ若者が多く集まる街でもあり、偶然店を見つけて入店するケースもあるようだ。


 「『普段は本を読まない』という高校生が、スタッフに声をかけて『読みやすい小説はどれですか?』と聞いてくれることもあります。この店が本を読むきっかけになっているのがうれしいです」


 一般的な書店では、本を買わずに退店する客も多い。一方、謎解き生活では来店者の3分の1から半数が本を購入するという。目的地として訪れる客が多いことに加え、ブラインドブックなど「思わず買いたくなる仕掛け」が多いことも理由の一つと考えられる。


 集まるのはミステリー好きの読者だけではない。本を書いた作家自身も足を運んでいる。愛知県内の作家がオープン直後に来店したほか、他県の作家もSNSで謎解き生活への関心を示しているという。


 こうした反響を呼んでいる背景には、外観から内装、本のラインアップに至るまで、ミステリー小説の世界観を徹底して作り込んでいる点があるのだろう。専門書店自体は珍しくないが、ここまでコンセプトを前面に打ち出した書店は多くない。


 そして、さらに意外なのは、この書店を運営しているのが健康食品を扱う「わかさ生活」だという点だ。なぜ、異業種の企業がミステリー小説の専門書店を手掛けているのか。


●なぜ、わかさ生活が「書店」を運営?


 わかさ生活が書店を運営する理由について、広報担当の井野氏は「当社はサプリメントによって、体の健康をお届けしてきました。それと同時に大切にしているのが、心の健康です。当社の代表が入院した際に、本や漫画などの言葉に元気をもらったことが書店事業を始めるきっかけとなりました」と話した。


 書店事業は、最初から順調だったわけではない。わかさ生活は2020年、本社がある京都で書店事業をスタート。その後、名古屋でカフェ併設型の書店をオープンした。店内では多ジャンルの書籍を少しずつ取り扱っていたが、来店客がすぐに店を出てしまう状態が続いていたという。


 そんな状態が3年ほど続き、書店事業は止めようという経営判断が一度は下された。その際に、代表が店舗で働くスタッフと話をしたところ、「もっと本のジャンルを絞れば、売り上げが伸びるのではないか」という意見が出た。その声を聞いた代表が、専門店という形で事業を立て直そうと考えたのだ。


 そんな経緯で誕生した店舗が「謎解き生活」だ。他に、徒歩圏内に絵本専門店「えほん生活」と恋愛小説専門店「初恋♡生活」も展開している。


 謎解き生活のコンセプトはその立地から生まれた。元宝石店だった建物のミステリアスな雰囲気と、大須は謎解きゲームを手がける会社が集まる街だったことから、ミステリー小説専門店という方向性が決まった。オープン当初、店に並ぶ本のセレクトは京都にある協力会社に依頼し、コンセプトだけでなくラインアップにもこだわった。


 そして、2025年10月にオープンし、半年も経たないうちに行列ができる書店となったのだ。


●3店舗出店、どんな効果があるのか


 謎解き生活、えほん生活、初恋♡生活の3店舗は、隣駅や徒歩で行き来できる距離にある。複数店舗を近い距離で展開することで、在庫がなくなったときや急に人手が不足したときにも連携できるようにした。さらに、3店舗を巡りながら謎解きをする回遊型イベントも定期的に開催するなど連携を深めている。


 書店事業では、わかさ生活の色を前面に出しすぎないようにしている。一方で、レジ横にはサプリメントやキャラクターグッズを並べ、来店客が自然と興味を持つ導線を作った。


 「本を読むと目が疲れるから、ブルーベリーのサプリを置いているのかな」「このキャラクター、見たことあるけど何だっけ?」と気になった来店客が、自ら調べるうちに、わかさ生活が運営企業であることを知るケースも多いという。相手から興味を持たれる形で、自然なブランディングにつなげているのだ。


 本が売れない時代といわれて久しい。それでも、謎解き生活には「次はどんな本と出合えるのだろう」という期待を抱いた人たちが集まってくる。ただ本を並べるだけではなく、空間や体験、街との回遊性まで含めて「物語の世界」を作り込む。わかさ生活が手掛ける書店事業は、リアル書店の新たな可能性を示しているのかもしれない。



このニュースに関するつぶやき

  • 京都そんな風になってたのかージャスティン・ビーバー来た所だよねーと読み出したら違った。
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