ダフト・パンクのグラミー賞パフォーマンスは、なぜ“歴史的事件”だったのか

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2014年01月30日 10:50  リアルサウンド

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スティーヴィー・ワンダーらと共演するダフト・パンク。

 今年のグラミー賞で、なんといっても最大の話題を集めたのはダフト・パンクだろう。もちろん主要2部門含む4部門制覇という受賞結果も快挙だが、音楽ファンにとってその何倍ものインパクトと感動を与えてくれたのが、当日の彼らのライブパフォーマンスだった。そもそも、ダフト・パンクがテレビに出演するのはこれが6年ぶり(2008年、同じくグラミー賞でカニエ・ウェストのパフォーマンス中にサプライズ出演して以来)。ライブ自体も、4年前に盟友フェニックスのニューヨークでのライブにサプライズ出演したのが最後。昨年も、『ランダム・アクセス・メモリーズ』リリース直前に開催されたアメリカのコーチェラフェスティバルや、何故かオーストラリアの田舎町で行われた世界最速リスニングパーティーに姿を現すのではないかという噂が世界中で飛び交ったが、結局現れることはなかった(なのに、同時期に開催されていたF1のモナコ・グランプリのピットに突然現れるという神出鬼没ぶり)。したがって、今回のグラミー賞でパフォーマンスを行うことが事前に発表された時点で、それは既に「事件」だった。



 そして当日、その「事件」はただの「事件」ではなく、「歴史的事件」となった。ステージ上に立ったのは、ファレル・ウィリアムス(ボーカル)、ナイル・ロジャース(ギター)、ネイサン・イースト(ベース)、オマー・ハキム(ドラム)、ポール・ジャクソンJr.(ギター)、クリス・キャスウェル(キーボード)という『ランダム・アクセス・メモリーズ』参加ミュージシャンにして、ソウル、AOR、フュージョン系の音楽に少しでも造詣がある人ならおしっこをチビっちゃうような超ゴージャスなメンバー。さらに、そこにゲストとしてスティーヴィー・ワンダーがジョイント。もう、その7人が並んで演奏をしている画を見ただけで嬉しくて涙が出てくるのだが、さらに泣けてきたのは、そのステージセットが往年のアナログレコーディングのスタジオを模したものだったこと。『ランダム・アクセス・メモリーズ』という作品は、ダフト・パンクの2人が少年時代に夢中になっていたミュージシャンを実際にスタジオに招集して、このデジタルの時代にほぼ100%アナログの手法で作り上げてしまった、2人にとって非常にパーソナルな夢のアルバムだった。彼らは、そんな自分たちだけが目撃した夢の風景を、世界中で数千万人が同時に視聴している音楽界最大のショーの中で再現してみせたのだ。



 クライマックスは、最初真っ暗だったスタジオブースを覗くコントロールルームの窓から、突然真っ白なヘルメットとコスチュームに身を包んだダフト・パンクの2人が現れた瞬間だった。「ゲット・ラッキー」(ダフト・パンク)→「おしゃれフリーク」(シック)→「アナザー・スター」(スティーヴィー・ワンダー)という驚きのメドレーが生演奏で繰り広げられる中、2人はコントロールルームのミキシングコンソールから、「ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス」「仕事が終わらない」「アラウンド・ザ・ワールド」といった自分たちの曲をマッシュアップしていく。それは、70年代から現在まで綿々と繋がってきたダンスミュージックの歴史を、たった5分30秒に凝縮させてしまったような、奇跡としか言いようがないパフォーマンスだった。



 ステージ上から一瞬たりとも目を離したくなかったので、正直言っていい迷惑だったのだが、グラミー賞の中継カメラは会場全体がダンスフロア状態となった客席のセレブミュージシャンたちを頻繁に映していた。そこでビヨンセやJAY-Zやケイティ・ペリーがノリノリで踊っているのはわかるとして、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、スティーヴン・タイラー、そしてオノ・ヨーコまでが踊り出している光景には、「みんな、テレビの向こうの目を気にして無理して踊ってない?」と思わず心配になってしまった。



 一方、日本のミュージシャンの間でも、その衝撃はSNS上で瞬く間に広がっていった。OKAMOTO’Sのハマ・オカモトは「夢と希望をありがとう!!!」と同業者としての感動をツイートし、Base Ball Bearの小出祐介は「ギターを始めた時、ディープ・パープルよりも先にシックを知っていたら、たぶんまた別の人生だったな僕」と自身の音楽原体験にまで思いを巡らし、マイケル・ジャクソン・フリークの西寺郷太はベーシストのネイサン・イースト(マイケル・ジャクソンの名曲群のプレーヤーでもあった)のプレイに賛辞を送っていた。その後も、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文をはじめ、動画サイトでライブ映像を見た多くのミュージシャンが思わずその感動を呟かずにはいられなかった模様。かつて、日本のミュージシャンの間でグラミー賞での一パフォーマンスがここまで反響を呼んだことがあっただろうか。その点においても、今年のグラミー賞でのダフト・パンクのパフォーマンスは、あまりにも特別なものだった。(宇野維正)



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  • しょこたんの「Do you like Japanese food?」のほうが歴史的事件だとおもったけどなwwwwwwwwwwww
    • イイネ!1
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