谷口彰悟がシント・トロイデン移籍の経緯を語る「ようやくヨーロッパの市場に加わることができる」

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2024年09月06日 10:10  webスポルティーバ

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【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」
<第22回・特別インタビュー前編>

◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第21回>>「熊本に貢献したい」サッカースクールを通して感じてほしかったこと

 カタールのアル・ラーヤンからベルギーのシント・トロイデンへの加入が発表されたのは7月19日。日本を飛び出して1年半......33歳にして、谷口彰悟はヨーロッパの舞台に辿り着いた。

 谷口の思いをあますことなく伝えるため、今連載はいつもとは異なりインタビュー形式で掲載する。3回連続で、新天地を踏んだ谷口の心境や思考を紐解いていく。

 第22回は、シント・トロイデンへの加入が決まった時の心境や決意に迫った。

   ※   ※   ※   ※   ※

── カタールのアル・ラーヤンからベルギー1部のシント・トロイデンへの移籍が発表されたのは7月19日でした。

「アル・ラーヤンに移籍した時から、少しでもレベルの高い環境でプレーしたい、また、そこを目指していきたいという想いは、これまでの連載でも触れてもらっていたと思います。そういう意味では、今回の移籍に際してアル・ラーヤンも僕の気持ちを汲み取り、理解してくれたと感じていますし、シント・トロイデンが僕にヨーロッパでプレーするチャンスを与えてくれたことに感謝しています。

 また、シント・トロイデンからは移籍に際して、『リーダーになれる存在を求めていた』という期待も聞かせてくれました。そうしたクラブの希望と、僕の目標が合致して、今回の移籍が実現したと思っています」

── カタールで2年目を迎えた昨季も「ヨーロッパでプレーしたい」という意志を持ちながら、移籍は実現しませんでした。それだけに「今季こそは」という思いもあったのではないでしょうか?

「カタールで1年半を過ごし、今季は異なる環境、特にヨーロッパに挑戦したいという気持ちはより強くなっていたので、何としても叶えたいと思っていました」

【誰にも相談はしなかった】

── そうした状況や心境を考えると、シント・トロイデンからのオファーに迷いはなかったですか?

「そうですね。もちろん、いろいろな可能性を模索していましたが、僕自身も年齢的に33歳を迎える直前だったので、(移籍先を)選べる立場ではないとも感じていました。

 それにもかかわらず、シント・トロイデンは早い段階から獲得の意志を示していただき、僕にとっては気持ちも含めて早い時期から準備ができることはありがたかったので、迷うことなく決断できました。何より僕としては、このチャンスを逃したくなかったですから」

── シント・トロイデンから獲得に際して、リーダーとしての役割を期待されたこともうれしかったのではないですか?

「そうですね。DFは経験が生きるポジションだということは広く知られていますし、自分自身も肌身を持って感じています。クラブのCEOである立石(敬之)さんから『試合に関与していくことによって、チームを成長させていく、もしくは改善されていくことを期待している』との言葉をかけてもらえて、純粋にうれしかったですし、同時に責任の大きさも実感しました」

── シント・トロイデンへの加入を決めるにあたって、事前に相談した人はいるのでしょうか?

「正直、誰にも相談はしていないですね(笑)。加入を決めてから、親や懇意にしている選手に話をしたくらいです。『どうしようか考えている』といった話は誰にもせず、自分で決めました」

── ふだんから周りに相談することなく、自分で考え、決断しているイメージがあります。

「そうですね(笑)。もともと、自分で決めなければいけないことを周囲の人に相談するタイプではないかもしれません」

── シント・トロイデンには、どのようなイメージを持っていましたか?

「多くの日本人選手が在籍していて、多くの日本の企業がパートナーになっているクラブとして認識していました。また、年齢が若く、将来有望な選手を成長させ、次のステージへとステップアップさせる取り組みを積極的に行なっているクラブとも思っていました。だからこそ、33歳になった自分を獲得してくれたことへの感謝は、余計に大きくなります」

【未来は自分で切り拓くもの】

── さかのぼると、遠藤航選手(リバプール)を筆頭に、冨安健洋選手(アーセナル)や鎌田大地選手(クリスタル・パレス)、中村敬斗選手(スタッド・ランス)、橋岡大樹選手(ルートン・タウン)、今季は鈴木彩艶選手(パルマ)もシント・トロイデンからステップアップしていった選手たちです。加入したばかりの谷口選手に聞くのは、少し気が早いかもしれませんが、自分もあとに続きたいという思いはあるのでしょうか?

「その思いは、間違いなくあります。33歳という年齢なので何の確信もありませんが、ようやく自分もヨーロッパの市場に加わることができました。ここから先は、何が起こるかは自分自身も予想できないし、未来は自分で切り拓くものだとも思っています。

 また、常に先を目指してプレーしなければ、自分の成長もないと思いますし、この世界を勝ち抜いていくこともできないと思っています。誰がどこで見ているかわからないのが、サッカー界のおもしろいところであり、魅力でもある。

 そういった意味では、常にチャンスを掴みたいと考えているので、さらに目につく、評価してもらえるプレーをしていきたいという思いは、より一層強くなっています」

── 33歳の年齢で、CBの選手が初めてヨーロッパに挑戦する。この事実は、ひとつの歴史を作ったとも言えるのではないでしょうか。川崎フロンターレを飛び出してアル・ラーヤンに移籍する時も、『ここが到達地点ではなく、先を目指す』と話していました。

「自分の思いを変えずにやり続けきた結果が、ひとつ形として実ったと感じています。フロンターレからカタールに行った時も『ここで終わりじゃない』と思ったし、『ここから次のステージに進んでやる』と、思ったことを思い出します。

 移籍は、そうした自分の思いやプレーによって目標に近づけるところと、自分の意志や行動ではどうしようもできないところもある。今回、(移籍を)実現してくれたエージェントやチャンスをくれたシント・トロイデンを含め、周りの人たちのおかげで、今、僕はここにいられると思っています。

 それは、この年齢になったから考えられるところでもあり、見えるところでもある。移籍はどのケースも容易ではなく、さまざまな人の思惑や考えが合致しなければ実現しないですからね。それがわかる年齢になったからこそ、なおさらこの年齢で、ヨーロッパでプレーするチャンスを得られたことは大きいと思っています。

 だからこそ、周りへの感謝の気持ちを持ちながら、今後もプレーしていきたいと思います。その一方で、ここからは自分との戦いでもある。ヨーロッパの市場に加わったのであれば、その可能性を広げるのも、縮めるのも、自分次第だと思っています」

【ようやくヨーロッパの舞台で戦える】

── 少し感傷的な質問をすると、念願だったヨーロッパの舞台です。どの時点で、自分が『ヨーロッパに来たこと』を実感したのでしょうか?

「まずは空港に降り立ったときですね。あっ、でも、それ以上に、町並みを見た時のほうが実感はありました。カタールから飛行機に乗って、ブリュッセルの空港に降り立ったのですが、そこからシント・トロイデンへと移動する時に、レンガ造りの家や広がる自然を見て、『ヨーロッパに来たんだな』って思いましたから。その時、『ようやく、この舞台で戦えるんだな』と考えました」

── シント・トロイデンに在籍している日本人選手たちには、事前にコンタクトを取ったのでしょうか?

「(小川)諒也にはクラブのことや雰囲気も含めて、どんな感じかを聞きました。(伊藤)涼太郎とも日本代表が元日に行なったタイ代表との試合で一緒でしたし、(藤田)ジョエル(チマ)ともE-1(EAFF E-1サッカー選手権)で一緒にプレーしたことがあって不安もなかったので、それほど確認することは多くはなかったと思います」

── シント・トロイデンでは、チームメイトからどんな歓迎があったのでしょうか?

「自分が思っていた以上にリスペクトを示してくれました。年齢的なこともありますが、それ以上に、日本代表に選ばれていることやワールドカップの出場経験があることに、一目置いてくれている雰囲気を感じました。それは日本人選手たちだけでなく、ほかのチームメイト、監督やスタッフからも感じ取りました」

── それだけ代表に選ばれている実績は大きかったと?

「チームにはやはりベルギー人が多いですが、ワールドカップやナショナルチームに対する憧れや思いが強いことを、僕への対応や反応を見て、より感じましたね」

── シント・トロイデンでのデビューは8月4日、ホームのシャルルロワ戦でした。70分に3バックの一角として途中出場しました。

「チームの練習に合流して間もなく、コンディションが上がっていないことは自分自身でも実感していました。また、シーズンはすでに開幕しているので、すぐにまた試合が来る。どれくらいコンディションを上げることができるのか。それを計算しながら練習していました。

 コンディションを上げるためにやらなければいけない一方で、やりすぎたらやりすぎたで週末のゲームに響いてしまう。そうした葛藤もありながら調整していく難しさがありました。今回の移籍で、そこまで先のことを考えずに、自分の身体に負荷をかけられるプレシーズンの重要性を痛感しました」

◆第23回・特別インタビュー中編につづく>>


【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2023年からカタールのアル・ラーヤンSCでプレーしたのち、2024年7月にベルギーのシント・トロイデンに完全移籍する。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。

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