太田格之進が『あの少年』を招待へ。改めて語るもてぎの悲運と心境の変化「次に勝つのがより楽しみになった」

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2024年09月20日 11:40  AUTOSPORT web

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太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)と佐藤琢磨HRCエグゼクティブアドバイザー
 8月25日にモビリティリゾートもてぎで行われた2024年全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦でトップを快走するも、ファイナルラップ目前でトラブルによりスピンを喫した太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)。

 チームメイトである牧野任祐の猛追を振り切り、トップチェッカーまであと1周と少しのところで悲劇に襲われた太田は、レース後は悔し涙を流し続けており、その後のメディアミックスゾーンでも次戦のことについて語れないくらい落胆した様子だった。

 あれから早くも1カ月近くが経とうとしている中、心境の変化や当時の詳しい状況などについて聞いた。

■スピン時は「ペダルが戻ってこなかった」

「僕はいつもすぐに立ち直るタイプです。何かあっても、その日はめちゃくちゃ落ち込むけど、次の日からは普通になっていますが……今回は2〜3日くらいヘコみましたね。僕としてはすごい長い時間だったなと思います」と太田。

 本来スーパーGT第5戦鈴鹿があった週末(8月31〜9月1日)には、気持ちの切り替えはできていたというが、本人としてはかなり長い時間引きずったとのこと。ただ、時間が経つにつれて、もてぎでの出来事を彼なりに前向きに捉えている様子で「ある意味で良い経験になったのかなと思います」と語る。

「SFとGT500に参戦していますが、とは言ってもまだ2年目なんですよ。これから長いキャリアを積んでいって、チャンピオン争いに絡んだり大舞台で活躍していく部分においては、ああいう経験を早い段階でできたということは、すごく良いことだったなと思っています」と太田。

「改めて、レースに勝つというのは大変なことだなというか……何かひとつの要素が噛み合わないと勝てないというのを改めて感じることができました」

「エンジニアやメカニックをはじめチームの体制を組み立てる人、全体をマネジメントする人、僕たちドライバー、そしてチームの資金を集める人……。そのいろいろなものがうまくまとまって、ミスなく仕事をしないといけないし、そこには運も必要になってきます」

 さらに太田は続ける。

「もてぎのレースに関しては、運がなかったとしか言いようがないです。メカニックの人たちが完璧に対策をしてくれていても、壊れてしまうことがあるというのがレースなのだなと思いました。そういうところがある意味で(レースの)魅力だなと思いましたし、だからこそ次に勝った時が嬉しいんだろうなと思います。ああいう結末だったので、次に勝つのがより楽しみになりました」

「やっぱり、あの気持ちを取り返すには、自分自身でもう1回良いレースをして優勝する。そこで大きな喜びを手に入れたいなという欲はすごく出ています」

 スピンを喫した時の記憶や感情など100%は消し去ることはできないものの、着実に次の1勝を目指して前を向いている様子が印象的だった。

 さらに太田はスピンを喫した当時の状況を「疑問に思っているファンの方も多いみたいなので」と自ら改めて説明してくれた。

「ブレーキングを開始した時点でアクセルをオフにするのですが、普通は戻ってくるはずのペダルが戻ってこなくて、全開状態でスタックしました。ただ、ブレーキを踏んでいる間はエマージェンシーのようなモードに入って、ペダルは全開状態でも(スロットル開度は)20%くらいになるので、なんとか止まることができたんです。でも、コーナーに入ってブレーキを離していくと、そのモードが切れるのでアクセルペダルの位置どおり全開状態に戻ってスピンしてしまいました」

■『涙を流した少年』を招待することになった経緯

 このレースで最も印象に残ったシーンのひとつが、マシンストップ後、公式映像に映し出されたグランドスタンドで号泣していたファンの少年。太田自身も「あの子をピットに招待したい」とレース後に語っていたほか、翌日には自身の公式Xでも以下のように投稿していた。(https://x.com/kakunoshin_ohta/status/1827994487219691818)

 多くのファンの呼びかけもあり、投稿から数時間で少年のご家族と日本レースプロモーション(JRP)がコンタクトを取ることに成功。太田も「細かいところはこれから詰めていくことになりますが、(富士大会で)招待することは決まっています」と明かしてくれた。

 改めて、あの少年を招待したいと思ったきっかけについて、このように話してくれた。

「レースが終わって、気持ち的にも少し落ち着いた時に携帯をみたら、Xであの子が泣いている映像がすごく回っていました。『これはなんだ?』となって、みなさんのコメントとかを見て状況を理解しました。そこから真っ先にチームに『この子を招待しようよ』と話をしました」

「こんなに小さい子が、ここまで応援してくれるし、最近は小さい子がサーキットに来て応援してくれる姿をたくさん見るようになりました。これからのレース界を考えても、すごく重要なことだと思います」

「そういう子たちがより楽しんでくれて、より感情移入して応援してくれることによって、10年、20年後のレース界が絶対に盛り上がると思います。応援してくれる子どもたちのために、より面白くなっていくというのは絶対にあると思います」

「個人的には業界を盛り上げるというよりも、あれだけ熱心に応援してくれている子なんだから『招待してもいいのではないか?』という気持ちが強かったです。チームに提案したら『そうだよね』というふうに言ってもらえましたし、周りの人たちも『昔キミ・ライコネンも同じようなことをしていたよね』とか言ってくれました」

 そして、今週末はもうひとつの戦いであるスーパーGTの第6戦SUGOを迎える。今季、太田が所属するAstemo CIVIC TYPE R-GTは第2戦富士で3位表彰台を獲得しているが、中盤戦は思うようなレース運びができておらず、現在ランキングは9番手。チャンピオンを目指す上でも上位フィニッシュが欲しいところだ。

「GT500もSUGOを含めて今季残り4戦なので、このあたりで1勝しておかないといけないなと思っています。17号車は昨年トップチェッカーを受けたコースなので、相性は悪くないと思っています。とにかく勝つことだけを考えていますけど、今回は気温もかなり低くなる予報も出ているので、しっかりと地に足をつけてミスなくやっていきたいなと思います」と太田。

 スーパーフォーミュラもてぎ戦の経験を経て、どのような進化を遂げているのか。目が離せないレースウイークとなりそうだ。

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