今回はフリーランス法について解説します。
フリーランス法とは?
「フリーランス法」は、フリーランスが安心して働ける環境を整備するための法律です。この背景には、フリーランスが労働法の保護外であることや、発注事業者からの支払いの遅延、一方的な条件変更といったトラブルが頻発している現状があります。フリーランス法では、業務を発注する事業者とフリーランスの間の取引に透明性を持たせ、フリーランスの労働環境を守るための措置が規定されています。フリーランス法の対象者は?
この法律の対象となるのは「フリーランス」と「発注事業者」です。この法律でのフリーランスとは、業務を受ける側かつ、従業員を雇用していない事業者のことです。個人や法人は問いません。なお正式名称は「特定受託事業者」と呼ばれます。
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発注事業者を「特定業務委託事業者」と「業務委託事業者」に分けてある理由の一つは、従業員の雇用の有無や業務委託の期間で、順守すべき義務内容が異なってくるからです。
フリーランス法に規定されている義務内容とは?
発注事業者がフリーランスに業務を発注する際に順守すべき義務内容は、以下の7項目とされています。1. 書面などでの取引条件の明示
発注事業者は、給付の内容、報酬、支払い期限など9項目(*1)を文書または電子的方法(メール、SNSのメッセージなど)で明示しなければなりません。これにより、業務開始時に仕事の範囲や報酬について曖昧さが減少し、トラブルが避けられます。2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払い
発注した物品などを受け取ってから60日以内に報酬を支払う必要があります。この支払い期日の規定により、フリーランスの報酬の受け取りが安定することになります。
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3. 7つの禁止行為
発注事業者は、1カ月以上の業務委託をした場合、次の7つの行為をしてはなりません。・受領拒否
・報酬の減額
・返品
・買いたたき
・購入・利用強制
・不当な経済上の利益の提供要請
・不当な給付内容の変更・やり直し
4. 募集情報の的確表示
広告などにフリーランスの募集情報を掲載する際は以下を守る必要があります。・虚偽の表示や誤解を与える表示の禁止
・内容を正確かつ最新のものに保たなければならない
5. 育児・介護と業務の両立支援
6カ月以上の業務委託の場合、フリーランスが育児や介護と業務を両立できるよう、申し出に応じて必要な配慮をしなければなりません。また、6カ月未満の業務を委託している場合も配慮するよう努めなければなりません。これは柔軟な働き方を求めるフリーランスにとっては大きな支援となります。6. ハラスメント対策の体制整備
フリーランスに対するハラスメント行為に対し以下の体制を整備しなければなりません。・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発
・相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
7. 中途解除などの事前予告・理由開示
6カ月以上の業務委託の中途解除や、更新をしない場合は以下を行う必要があります。
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・予告の日から契約解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければならない
*1:9項目とは「給付の内容」「報酬の額」「支払期日」「発注事業者・フリーランスの名称」「業務委託をした日」「給付を受領/役務提供を受ける日」「給付を受領/役務提供を受ける場所」「(検査を行う場合)検査完了日」「(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項」
発注事業者の満たす要件に応じた順守すべき規定は?
発注事業者は、従業員の有無や業務委託の期間で順守すべき義務内容が異なると前々項に書きましたが、具体的にはどの規定を守る必要があるのでしょうか。○業務委託事業者
従業員のいない発注事業者のことです。フリーランスがフリーランスに仕事を発注する場合もこれに当たります。この事業者が守る規定は「1. 書面などでの取引条件の明示」のみです
○特定業務委託事業者(業務委託期間が1カ月未満)
従業員のいる発注事業者で業務委託期間が1カ月未満の場合、この事業者は「1. 書面などでの取引条件の明示」「2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払い」「4. 募集情報の適格表示」「6. ハラスメント対策の体制整備」を順守せねばなりません。
○特定委託事業者(業務委託期間が1カ月以上6カ月未満)
従業員のいる発注事業者で業務委託期間が1カ月以上6カ月未満の場合は「1. 書面などでの取引条件の明示」「2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払い」「4. 募集情報の適格表示」「6. ハラスメント対策の体制整備」に加え「3. 7つの禁止行為」を順守せねばなりません。
○特定委託事業者(業務委託期間が6カ月以上)
従業員のいる発注事業者は「1. 書面などでの取引条件の明示」「2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払い」「3. 7つの禁止行為」「4. 募集情報の適格表示」「5. 育児・介護との両立支援」「6. ハラスメント対策の体制整備」「7. 中途解除などの事前予告・理由開示」のすべての項目を順守する必要があります。
フリーランス法に違反したらどうなる?
発注事業者がフリーランス法に違反すると、罰則が科されることがあります。フリーランスからの申し出に応じて、公正取引委員会や厚生労働省などの行政機関からの報告徴収・立入検査といった調査が行われ、発注事業者に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・企業名の公表が行われます。また命令違反には50万円以下の罰金があります。なおフリーランスが行政機関の窓口に申し出をしたことを理由に、契約解除や今後の取引を行わないようにするといった不利益な取り扱いをしてはならない、とされています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。フリーランス法の施行により、フリーランスと発注事業者の双方にとって、より透明で安定した取引が期待できます。フリーランスにとっては、報酬や業務範囲の明確化による安定的な就業環境が期待でき、発注事業者も適切な取引を行うことで法的リスクを避けることができます。両者が法にのっとり適正な取引を行うことで、よりよい関係が構築できるのではないでしょうか。
文:川手 康義(ファイナンシャルプランナー)
CFP・1級FP技能士。製薬会社に勤務し、お金にも詳しいMR(医薬情報担当者)として活躍。日本FP協会に所属しており、協会会員向けの研修会や一般の方へのセミナーの企画・運営活動にもボランティアとしてかかわる。
(文:川手 康義(ファイナンシャルプランナー))