女優、画家として多彩に活動する光宗薫が、12月15日、自身2冊目となるフォトブック『ATIKA』(トランスワールドジャパン)を発売する。
舞台は、約2年前に初の長期一人旅に挑戦した際に1ヶ月滞在したというイギリスの地。朝の光が心地良いホテルでのナチュラルな下着姿から始まり、古着屋で買い物をしたり、マーケットで美味しいご飯を食べたり、飾らない姿をたっぷり撮り下ろし。実際に一人旅で訪れたというディープなスポットを巡った、彼女ならではのロケーションにも注目したい1冊だ。
本インタビューでは、撮影の思い出から、2年前に一人でイギリスに発った理由、また、最近プライベートでハマっているという"クッキー作り"の魅力までを聞いた。
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■イギリスのディープスポットを巡る旅
――2022年2月に発売された『A Tapir on the star』(トランスワールドジャパン)以来、約3年ぶりのフォトブックとなります。読み方は『ATIKA(アティカ)』で合っています?
光宗 はい、合っています。今回のフォトブックでは、私が2年前に初めての長期一人旅で1ヶ月滞在したイギリスを舞台に、個人的に印象深かったロケーションを巡っているのですが、その中に「ATIKA」という古着屋さんがあって。単純に語感が良いなと、タイトルに選ばせていただきました。本来の意味はギリシャの地名らしいのですが、特にそういった意味は持たせていません。
――なるほど。フォトブックのロケーションが由来となっていたのですね。イギリスでの長期一人旅の裏側も気になりますが、まずはフォトブックのお話から聞かせてください。いったい、どんな経緯で制作することに?
光宗 今回のフォトブックでプロデューサーを担当してくださった方から、お話をいただいたのがきっかけでした。その際に「海外ロケでも良いですよ」と言われたので、ダメもとでイギリスを提案したら、快く了承してくださって。この短期間でまたイギリスに行けるなんて思ってもいなかったので、決まったときは驚きと喜びでいっぱいでした。
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――撮影のロケーションは光宗さんが一人旅で訪れたディープなスポットばかりだとか。
光宗 はい。いわゆる観光地ではなく、私が実際に行って良かった場所、皆さんにおすすめしたい場所をリストアップし、ご提案をさせていただきました。あえてディープな場所を選ばせてもらったので、許可取りが大変だったと思います。動いてくださったプロデューサーさんには感謝しかありません。ロケーションが決まってからは、現地の雰囲気に合いそうな衣装も、スタイリストさんと相談しながら決めました。
――隅々まで光宗さんのこだわりが詰まっていると。撮影期間はどれくらいだったんですか?
光宗 2泊4日です。ゆったり旅しているように見えて、実はかなりタイトなスケジュールの中で撮影をしていました。まず1日目は、21時頃にホテルに到着しヘアメイクを開始。22時頃から1着目の撮影が始まり、終わったのは翌1時頃でした。2日目の朝も早く、6時にはヘアメイクがスタート。21時頃まで撮影していました。2度目のイギリスに興奮していたとはいえ、時差ボケもあり、結構ハードでした(笑)。
――それは大変そう......! 連日遅くまで撮影されていたのですね。
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光宗 イギリスって、日が沈むのが遅いんですよ。実際21時頃まで外が明るいので、その気になれば1日でたくさん撮れたんです。それに、ロケーションも衣装もこだわって臨んでいるなかで慣れない海外でのロケ、ちょっとしたハプニングで撮れないシーンが出てくるのだけは避けたかった。余裕があるうちに撮れるだけ撮ろうと必死に詰め込んだ結果、2日目のうちにほとんどのシーンを撮り終えました。最終日は帰りの飛行機の時間もあったので、撮影は1着だけにして、残りは自由に観光をさせてもらいました。
――それほどタイトな撮影だったとは思えないくらい、表情はどれも自然体に見えます。
光宗 ありがとうございます。今回、写真のセレクトは基本的にプロデューサーさんにお願いしたんです。中には「あっ、これが選ばれるんだ」と思うような写真もありましたが、事前に「今回は"ナチュラルさ"をテーマにしましょう」と話していたので、自分では絶対に選ばないようなカットも落とさず掲載してみました。
個人的にお気に入りなのは、マーケットでジュースを飲んでいるシーン。唇の端でストローを咥えているのですが、子どもの頃からのクセなんです。他にもホテルで起きがけの姿から、美味しいベーグルとの再会に喜んでいる姿も。マネージャーさん曰く"いつもの薫"がたくさん写っているみたいなので(笑)、是非、チェックしてもらいたいです。
――こだわりのロケーションについても教えてください。絶対外せなかった場所、特におすすめしたかった場所は?
光宗 キメラや人魚の剥製、昆虫の標本、世界の呪物などが飾ってあるミュージアムです。1階がバーで、地下がミュージアムになっているんですけど、ハリーポッターに出てくるノクターン横丁(夜の闇横丁)のような雰囲気で、スゴく私好みの空間なんです。
――黒いドレスを着ているシーンですね。確かに、とても幻想的な雰囲気です。
光宗 この空間が、普通に街中にあるんですよ。面白いですよね。2年前も、時間ができたらよく立ち寄っていました。全ての展示に説明文が書いてあるので、Google翻訳を頼りに読んでいるだけで1、2時間は楽しめちゃうんです。
フォトブックでは紹介しきれないくらいの膨大な数の展示物は、全てオーナーさんの私物コレクション。万人に理解される趣味ではないかもしれないけど、好きを貫いて形にしている人がいるってだけで勇気が湧いてくるというか。刺激をもらえる場所でもあるんですよね。
■一人海外旅行は些細な挑戦の連続
――そもそも、何故2年前に一人で1ヶ月間もイギリスに?
光宗 前々からイギリスに興味があったんです。古い建物や先ほど紹介したようなディープスポットが多くあると知り、漠然と憧れを抱いていました。とはいえ、無理やりにでも機会を作らないと行かないまま時間だけが経ってしまうじゃないですか。何か目的を作ろうと思い立ち、イギリス芸術大学(UAL)のショートコースを予約。「円安で旅費が高いとか言ってられないぞ」と自分に言い聞かせ、強引に重い腰を上げました。
――何かタイミングみたいなものもあったんですかね?
光宗 うーん、何でしょう。強いていえば、何となく人生に慣れ始めてきた頃合いだったのかもしれないです。当時28歳。10代の頃に比べて要領も覚え、良くも悪くも悩んだりドキドキしたりする機会が極端に減ってしまったというか。安定していると言えば聞こえはいいですが、1年後の自分の姿さえ想像できてしまっていたんです。そんな中で、漠然と新しい挑戦を欲していたんだと思います。
実際、イギリスでの毎日は小さな挑戦の連続でした。言語も文化も違う環境に飛び込むわけですから。電車の乗り方も、人とのコミュニケーションさえも「これで合ってるのかな?」から始まる。全部、挑戦なんです。日本で生きていても、なかなかそうはならないですよね。逆に言えば、普通に電車に乗れただけで得られる達成感があるんです。その体験がスゴく楽しかった思い出です。
――確かに。「今、私ひとりでイギリスにいるんだ」と思うだけで、気持ちが強くなりそうです。
光宗 そうそう。マクドナルドでハンバーガーを買っただけで、「私、イギリスで生きてる! スゴい!」って思えるんです(笑)。
――とはいえ、慣れない海外での一人旅。不安や困り事はなかったですか?
光宗 特になかったですね。もともと一人行動が好きで一人旅には慣れていましたし、不安そうにしていると逆に危ないかなと。見かけだけでも堂々と過ごしていたら、自然と気持ちも追いついていました。
コミュニケーションも、翻訳機を使えば大体通じます。それこそ当時はドミトリー(一部屋に複数人が相部屋で宿泊する施設)を転々としていたので、海外から来た旅行者や現地の方との交流も多くて。「何言ってんの?」みたいな顔をされながらも、拙い英語とジェスチャーでコミュニケーションをとっていく感じが新鮮で楽しかったのを覚えています。大きな困り事はなかったですね。
――ドミトリーですか!? 意外です。てっきり、ホテルじゃなきゃ周囲の音が気になって眠れないタイプかと思っていました。
光宗 どんなイメージですか! 何よりドミトリーは圧倒的に値段が安いですからね。長期滞在を考えると、ホテルは現実的じゃなかったです(笑)。それに、積極的に交流を増やし英語を使うことで、海外に来た感もより味わえます。せっかくイギリスまで行っても、ホテルで一人だと日本と変わりませんからね。フォトブックの最後のページでおすすめのドミトリーをいくつか紹介しているので、もしイギリスに行く機会があれば、是非参考にしてもらいたいです!
――今後は、イギリス以外にも一人海外旅に?
光宗 行きたいですね。スイスの田舎のほうとか、あとプロレスが好きなのでメキシコに本場のルチャ・リブレを観に行きたい。もちろん、次も一人が良いです。知らない場所に一人でいると、些細な挑戦もミッションに思えてくるというか。冒険心がくすぐられるんです。お金の面とか、現実的なことを考えると色々大変ですけど。それでも行かなきゃならない時があるぞ! と、そのときはまた腹を括ります(笑)。
■来年のトピックは画集発売とクッキー作り?
――最近の光宗さんについても聞かせてください。2013年の初個展「スーパー劣等生」から昨年で10年。すっかり画家・アーティストのイメージです。
光宗 ありがとうございます。先ほど、要領も覚え......と話しましたが、絵に関しては別の感覚。新しい描き方や発表の仕方に挑戦するなど、年々、工夫を続けているつもりです。それも、画家としての活動が続けられているからこそ、できること。ありがたいです。
――ここ10年で、絵を描く気持ちに変化は?
光宗 画家として活動を始めた頃は、「ちゃんと描けます」と技術を見せたい思いが先行していた気がします。絵に関しては独学でしたからね。ただ、活動を続けるうちに、少しずつ技術を見せたい欲求が減り、素直に描きたい絵が描けるようになってきました。
――それは技術を認めてもらえた実感がどこかであったから?
光宗 『プレバト!!』(MBS/TBS系)の存在も大きいです。査定企画など、技術を評価してもらえる場所ができたことで、個展や自身の制作に関しては、好きな気持ちだけで向き合えるようになりました。それに昔は、内側に抱え込んでいる思いを絵にすることが多かったのですが、今や気持ちを吐くための行為ではなく、より自然な距離感に絵がある感覚です。
――というと?
光宗 画家として活動を始める前、芸能一本で活動していた頃の私は、ひとつの仕事で自分の良いところを全部見せようとしていました。「周りによく思われたい」「ちゃんとしている自分を見せたい」と、頑張りすぎてはバランスを崩してばかり。100か0かでしか、物事を考えられなかったんです。
それが、画家としての活動を続けてきたことで、ようやく肩の力を抜いて芸能活動を楽しめるようになった気がするんです。日常生活もラクになりました。絵がないと生きられない、というと大袈裟ですが、絵があるおかげで生きやすくなっているのは確かです。
――なるほど。今、スゴく調子が良いのが伝わってきます。来年もいい年になるといいですね。
光宗 来年は、夏にグループ展に参加するほか、年末に画集の発売と、それに伴った個展を開催。さらに再来年は、画集を軸に巡回展をする予定です。今、絶賛制作期間中なのですが、どんなふうに来年末を迎えられるんだろうって。今からとても楽しみです。それから、最近クッキー作りにもハマっていて......。
――クッキーですか? そういえば、インスタグラムによくクッキーの写真があがっているのを見かけます。
光宗 実は、最近まで自分でクッキーを焼いたことが一度もなかったんです。ずっとやりたいと思っていたのですが、ついに手を出してしまいました。これも新しい挑戦ですね。画集の締め切りを考えるとクッキーなんて焼いている暇はないはずなんですけど、今や絵を描く合間にクッキー型を調べては、何月にどんなクッキーを作ろうか? とスケジュールを立てるのが楽しくて仕方がない(笑)。
――とにかく"作ること"に夢中だと。
光宗 生地を混ぜたり、伸ばしたり、型を抜いたり、焼いたり。どの工程も楽しいです。何というか、異世界を冒険しているような感覚になれるんですよね。ただ、たくさん作っても食べ切れないので、頻繁には作れないのが現状。月に2回が限界です。
――それもまた、"絵のおかげで日常生活がラクになった"ことが関係しているんですかね?
光宗 だと思います。他のことにも夢中になれるってスゴく健康的だと思いません? ダイエット中に、つい甘いものを食べてしまうとか。そういう自然発生的な欲求って、とても大事だと思うんです。絵を描き続けてきたことで、そうした心の余裕が生まれた。スケジュール的には相変わらず余裕はないんですけど(笑)。でも、色んなことを楽しめている今の自分がとても好きです。
■光宗薫(みつむね・かおる)
1993年生まれ、大阪府出身。2011年頃より独学で絵を描き始める。11年12月、AKB48の研究生としてデビュー、翌年10月活動終了。2024年は自身5度目の個展となる「むかしむかし」が銀座のヴァニラ画廊にて開催。芥川龍之介の短編『蜘蛛の糸』から着想を得たという水彩画などを展示。大盛況の末、閉幕した。
公式X【@mtmnkor】
公式Instagram【@mtmnkor】
■光宗薫2ndフォトブック『ATIKA』 価格/2,400円+税
タレント、アーティストとして活躍する光宗薫の2ndフォトブック思い出の地、イギリスで撮り下ろしたこれまでに無いカット満載の作品。2024年12月15日発売。
取材・文/とり 撮影/まくらあさみ