こんにちは。これまで3000人以上の男女の相談に乗ってきた、恋愛・婚活コンサルタントの菊乃です。
最近、結婚や出産は当たり前ではないし、婚活に踏み出すこと自体もぜいたく品になりつつあると感じることがあります。様々な理由で、結婚や出産について考えることすらできないケースも見聞きしているからです。
毒親育ちの茜さん(仮名・31歳/関東在住)は、結婚に興味がないわけではないものの「将来子どもは持ちたくない」という考えを持っています。幼い頃から茜さんは、異常に過干渉な母親のコントロール下にありました。勉強ができないと家中を引きずり回される、朝起こす時に性器を触られるなどの虐待も受けていました。
何かにつけて母親から否定され続けた茜さんは、何かをやってみたいといった好奇心をほとんど持つことなく育ちます。
◆進路を決めるのは母親。娘には自分の道を選ぶ権利がない
進学先も、自らの関心から選択することはありませんでした。仮に希望を持っても、それを叶えられる環境ではありません。高校は母親と同じ学校へ、大学は姉と同じ芸術大学へ進みます。
大学には学生でありながらイラストの仕事を受けている人や、漫画家としてデビューが決まっている人もいました。みな目標があって、絵を描くことや創作すること、芸術そのものが好きで進学してきています。ですが茜さんにはそうした目標はありません。
一方で母親からは「教師になれ」と言われ、教員免許の取得を目指すことに。大学では同じ学科の学生よりも多くの単位取得が必要となりました。
教員採用試験の情報や出題傾向がまとめられた『教職課程』(協同出版)という月刊誌があります。母親はこの雑誌を見せて問題を出してきたりもしたそうです。茜さんは強制されるがままに勉強を続けました。
ちなみに、茜さんの母親や父親が教師だったわけではありません。
「私は先生になりたいとは全く思っていませんでした。母は、教師は人から『すごい』と言われる職業だからと、私を教師にさせたがったんです。母にとって子どもは、自慢をするための道具でした」
◆教師を目指す中で、9歳上の恩師と再会して
大学2年の頃、教員免許を取得する過程で、茜さんは卒業した中学校に行く用事ができました。母校では恩師の一人と再会します。茜さんの中学生時代、教師陣の中で最も若手だった社会科教師で、名前を達也さん(仮名)といいました。
達也さんと連絡先を交換すると、後日2人きりで会うことになりました。達也さんから交際を申し込まれて、付き合うことになります。当時、茜さんは20歳、達也さんは29歳でした。
茜さんは母親にも達也さんとの交際を報告します。
「先生ってことは国家公務員だね。将来が安定しているからいいね。絶対に先生を逃しちゃだめだよ」
といった反応です。
取材中、筆者はここで違和感を覚えました。中学時代の娘と知り合った男性なのに、心配はなかったのだろうか。さらに言えば、中学校教師は国家公務員ではなく地方公務員ではないだろうか、と。
◆彼女が、大学を休学するまで追い詰められた理由は
「母は思い込みが激しく、立派な仕事だと思ったらあとは耳を貸さないんです。
もともと教師になりたい気持ちはありませんでしたが、その先生と付き合ったことで、帰宅が23時過ぎになったり土日出勤があったりといったひどい労働環境を知り、なおさら教師になりたくなくなりました」
娘を教師にしたいこともあって、母親は達也さんとの交際に協力的でした。達也さんを家に連れて来させたり、プレゼントを用意したりしていたためか、達也さんも「いいお母さん」と思っているようで、茜さんへの虐待には気が付かなかったそうです。
達也さんに教師になりたくないと伝えても、母親の「茜はまだまだ反抗期で」という言葉で丸め込まれ、達也さんにまで教師を目指すことを応援されるようになります。
望まない教員採用試験対策の勉強のストレスもあり、大学3年生のころ、茜さんは大学に行けなくなって数カ月間休学することになりました。
◆包丁を振り回す母親と、お姉さんのリストカット
その前後に、母親はあちこちでトラブルを起こすようになります。茜さんの母方の祖母や伯母(母の姉)と些細なことで喧嘩をしては、相手の家に怒鳴り込むといった調子です。
パート勤めを始めるにしても、勤務先で喧嘩をしてはすぐに辞めてを繰り返します。家では、パート先で知り合った人と勤務先の愚痴を言い合う長電話をしていることもありました。
すでに一人暮らしをしていた社会人のお姉さんにも母親はたびたび電話をかけ、「寂しいでしょう。帰って来なさい」と数時間も話すことが続いていたそうです。
あるときにはお姉さんのマンションに押しかけ、包丁を振り回しもしました。
結局、お姉さんはうつ病になり実家へ戻ってきました。母親が原因のことなので、実家にいると当然悪化してしまいます。やがてお姉さんは、リストカットをするようにもなりました。住む場所があっても、気が休まるわけではありません。
実は茜さんの父親も、過去にメンタルを病んでいます。そのこともあって、父親は家族との関わりを最小限にしていたのです。
「このまま家にいたらおかしくなる」と、茜さんは思います。しかし憔悴(しょうすい)したお姉さんを目の当たりにすると、家を出ることがいかに難しいかということも思い知らされるのです。
大学についても、卒業要件は満たせたものの、教員免許に必要な単位は足りませんでした。そのため、進路が決まっていない状態で卒業してしまいました。
◆卒業後も母親の支配下で、さらに過酷な生活が始まった
母親は茜さんを通信大学に入れ、教員免許に不足している単位を取らせました。接客業などのアルバイトをしながら、猛勉強して教師を目指すという、茜さんにとって厳しい生活が始まります。
1年目の採用試験は不合格でした。「教師になりたくない」と一貫して思いながら、計4回も教員採用試験を受けました。
そのころ、茜さんのメンタルが再び不安定になっていきます。欠勤が増え、接客のアルバイトが続けられなくなりました。新たに事務職のアルバイトを始めると、あまりにも事務仕事ができない自分に気が付きます。
例えば、レシートの金額の写し間違えを連発します。また、何かの事務作業をしているとき誰かに話しかけられて作業を中断すると、直前で行っていたタスクを忘れてしまうのです。
ここで茜さんは、疲労だけでは説明がつかない、自身の特性を自覚します。そこで大人の発達障害の診察をしてもらえる医療機関を探し受診しました。
◆発達障害と診断されたけど、母親に理解されるわけがない
これまでの生い立ちや現在の自分の状態を医師に伝えると、うつの傾向があることに加え、ADHD(注意欠如・多動性障害)だと診断されます。子どもの頃からずっと母親に「努力が足りない」と言われ続けていたことが、発達障害のためだったとわかったのです。
医師からは障害者手帳の交付申請ができることも伝えられます。障害者手帳をもらうと医療費の負担額が3割から1割にまで減ることなど、様々な説明も受けました。
しかし、茜さんは母親が娘の発達特性を理解してくれるはずがないと思いました。ADHDであることや、メンタルに関する通院がバレたら、また母から監視されると思い、手帳の交付申請はためらわれました。茜さんが26歳のときの出来事です。
幼い頃からずっと母親の支配下に置かれ、成長して母親の異常性に気づいてからも逃れることができなかった茜さん。彼女には自分の人生の決定権すらありませんでした。そんな状況で「子どもは持ちたくない」と思うのも無理はありません。
※個人が特定されないよう一部脚色してあります。
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茜さんのように成人した女性が親の虐待に悩んでいる場合、どこに相談したら良いか迷うと思います。困っている方は下記の相談先も参考にしてみてください。
●法務省「みんなの人権110番」
差別や虐待、ハラスメントなど様々な人権問題について相談できる。電話をかけると最寄りの法務局につながり、法務局職員又は人権擁護委員が相談を受ける。
電話番号:0570-003-110(ゼロゼロみんなのひゃくとおばん/全国共通)
受付時間:平日午前8時30分から午後5時15分まで
●厚生労働省「女性相談支援センター全国共通短縮ダイヤル」
女性相談支援センターは、困難な問題を抱える女性の相談に応じ、状況に応じた支援を行うために都道府県が設置している機関。電話をかけると近くの⼥性相談⽀援センターにつながる。
電話番号:#8778(はなそうなやみ/全国共通)
受付時間:相談機関により異なる(平日日中対応が一般的)
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周りのお子さんについて「あの子は虐待を受けているかもしれない」と思った場合は、各自治体の相談窓口、または以下の全国共通の電話窓口で相談できます。当事者はもちろん、目撃者などの第三者の相談も受け付けています。
●こども家庭庁「児童相談所虐待対応ダイヤル」
「虐待かも」と思った時にかけると管轄の児童相談所に電話を転送、すぐに通告・相談できる。
電話番号:189(いちはやく/全国共通・通話料無料)
受付時間:24時間受付
●法務省「こどもの人権110番」
いじめや虐待を含む、子どもの人権に関する問題について相談ができる専用相談電話。
電話番号:0120−007−110(全国共通・通話料無料)
受付時間:平日8時30分〜17時15分
(メール相談「こどもの人権SOS-eメール」、LINEでの相談「法務局LINEじんけん相談」も)
●文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」
いじめなど子どものSOS全般について相談できる。都道府県及び指定都市教育委員会などが運営。
電話番号:0120−0−78310(なやみいおう/全国共通・通話料無料)
受付時間:24時間受付(年中無休)
<取材・文/菊乃>
【菊乃】
恋愛・婚活コンサルタント、コラムニスト。29歳まで手抜きと個性を取り違えていたダメ女。低レベルからの女磨き、婚活を綴ったブログが「分かりやすい」と人気になり独立。ご相談にくる方の約4割は一度も交際経験がない女性。著書「あなたの『そこ』がもったいない。」他4冊。Twitter:@koakumamt