昨年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で、柄本佑さんの演じた藤原道長の側室・源明子を演じた瀧内公美さん(35歳)。亡き父の敵を呪詛したり、泣き狂うといったキャラクターの個性を際立たせ、印象付けました。
現在は、昨年の東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀男優賞(長塚京三)、最優秀監督賞(吉田大八)の3冠に輝いた映画『敵』が公開中。
3月に発表されるアジア全域版アカデミー賞こと、第18回アジア・フィルム・アワード(AFA)では、作品賞を含む6部門にノミネート。瀧内さんも助演女優賞でノミネートされています。
映画やテレビドラマに話題作が続く瀧内さんに、後半の展開にビックリさせられる『敵』出演にまつわるお話や、柄本さんとの再共演となった『光る君へ』出演時のことなどを聞きました。
◆昨年の大河ドラマ『光る君へ』、出演発表時の反響は?
――映画ファンには以前より実力を知られていた瀧内さんですが、テレビドラマでも人気です。近年では、まずNHKの男女逆転『大奥』Season2「幕末編」での阿部正弘役が大変好評でした。
瀧内公美さん(以下、瀧内):阿部正弘は本当に素敵なお役でした。ご一緒させてもらった大奥のスタッフの皆さんが本当に素晴らしい方々で、あのチームに出会えたことがなによりの財産でした。
――そして昨年の大河ドラマ『光る君へ』では、藤原道長(柄本佑)の側室、源明子を演じました。
瀧内:出演発表になったときの反響がこれまでになく大きかったです。私はインディーズ系の映画に多く出演してきました。“全国民が視聴できる”、大河ドラマに参加させてもらえたことは、本当にありがたい経験でした。
そして富山にいる両親が喜んでくれたことが一番嬉しかったことです。少しは親孝行できたかなと。
◆柄本佑とふたたび共演。泣き叫び呪詛する激しさを楽しむ
――完走した思いは?
瀧内:『光る君へ』は主人公のまひろを演じた吉高由里子さんパートと、道長を演じた佑さんパートのような感じで分かれていて、私は佑さんパートが多かったのですが。
スポット的な出演だったので、完走というほどのことではなかったのですが、出てくるたびに飛び道具的な感じで登場していたので、脚本が来るたびに「次は何が起きるんだろう、何をやるんだろう」とちょっと怖かったです。
――怖かった(笑)
瀧内:平安の雅(みやび)たおやかな世界の中で、たとえば「呪詛する」とか、泣き狂ったりして全然たおやかとは程遠く(笑)、恐ろしさもありつつ、明子さまの起伏の激しさを楽しませていただきました。
――柄本さんとは、映画『火口のふたり』(2019)でダブル主演を務めた仲です。
瀧内:佑さんとのお芝居は、やっぱり安心感があります。すごくホッとする存在ですし、私にとっては言葉を交わさなくても何か通ずるものがある俳優さんですので、お相手役というのは大変心強かったです。
◆タイトルを聞いて「敵ってなんだろう」と
――出演映画『敵』が公開中です。非常に興味深く面白い作品でした。前半の穏やかさから、後半の怒涛の展開に驚き、“敵”について観終わってからも考えさせられます。
瀧内:後半、ダイナミックになってますからね。「どうなっちゃうんだろう」と思いますよね。
でもどこからがそうなっていったのかと問われれば、最初からそうだったのかもしれないですし、解釈によっては多角的な視点が生まれるとても面白い作品です。
――オファーがあったとき、脚本を読んだときの感想から教えてください。
瀧内:筒井康隆先生の原作から読んだわけではなく、大八監督が執筆なさった脚本がこの作品との最初の出会いでしたので、タイトルを聞いた時にまずは「敵ってなんだろう」と思いました。
でも脚本を読ませていただいて、「敵がなんだろう、だとか、そういうことじゃないな」と感じました。「これが敵でした」となにか一つを指せる話ではないなと。
――たしかにその通りですね。
瀧内:はじめは渡辺儀助先生(長塚京三)の老後の日常が丁寧に描かれていきます。つつましい生活を送ることで、季節がめぐっていくさまも日本らしいですし、そうした日々を描いていくのかなと思わせるのですが、後半、こんな展開が待っているのかと、正直おののきました(笑)
それを吉田大八監督(『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』)が演出するというのが、いち映画ファンとしてもとにかく楽しみでした。
◆演じた靖子のイメージは日本を代表する女優・原節子
――瀧内さんは渡辺先生のかつての教え子・靖子を演じましたが、彼女はあくまで先生の目に映った靖子像です。どう作っていかれたのでしょうか。
瀧内:実際に儀助さんの人生の中で教え子として実在していたひとりではあるでしょうけど、靖子は儀助さん世代の理想の女性像だと思います。
劇中の登場シーンで、どういう塩梅でそうした理想像を出していくか、大八監督とすり合わせながら作らせていただきました。彼女は基本的にきれいな日本語を話すので、その部分も頼りにしながら、品の良さやファムファタール的な女性像を形にしていきました。
それから、打ち合わせの段階から、「イメージとしては原節子さん」とのお話がありました。私はもともと小津安二郎監督の作品が好きなので、原節子さんは何度も拝見してきた女優さんです。
今回も改めて観返して、いわゆる正統派、品の良さが出る在り方を研究しながら、私から監督に提示できるところは提示しながらやっていきました。
――モノクロの作品という点も、逆にいろんなものが滲み出て来て、想像力を刺激してくれます。
瀧内:カラーだと視覚だけでも得られることが多いので、情報量としてはカラーの方が圧倒的ですよね。モノクロの良さは、自分の中で想像させていく余白がありますね。
◆『敵』は私の俳優人生におけるご褒美
――長塚京三さんとの共演の感想は?
瀧内:ひと言では難しいですが、子どもの頃からテレビドラマや映画など、いろんな媒体で拝見してきた俳優さんであり、大先輩です。
共演させていただけること自体、とてもありがたいお話でしたが、実際に現場での居ずまい、佇まいやスタッフさんや作品に関わってくださる皆さんへの立ち振る舞いを、隣で見させていただきました。一流の俳優とはどういうものなのかを、肌で感じました。
――すでに高い評価を得ている『敵』ですが、あらためてお願いします。
瀧内:この作品は、私の俳優人生におけるご褒美(ほうび)であり、今後の私を支えてくれる大切な作品です。
おこがましい話ですが、長塚さんのお芝居が息を呑む素晴らしさで、あんなお芝居ができたらいいのになぁと役者としては羨望の眼差しで完成作を観ていました。ただラストにかけて、まさか長塚さんにカメラを持たせるなんて「なんでもやるな」とビックリしましたが(笑)
◆映画ってお祭りみたいでみんなで作る過程が楽しい
――あの手持ちカメラ撮影の映像はインパクト大でした。
瀧内:そのあとの庭のシーンもすごい。ああいう撮影って楽しいんです。
――役者としてですか?
瀧内:いえ、役者に限らず、チームとしての意識が特に必要で、映画ってお祭りみたいでみんなでああでもない、こうでもないって言いながら作りあげる過程が本当に楽しいんです。
脚本を読んでいたときから楽しみでしたが、出来上がりが想像以上で、「こうなるんだ」とワクワクしましたし、いろんな解釈ができて発見がある作品ですので、とても面白かったです。ぜひ劇場でご覧いただきたいです。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
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『敵』は全国公開中
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi