カレー食べるときには“噛む”ことが当たり前だと認識されていると思います。しかし、実は私たちの噛む回数はじゅうぶんではないことが多いのです。
診療していると、高齢の患者さんだけではなく、お子さんから大人の方まで、幅広い年代でお口周りの筋力の低下を感じます。人間はしっかりと使っていないところから弱っていくものです。お子さんでは、お口の筋力がなかなかつかず、ポカン口や、顎の成長が小さく細くなっているケースも見られます。
今回は特別な努力をしなくても、皆さんのお食事に手軽なひと工夫を加えるだけで効果的なポイントをお伝えしたいと思います。
◆こんな悩みがある人は要注意!当てはまる数が多いほどピンチ
普段のお食事でこのような悩みはないでしょうか?
・食後、食べ物がお口の中に残っている
・硬いものは食べにくい
・食事の時間が長くなった
・飲食物にむせることが増えた
・食べこぼしをするようになった
・食べ物を飲み物で流し込んでいる
・薬など固形物に飲み込みにくさを感じる
これは、お口の筋力が低下しているサインである可能性が高いです。今の日本にはグラタン、ハンバーグ、カレーなど、よく噛まなくても食べれてしまうもので溢れています。実際に、高齢者の歯がない方でも食形態を変えることなく(介護食などではなく)、普通のお食事がとれているケースも多々あります。
奥歯がない患者さんに、「食事の時に困っていないから入れ歯はいらない」と言われることもあります。それほどに、今の日本の食は、柔らかいもので溢れており、流し込み食べがしやすいのです。 しかし、そのようなお食事ばかりを続けていると、お口周りの筋力がしっかりと使われず、結果として筋力低下に繋がるのです。
◆お食事に“ひと工夫”
普段のお食事で“よく噛む”意識が大切ではあるのですが、例えば、お豆腐をたくさん噛んで食べるのは苦になってしまいますよね?
食品やメニューによって適切な噛む回数はあるでしょう。意識しすぎてお食事の時間が疲れるものとなってしまうのは良くありません。お食事を楽しみながら自然に噛む回数を増やせる食材を取り入れることがオススメです。
◆普段のお米を「もち麦ご飯」に
通常の白米をよく噛んで食べるのも良いのですが、自然に噛む回数を増やしたいのであれば、もち麦ご飯に変えてみたり混ぜてみるのがオススメです。
コンビニでも、もち麦を用いたおにぎりが発売されており、手軽に食べることができます。
◆ザクザク食感の「ふりかけ」をかける
ふりかけをご飯にふりかけると噛む回数も増えます。柔らかい食感のものよりも、具材が大きめでざくざくとした食感のふりかけが良いでしょう。いつものメニューに手間なく足せるので家族みんなで取り入れやすい方法です。
◆ラーメンやカレーは「野菜」を加えて
私はカレーを作る時、大きめにお野菜をカットして食べ応えのあるようにします。さらに追加で上にお野菜を乗せています。
また、麺類も同様です。ラーメンはお店にもよりますが、トッピングでお野菜を足せる場合は足してみましょう。柔らかいですが、煮卵も噛み応えのあるものなので足してみると良いかもしれません。
お野菜は食感も様々なので、噛むことが楽しくなります。特にレンコンやゴボウなどの根菜類は噛む回数が増える代表的なお野菜です。積極的にとりたいですね。
◆ポイントは「自然と噛みたくなる」食材を選ぶこと
やわらかいものを無理に何回も噛んだり、硬いものばかり食べなければいけないわけではありません。毎日、こだわって考えてばかりいても大変です。毎日の食材選びや、お食事に少しだけ工夫していくと良いと思います。
◆一生自分のお口でお食事を楽しむために
歯や歯茎を健康に保つのはもちろんですが、お口の周りの“筋力”を衰えさせないということも大切です。毎日の小さな工夫や意識が、これから先の将来の健康を作ります。皆さんも少しの意識から変えてみてください。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari