「第3回新潟国際アニメーション映画祭」クロージングセレモニーの記念撮影 世界初の長編アニメーション中心の映画祭として、またアジア最大級のアニメーション映画祭として新潟市内で開催された「第3回新潟国際アニメーション映画祭」。3月15日から6日間にわたり、多くの漫画・アニメのクリエイターを輩出してきた伝統を受け継ぐ形で今年も多彩なプログラムが展開された。最終日の20日にはクロージングセレモニーが行われ、映画祭の華である長編コンペティション部門の授賞式では、グランプリに『ルックバック』(押山清高監督)が選ばれた。
【画像】クロージングセレモニーのそのほかの写真
映画祭ジェネラル・プロデューサーの真木太郎氏は、「大変多くのお客様に恵まれました。特にコンペティション部門の観客の多さには驚きました」と、第3回を迎えた映画祭の成長を実感していると語った。
また、新潟市長の中原八一氏は、「来年も新潟の街全体がアニメで盛り上がることを心から願っています。新潟市としても、引き続き漫画・アニメの街として国内外に発信していきます」と力強く宣言した。
優れたアニメーション制作スタジオに贈られる【大川博賞:シンエイ動画】、アニメーションの技術スタッフに贈られる【蕗谷虹児賞:押山清高(作画)井上俊之(作画)木村絵理子(音響監督)林ゆうき(音楽)】の授賞式の後、長編コンペティション部門の結果発表が行われた。
■グランプリ『ルックバック』(日本/2024年/58分)
藤本タツキの読み切り漫画を原作とした58分の中編アニメーション。学年新聞で4コマ漫画を連載する小学生・藤野と、不登校の同級生・京本が漫画を通じてつながるも、ある日、すべてを打ち砕く事件が起こる――圧巻の青春物語。
マヌエル・クリストバル審査員長は、「完璧なテンポと美しく描かれたキャラクターたち。技術、ストーリーテリング、成熟度の高さを評価し、監督の新作に大きな期待を寄せています」と絶賛。
押山清高監督は受賞スピーチで、「本当に多くのアニメーターやスタッフに支えられて完成した作品です。制作中、AIでアニメーションが作れる時代が来るというニュースを目にしました。日本のアニメ業界は、クリエイターたちが切磋琢磨しながら技術を共有し、作品を生み出してきました。しかし、今後この伝統的な継承の形が続けられるかどうかは分かりません。『ルックバック』は、人の手で作り上げるアニメーションの価値を記念するような作品です。今後ますます“人間が作るプロセス”の価値が高まると信じています」と熱い思いを語った。
■傾奇賞『かたつむりのメモワール』(オーストラリア/2024年/94分)
アヌシー国際アニメーション映画祭では最高賞(クリスタル賞)を受賞した話題作。カタツムリを集めることが心の拠り所である孤独な少女・グレースが、奇妙な女性・ピンキーとの友情を通じて希望を見出していく物語を描いたクレイアニメーション。
アダム・エリオット監督は、「この作品には8年を費やしました。過去10ヶ月間、世界各地でプロモーションを続けてきましたが、今回が最後の映画祭となります。今、アニメーション業界はAIの影響による脅威にさらされています。“この作品は人間の手によって作られました”というメッセージを映画の最後に入れました。最高のストーリーと芸術は、人間にしか作れない。若いフィルムメーカーや学生たちが、この映画祭を通じて新たな作品を生み出してくれることを願っています」と力強く語った。
■境界賞『バレンティス』(イタリア/2024年/72分)
本作は、1940年のイタリア・サルデーニャ島で実際に起きた事件をもとにした作品。ファシズム政権下の第二次世界大戦直前、軍の農場から馬を盗んだ11歳と14歳の少年たちは、ただ戦争から馬を救いたかっただけだった。しかし、その帰路で農村民兵に捕まり、一人が殺されてしまう――という悲劇を描いた作品。
クリスティン・パヌシュカ審査員は、「美しく先見的な作品であり、圧巻の音響設計と精緻なグラフィック表現によって、観る者を唯一無二の映像体験へと誘います。この独創的な映画が世界中で発見され、称賛されることを願っています」とコメントした。
ジョヴァンニ・コロンブ監督は、「素晴らしい映画祭に参加し、新潟という街の優しさに触れ、とても貴重な経験をしました」と喜びを語った。
■奨励賞『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』(アメリカ/2024年/87分)
20年以上にわたり切り絵(papercuts)を用いたストップモーションアニメーションを制作してきたエリック・パワー監督の自伝的作品で、インディーズアニメーターの苦悩と奮闘を描いている。
松本紀子審査員は、「インディペンデント・アニメーション制作の挑戦を観客と共有する、実に魅力的な旅を描いた作品。この誠実で温かみのある映画は、アニメーターにとって次世代に受け継ぐべき大切なものとなるでしょう」と評価。
エリック・パワー監督は、「アニメーターとしての苦闘を描いた作品です。新潟のアニメーションキャンプのような場を通じて、若いクリエイターたちに活力を与えられていればうれしいです。もちろんこの道は険しく、何度も拒絶されることもありますが、今日のように勝利を勝ち取る瞬間がある。とても光栄です」と感謝を述べた。
井上伸一郎フェティバル・ディレクターは「毎年参加作品のレベルがどんどん上がっていて、とてもいい映画祭に成長したと思っております。改めて新潟の皆様の温かいおもてなし、心遣いに感謝いたします」と映画祭を締め括った。
なお映画祭の回数を重ねるにつれ、コンペティションノミネート作品の日本公開が増えており、すでに今回のノミネート作品の中から4作品が劇場公開予定。『かたつむりのメモワール』(配給:トランスフォーマー)は6月27日より全国公開。『ボサノヴァ〜撃たれたピアニスト』(配給:2ミーターエンタテイメント/ゴンゾ)で4月11日より公開。さらに、『リビング・ラージ』(配給:クロックワークス)は2025年公開予定。『口蹄疫から生きのびた豚』はMARCHが配給権を獲得した。今後もさらなる発展が期待される。
写真:(後列左から)アリシア・パワー(『ペーパーカット』アソシエイトプロデューサー)/井上伸一郎フェスティバル・ディレクター/マヌエル・クリストバル/クリスティン・パヌシュカ/松本紀子/真木太郎ジェネラル・プロデューサー(前列左から)エリック・パワー/押山清高/アダム・エリオット/ジョヴァンニ・コロンブ