
ドジャース、カブス戦の中継の仕事から帰宅し、今もまだ夢見心地のまま、原稿を書き始めています。静まりかえった東京ドームに響く打球の音が耳に残っていて、メジャーリーグに触れられた喜びが、じわじわと沸き続けています。
大成功に終わったMLBの日本興行。MLBの海外興行の歴史は古く、国外(カナダのトロントを除く)での公式戦は、1996年の8月にメキシコで行なわれたパドレス対メッツの3連戦がその始まりでした。日本では2000年にカブスとメッツの開幕戦を皮切りに、2004年、08年、12年、そして19年に続いて、今回で6年ぶり6度目の開催となりました。
いずれも開幕カードで行なわれていて、これは長いアメリカ国外公式戦の歴史でも特別なこと。これまで松井秀喜さんやイチローさんなど、日本を代表するメジャーリーガーたちが凱旋してきましたから、そのたび、日本における大リーグ人気はさらに高まったと記憶しています。かつて、ヤンキースの松井さんの姿をスタンドで見ていた鈴木誠也選手が、今度はメジャーリーガーとして同じ東京ドームの芝を踏んだことは感慨もひとしおです。
現地では各チームをじっくり観察する機会を得たのですが、練習の始め方にもチームカラーが出ていたように思います。どちらかというと自主的な練習がメインで、選手も自分のタイミングで各々の調整を始めるドジャースに対し、カブスは投手・野手が集合して準備運動をしたりノックを受けたりと、日本プロ野球に近い流れに見えました。
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全体に共通していたのは、試合前に細かく地道な練習に取り組んでいたこと。プレーの中では豪快さや華やかさ、パワーやスピードが目立つメジャーリーガーたち。それでも、やはり基本を大事にする姿勢は変わりません。
中でも、カブスの名手でゴールドグラブ2回受賞、現役最高の遊撃手と称されるダンズビー・スワンソン選手の練習を(守備好きとしては)目に焼き付けておこうと思いました。練習開始時間のかなり前にグランドに出てきたスワンソン選手は、グラウンドの隅で膝立ちになり、大小のゴムボールを至近距離から交互に投げてもらって、ショートバウンドを捕球する練習を入念に行なっていました。
開幕2連戦は脇腹の痛みで欠場となったドジャースのフレディ・フリーマン選手も、バッティング練習ではただ大きな当たりを放つわけではなく、逆方向を意識する時間がある聞いたことがあるのですが、一流選手が野球というスポーツに真摯に向き合う姿勢をあらためて体感することができました。
さて、今回の開幕戦ですが、2019年とはまた違った盛り上がりとなった印象でした。19年はイチローコールで東京ドームが揺れた瞬間も忘れられないけれど、今回は大谷翔平選手、山本由伸投手、佐々木朗希投手、今永昇太投手、鈴木選手とスター選手がめじろおしで、かつてないスタンドとお茶の間の熱狂を感じました。
里崎智也さんによると、小学生が将来なりたい職業ランキングで「プロ野球選手」が上位に返り咲いたようです。これもすべて、大谷選手をはじめとした日本人選手の活躍のおかげですよね。大谷選手はこれまで、野球の常識や記録を覆し続けてきましたが、子どもたちの未来の夢さえ塗り替えてしまったのですから、間違いなく歴史に名を残す稀代のスターです。
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そんなスターがいきなり打席に立ち、全員がその姿を目に焼き付けておこうと球場が静寂に包まれる瞬間が、今も脳裏に焼きついています。試合はドジャースの2連勝で幕を閉じましたが、選手は常に相手へのリスペクトを欠かさず、ファンも時に試合を盛り上げるためにブーイングしたりと、選手とスタンドが一体になって試合を盛り上げる。野球とは、選手観客が力を合わせるエンタメなんですよね。ボールパークより素敵な空間は他にないと、今回私は強く思いました。
カブスのジェド・ホイヤーGMは、「日本の野球界は才能に溢れている時代。我々は間違いなく、有望な日本人選手との契約を熱望している。その需要を生み出したこれまでの選手たちの功績は大きい」と話していました。
長いMLBの歴史に名を刻んできた、多くの日本人選手たち。彼らの功績なくして、今はないんですよね。野茂英雄さんがいなかったら、今ごろどんな世界になっていたんだろう。MLBで日本人選手が活躍する姿が見られるのは、本当に尊いことです。
今回は終始ドジャースへの注目が高かったように感じましたが、"ホームゲーム側"のカブスの選手の認知度が日本でも高まったことも嬉しいですよね。鈴木選手も、「いいチームなので、カブスの選手も知ってもらいたい」と開幕前に話していました。
スピードスターの"PCA"(ピート・クロウ=アームストロング選手)や、巨人戦でのスワンソン選手の華麗な守備とパフォーマンス。きっとみなさんも、今シーズン追っていきたい選手が、両チームに増えたのでは。
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個人的に追っていきたいと思ったのが、カブスのルーキー、マット・ショー選手と、ドジャースの秘密兵器であるベン・カスパリウス投手。ショー選手の荒削りなバッティングフォームや、"魔改造"に成功したというカスパリウス投手の鋭いスライダー。どちらも数年後にスーパースターとなっている未来が、今から楽しみです。
取材期間中はほぼ東京ドーム住んでいた(笑)おかげで、たくさんの知り合いに会うことができました。会うのが2年前のシアトル以来という人もいたりと本当に幸せな期間で、メジャーリーガーの一挙手一投足を目に焼きつけられ、私にとってはまさに夢のような時間でした。
次もあるなら、スタンドが一体となっての「Take Me Out to the Ball Game」の大合唱が見たいな。今回の興行の大成功で、今よりもさらにMLBが日本に深く根付く未来を確信した2日間でした。
それではまた来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作