企業のITシステムにおける仮想化基盤が見直しを迫られている。仮想化基盤ソフトウェアとして多く使われているVMware製品が、2023年11月のBroadcomによるVMware買収に伴ってライセンス形態が変更されたからだ。
NTTデータがVMware独占の仮想化基盤市場に参入 その思惑を考察
こうした動きを受け、NTTデータグループではVMwareの代替製品としてオープンソースソフトウェア(以下、OSS)の「KVM」(Kernel-based Virtual Machine)を利用した仮想化基盤を管理するサービス「Prossione Virtualization」(プロッシオーネ・バーチャライゼーション)を2025年7月から提供開始すると発表した。
●VMware製品のライセンス変更に対応 NTTデータの新施策のポイントは?
同社が2025年3月12日に開いた記者会見では、NTTデータの冨安 寛氏(取締役常務執行役員テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野担当)と、NTTデータグループの濱野賢一氏(技術革新統括本部プリンシパル・エンジニアリングマネージャー)が説明した。仮想化基盤を巡る動きの背景や同社が新サービスを提供する思惑についての話が興味深かったので紹介しつつ、クラウド移行と比べた場合のユーザー企業にとってのメリットについて考察したい。
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「当社は日本の官公庁や金融機関のシステムを多く手掛け、日本人の手でシステムを構築して運用することに長年にわたって骨を砕いてきた。そこで非常に大事なのは『主権』(ソブリン)だ。いかにデータや運用の主権を持ってシステムを使い続けられるかが大事なポイントだと考えている」
こう話した冨安氏は、次のように説明した(図1)。
「当社は主権を確保したシステム基盤として、『OpenCanvas』というパブリッククラウドサービスを提供している。それに加えて今回、VMwareの動きを受けてオンプレミスの仮想化基盤にも乗り出すことにした。現在、仮想化基盤市場は米国製のVMware製品が97%のシェアを占めており、日本企業としてはこの機に主権を取り戻すべきだと考える向きも多い。そうしたニーズに応えるべく、VMwareの代替製品としてOSS(Open Source Software)のKVMを適用したサービスを提供することにした」
なぜ、KVMなのか。同氏は次のように述べた(図2)。
「仮想化基盤として現状ではほとんどVMware製品が使われているが、一方で、その上で使うWebサーバやAP(アプリケーション)サーバ、DB(データベース)サーバの仮想マシンにはそれぞれOSSがかなり浸透している。OSSはソフトウェアのコードをわれわれも見られるので、その意味では主権を保持できる。従って、仮想化基盤もOSSにしようというのが当社の提案だ。KVMは「Linux」が内包するツールとして以前からあったが、信頼性の観点からあまり使われることなく、仮想化基盤市場はVMwareが独占してきた。そんなKVMに改めて光を当てて、当社として主権と信頼性を担保していこうというのが、今回の発表の主旨だ」
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図2とその内容の説明については、この分野を知るエンジニアにとっては周知のことだろうが、VMwareを巡る動きのポイントでもあるので、理解がもっと広がることを期待したい。
●大事なのは「主権」「信頼」そして「説明責任」
冨安氏は図3を示しながら、今回の取り組みの背景に、NTTデータグループがこれまで培ってきたOSS活用を支える体制や、KVMを活用してきた経験値を強調した。
OSS活用を支える体制としては、2004年にOSS専門組織を設置し、多様なシステムでの導入やOSSの開発およびサポートを継続している。これまでに1000システムを超えるOSSの採用実績があるという。
また、KVMを活用した案件実績では「JA業態の中継系システム」などがある。現在メイフレームを使用している銀行勘定系システムをオープン化する「統合バンキングクラウド」を開発中とのことだ。
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こうした背景から、同社は今回、Prossione Virtualizationを発表した。その内容について、同氏は次のように説明した(図4)。
「KVMは、大きなシステムの仮想化基盤として管理機能が不足している。それをカバーするために当社で開発した『Prossione Virtualization Manager』をまず提供する。これにより、従来のVMwareの管理機能レベルにかなり肉薄する形で、安心かつ安全に運用できるようになると考えている。管理に関わるナレッジやドキュメント、プロダクトサポート、さらにはシステムインテグレーションやトレーニングも提供する」
Prossione Virtualizationの詳しい内容については、発表資料をご覧いただきたい。
冨安氏は上記のように説明した後、同社の思惑について次のように述べた。
「当社が手掛けている近く更改予定のVMware関連システムの案件を見ると、(VMware製品のライセンス形態において柔軟な対応も見受けられることから)4分の3は当面VMwareを使い続け、4分の1は他の何かに乗り換ようとしている。乗り換えようとしているお客さまは今後も同じシステムを長く使いたいとの要望があり、仮想化基盤におけるライセンス形態やバージョンアップのポリシーの変更などによる混乱に巻き込まれたくないとの思いが強い。新サービスはそうしたニーズに対応したもので、当面VMwareを使い続ける4分の3のお客さまも今後、対象になると見込んでいる」
上記の話は、同社の思惑であるとともに、VMwareに関する最もホットな動きといえるだろう。
●クラウド移行と比べた際のメリットは?
ただ、VMwareの乗り換えについては、これを機にクラウドへ移行する選択もある。筆者も将来を見据えれば、その方向へ動いた方がいいのではないかと考える。しかし、濱野氏によると、そうでもないようだ。
「クラウドへ移行する選択ももちろんあるが、大事なシステムやデータを手元に置いて主権や信頼性から自分たちで責任を持って運用したいというニーズは根強い。クラウドだけでなくオンプレミスも選択肢になる。まずはそうしたお客さまのニーズに応えるのが当社の役目だと考えている」
最後に、気になる予測レポートを紹介しておこう。ガートナージャパン(以下、ガートナー)によると、「2026年末までに、日本企業の半数は、従来型の仮想化基盤の近代化に失敗する」とのことだ。詳しくはガートナーの発表資料をご覧いただくとして、この予測は現実に照らし合わせた上での「強い警鐘」と受け取るべきだろう。
NTTデータグループが打ち出した新施策が奏功するか、注目していきたい。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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d払いで障害発生 ユーザー困惑(写真:ITmedia NEWS)55
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