
梶谷隆幸×高森勇旗 ベイスターズ同期入団対談(全4回/1回目)
昨年、18年の現役生活に幕を下ろした梶谷隆幸氏。その梶谷氏とベイスターズの元チームメイトであり、同期入団の高森勇旗氏が再会し、激アツトークを繰り広げた。第1回目は引退後に訪れた"何もない日々"と、そこで感じた不安と現実。ふたりの元プロ野球選手が今だから話せる引退後のリアルとは──。
【給料が入ってこない恐怖】
高森 まずはお疲れさんだね。結局、カジ(梶谷)は何年やったの?
梶谷 18年。ボロボロになっちゃったよ(笑)。
高森 ちょうどオレの3倍も現役をやったのか。オレも2012年いっぱいで引退を決断して、翌年の1月から何もない日がはじまったんだよな。どう今は? オレはなんにも手応えがないふわふわした日々に「このままで大丈夫なのか......」って不安になったもんだよ。
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梶谷 そうね。オレも引退してからずっと家にいたからね......変な感覚だよ。それよりも、めちゃめちゃ現実的な話をしてもいい? 1月から給料がなくなったでしょ。これでこの先も家族を養っていかなきゃいけないじゃない。「本当に大丈夫なのか?」って恐怖がめちゃめちゃあるわ。
高森 それな。わかる。前年の12月25日に最後の振り込みがあるんだよね。球団から給料の支払い調書が届いて、俺の場合ば最後の給料が100万円ちょっとだった。当時の年俸は580万円だったけど、12月はちょっと多くてうれしかったのと、これで給料が止まるのかという恐怖があった。
梶谷 ここから頑張らんと、通帳の数字は減っていく一方だからね。怖いよ。
高森 次、頑張んないとな。身体的にはどうなの? もうトレーニングをしなくてもいいし、食事だって気を遣わなくたっていいわけじゃない。
梶谷 無理して食べなくてもいいのが大きいね。1日2食の日が多くなったけど、食べるものには気をつけているからグルテンフリーとか、お酒も家では飲まないように気をつけているかな。
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高森 カジはもともと食べないと痩せる体質なの?
梶谷 食べても痩せる(笑)。去年の今頃と比べると、10キロは痩せてるわ。いま80キロになっちゃったんだけど、もう落ちるものがなくて下げ止まりだよ。会う人会う人にカリッカリだなって言われる。
高森 引退してからけっこう経つけど、ヒザの調子はどうなの?
梶谷 ヤバいね。筋肉が落ちちゃったから支えるものがないじゃない。現役の時よりも余計におかしくて、日によっては歩くのもキツイ。
高森 肩と腰は?
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梶谷 常に痛い(笑)。
高森 本当にズタボロになるまでやりきったよね。これからどうするのさ? 積極的モラトリアム期間として空虚な時間を消費していくのか。それとも何か考えていることがあるの?
梶谷 考えていることはある。また野球とは別のことなんだけど、それはまだ勉強中だから、今のところは日々学んで備えているところかな。
【野球を見るのは好きじゃなかった】
高森 野球をやりたいって気持ちにはならない?
梶谷 うーん......どうだろう。年末の番組で88年生まれの同級生と久しぶりにバットを振って、キャッチボールをやって、「やっぱり野球はいいな」とは感じたけど......本格的にはやりたくはないかな。物理的にできないっていうのもあるし。
高森 誰かの自主トレに行ったりは?
梶谷 ないね。オレ、思ったよりも野球を見るのは好きじゃなかった(笑)。野球は好きだけど、やりたいほうだからさ。
高森 そうか。オレが引退した時は、すぐに当時メジャーリーガーだった川崎宗則さんの自主トレにお邪魔して、「こんなトレーニングしているんだ」って驚いたことがあってね。今でも菊池涼介の自主トレに行っているのもそういう発見があるからなんだよね。興味ない?
梶谷 ない(笑)。
高森 キャンプも行かなかった?
梶谷 行かない。だって、何しに行くん?
高森 先輩風吹かせにいけるじゃん。「おお、クワ(桑原将志)。元気でやってるか」みたいな。
梶谷 嫌だよ。
高森 アハハ。オレ、何度か行っちゃったよ。
梶谷 お世話になった人への挨拶もひと通り終わっているわけだから......解説とか評論家をやるならまた別なんだろうけど。
高森 カジはベイスターズのOBで通用するけど、オレはどのツラ下げて行けばいいのかわかんないし。
梶谷 そこの論点がまずおかしいわ。どうでもよくない? モリ(高森)だって実際にいたんだからOBだよ。
高森 でもカジは横浜スタジアムの正面から堂々と入っていたわけじゃん。オレなんて現役時代、正面玄関から入ったのは2回だけだよ。いまだに緊張するわけ。横須賀は緊張しないけどね。ホームグラウンドだから。
梶谷 関係ないやろ。
高森 いやいや。「OBかどうか認定されているのか問題」はカジにはわかんないだろうな。オレなんていつも受付で「どちらさんですか?」みたいな顔をされるから、OBということは隠して「本日、TBSの依頼で解説に来ました高森です」なんて言ってるの。後輩やスタッフが通ると「おう!」なんて挨拶してさ、本当にOBだということを客観的な何かを使って周囲に表現しないと安心できなくて。
梶谷 そういうもんなのか(笑)。
【巨人には感謝しかない】
高森 さらに通底する「OBにあいさつをどうするか問題」もあるじゃない。佐伯(貴弘)さんや番長(三浦大輔)といった関係性のある人に会ったらもちろんあいさつをする。じゃあ、大御所の平松(政次)さんや佐々木(主浩)さんといったレジェンドが目の前を通った時にどうするか。「こんにちはベイスターズにいました高森です」とあいさつするのが礼儀なんだけど、向こうからしたら何も知らない人間から声かけられて逆に面倒じゃないかと......。オレ、物陰に隠れるもん。「早く行ってくれないかな」って祈りながら。
梶谷 普通にスルーすればいいじゃんかよ。
高森 違うぞ、カジ。目が合ってしまって、「見たことある。後輩だな。でもあいさつねぇな」って認識された時が一番厄介なんだ。
梶谷 なるほど。おもろいな(笑)。ちなみに何年いればOBと認定されるの?
高森 どうなんだろう。野球でダメだった分、これからオレがひと角の人物にならなければ無理なんじゃないかな。ノーベル賞を獲ればベイスターズOBで最高位になれるかもしれない。
梶谷 ビッグホープ賞(※)じゃダメか。
※イースタン、ウエスタンの両リーグから将来の活躍が期待される選手に贈られる賞で、2009年に高森氏が受賞
高森 ダメだろ。ていうか、よく覚えているな。
梶谷 オレも東京ドームに行ったら同じ気持ちになるのかな。4年しかいなかったから。
高森 違うぞ、カジ。おまえだって実際巨人にいたんだからOBだよ。ちなみに、カジはリーグ優勝のビールかけに呼ばれたら行ってた?
梶谷 「配慮はありがたいですが、僕なんてお呼びじゃないです」とお断りさせてもらいますよ。ファン感(ファン感謝デー)も同じ理由で断っているしね。
高森 ファン感は呼ばれたんだ。
梶谷 ジャイアンツのスタッフってとにかくやさしい人が多くて、「カジ、引退試合はしていないんだから、最後に引退セレモニーぐらいはやらないか」って言ってくれて。でもオレ、4年間何もしてない外様だからね。申し出はものすごくうれしかったけど、それを受けるのは違うと思った。引退会見をやらせてもらえただけでもありがたかった。ジャイアンツには本当に感謝しているんだ。
2回目につづく>>
梶谷隆幸(かじたに・たかゆき)/1988年8月28日生まれ。島根県出身。開星高から2006年の高校生ドラフト3巡目で横浜ベイスターズから指名を受け入団。13年に16本塁打を放ちブレイク。14年に39盗塁をマークして、盗塁王のタイトルを獲得。20年オフにFA宣言し、巨人に移籍。21年は開幕からレギュラーとして結果を出していたが、7月に死球を受けて右手甲を骨折。9月には椎間板ヘルニアの手術を受けるなど、61試合に出場にとどまった。24年シーズンは開幕スタメンを果たし、ライト守備であわや逆転のピンチを救う超ファインプレーで勝利に貢献するも、ケガには勝てず現役引退を決断した。
高森勇旗(たかもり・ゆうき)/1988年5月18日生まれ。富山県出身。中京高(岐阜)から2006年の高校生ドラフト4巡目で横浜ベイスターズから指名を受け入団。09年にイースタン最多安打を記録し、プロ初安打も記録。12年に戦力外通告を受け引退。翌年よりデータアナリスト、ライター、イベントディレクターを経て、現在は企業のエグゼクティブコーチングを行なう株式会社HERO MAKERS.の代表取締役を務め、一部上場企業を含む30社以上の企業変革に関わる。著者に、『俺たちの戦力外通告』(Wedge出版)、『降伏論』(日経BP)、『勇気が出る旅』(ワニ・プラス)がある。