
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、デミ・ムーア主演作『サブスタンス』(2025年5月16日公開)です。個人的には2025年の公開作の中で「ベスト3に入る!」と断言できる怪作。試写で鑑賞しましたが、美と若さを追求するあまりに暴走し、崩壊していくヒロインが凄すぎて……。
とにかく大傑作なので多くの人に観てほしい!というわけで、物語からご紹介します。
【物語】
元トップ俳優のエリザベス(デミ・ムーアさん)は、老化による美の衰えと仕事の減少に悩んでいました。焦った彼女は新しい再生医療「サブスタンス」を試してみることに……。
その物質を体内に入れると、エリザベスの背中が裂け、そこから現れたのは若く美しい美女・スー(マーガレット・クアリーさん)。体は別人だけれど、エリザベスとスーはひとつの精神をシェアする存在。そしてスーは瞬く間にスターになるのですが……。
|
|
【心は自分、身体は別人!】
最近は、整形してコンプレックスを克服するということに抵抗がなくなってきましたが、この映画で描かれている美の追求は整形を超えています! なぜなら「サブスタンス」を体内に注入すると、自分から若くて美しい別人が出てくるのですから……。
でも心はエリザベス。つまり身体だけ若い美女になるわけです。
この “体はふたつ、心はひとつ” という設定が良き。なぜなら元スター俳優・エリザベスのことは業界中が知っており、彼女の見た目が若くなっても年齢は明らかなので「どんな手を使ったんだ?」と、変な噂も立つと思うんですよ。しかし「サブスタンス」のおかげで見た目はスーという名前の美女になるわけですから、業界人はスーがエリザベスとは誰も気づかないのです。
そして彼らは美しいスーに興奮し「スター誕生だ!」と持ち上げて彼女に活躍の場をどんどん与えていく……。エリザベスは生まれ変わった “スー” のルックスで、かつてのような名声を得ることに成功するわけですね。しかし、「サブスタンス」には鉄の掟があったのです。
【美を手に入れるための鉄の掟】
実は、「サブスタンス」の効果は1週間。1週間ごとにエリザベスはスーと自分の体を行ったり来たりします。スーのときは表舞台でスポットライトを浴びまくりますが、エリザベスに戻ると再び老化した自分に逆戻り。
|
|
やがて彼女は「美女として生きる1週間を延長したい」と思うようになります。エリザベスとスーは1週間交代をしなければならないという鉄の掟があったのに、彼女の “強欲” が暴走してしまうのです!
そこからどう変化していくのかは、映画を観てただきたい。だって、スゴすぎて怪獣映画を見ているようだったんですもの。
【ルッキズム文化が女性を歪ませる】
しかし、この映画で起こることはエリザベスだけでなく、誰もが陥る罠だと思うのです。そして、その元凶は女性たちに「若さと美こそ価値がある」と思わせる社会。
よく年齢を重ねた有名人の見た目に対して「劣化した」と言いますが、あの言葉なんて最たるものでしょう。そうやって女性たちを追い込んでいるんですよね。
【デミ・ムーア一世一代の名演技】
本作で圧倒的な怪演を見せたデミ・ムーアさんはかつて全身整形をして美を維持していたというウワサもあったので、この役はセリフパロディのようだとも言われています。
|
|
しかし「エリザベスに人生の全てを懸けた!」と言っても過言ではないくらい凄みがありました。彼女以外にエリザベスを演じられる俳優はいない。ここまで腹をくくって暴走できる俳優はいないと思います。それくらい素晴らしかったです。
これは全女性必見の映画だと思う。ルックスを磨くのは素敵なことだけど、それに固執しすぎると痛い目にあう、逆効果になってしまう、と。この映画を見てぜひビビってください……!
執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:(c)The Match Factory
『サブスタンス』
2025年5月16日(金)より全国ロードショー
監督・脚本:コラリー・ファルジャ
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
配給:ギャガ アメリカ/142分/R-15