【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

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2025年05月16日 08:10  エンタメOVO

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『サブスタンス』(5月16日公開)




 50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによってレギュラー番組を降ろされたことから、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、禁断の再生医療「サブスタンス=物質」に手を出す。

 そして、薬品を注射するやいなや、エリザベスの背を破って現れたのは、若く完璧な“自分”であるスー(マーガレット・クアリー)だった。若さと美貌に加え、エリザベスの知識と経験を持つスーは、たちまちスターダムを駆け上がっていく。

 一つの精神をシェアする2人には、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあったが、次第にスーがルールを破り始め、やがて暴走していく。

 バイオレンス映画『REVENGE リベンジ』(17)などを撮ったフランスの女性監督コラリー・ファルジャが描く異色のホラーエンターテインメント。

 第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞。第75回アカデミー賞では作品賞のほか計5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得。ムーアはゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル/コメディー部門)に輝いた。

 オープニングで、卵の黄身に注射を打つと二つに分裂するさまが映り、続いてエリザベスのウォーク・オブ・フェームのプレートがだんだんと寂れていく変化が映る。これから起こる出来事を象徴するシーンとして印象に残る。

 特殊メイクとCGを駆使したエリザベスとスーの対照的な姿を通して、若さと美しさへの執着、アンチエイジング、若返り、整形といった美醜に関するアイロニーや悲しさ、残酷さが浮き彫りになっていくのだが、アルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』(58)におけるバーナード・ハーマンの音楽が流れるに至って、ファルジャ監督は、一人二役による変身譚を描きたかったのだと納得させられた。

 かつて美人女優として活躍したムーアが、そこまでやるか…と思わせる怪演を披露し、ホラーとコメディーが交錯する怪作に仕上がっている。グロテスクな描写も目立つが、オープニングで映るエリザベスのウォーク・オブ・フェームのプレートがちゃんとラストシーンにつながるところにカンヌで脚本賞を得た片りんがうかがえる。

『ノスフェラトゥ』(5月16日公開)




 1838年。不動産業者のトーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)は、自身の城を売却しようとしているオルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)のもとへ向かう。

 トーマスの不在中、彼の新妻エレン(リリー=ローズ・デップ)は夫の友人宅で過ごすが、ある時から、夜な夜な夢の中に現れる得体の知れない男の幻覚と恐怖に悩まされるようになる。そして時を同じくして、トーマスやエレンが滞在する街に、さまざまな災いが起こり始める。

 『ライトハウス』(19)『ノースマン 導かれし復讐者』(22)の鬼才ロバート・エガース監督が、吸血鬼映画の原点といわれ、自身も多大な影響を受けたというサイレント映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)に、独自の視点を取り入れて描いたゴシックロマンスホラー。

 ウィレム・デフォー、アーロン・テイラー=ジョンソンらが共演。第97回アカデミー賞で撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門にノミネートされた。

 史上初の本格的な吸血鬼映画であるF・W・ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』は、1897年に発表されたブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』をベースにしているが、版権問題が絡んだため、ドラキュラ伯爵の名はオルロックとなり、吸血鬼の呼び名はノスフェラトゥとなった。この映画もそれを踏襲している。

 劇中、ノスフェラトゥのもたらした大量のネズミがドイツの港町にペスト菌をまき散らす様子が映るが、これは吸血鬼がウィルスの恐怖のメタファーであることの証し。その意味では、オリジナルの『吸血鬼ノスフェラトゥ』がスペイン風邪の流行後に公開され、この映画がコロナ禍収束後に公開されたのは象徴的であり、吸血鬼映画の普遍性を示している。

 またこの映画は、スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(75)やリドリー・スコット監督の『デュエリスト/決闘者』(77)のように、シーンによっては照明機材を使わず、自然光やろうそくやたいまつの炎だけを頼りに撮影されたという。そのためバロック絵画を思わせるような映像美が創出された。

 エガース監督が「これこそ私が現代の観客のために掘り起こしたかった吸血鬼」「ドラキュラをおとぎ話に反映させた作品」と語るように、現代性を持った古典の映画化として見るべき価値がある。オリジナルとの最大の違いは音と色を得たことだろう。

(田中雄二)

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