カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、アジア太平洋で「蔦屋書店」と「TSUTAYA BOOKSTORE」(ツタヤブックストア)の出店数を伸ばしている。同エリアへの進出は2012年の台湾出店から始まり、2025年5月時点で台湾12店舗、中国12店舗、マレーシア3店舗、カンボジア1店舗を展開する。
CCCのグローバル戦略の目的は、「出店」そのものではなく、両国の文化の架け橋(拠点)になること。その目的に沿い、日本の文具や雑貨、アニメやコミックといったIP(知的財産)などのアイテムをそろえるほか、食でも日本文化を取り入れている。
中国では閉店した店舗もあるが、海外展開は概ね好調で、特に近年進出したマレーシアやカンボジアでは、開業時に行列ができるなど想定以上の反響だという。
アジア太平洋地域における蔦屋書店及びツタヤブックストアの事業戦略と、これまでの反響を蔦屋投資(上海)有限公司 董事長(とうじちょう)の橋本龍之介氏、TSUTAYA BOOKS MALAYSIA SDN.BHD. CEOの上本英之氏に聞いた。
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●ブランド認知が進む中国、台湾
CCCが運営する蔦屋書店事業には、蔦屋書店とツタヤブックストアの2ブランドがある。蔦屋書店は地域ごとのオーダーメイド設計で、投資コストが高く、工芸品などの高額商品も扱う。一方、ツタヤブックストアは空間価値を維持しながらの横展開が可能で、商業施設などに導入しやすい設計だ。新規の加盟企業でもコストを抑制して出店できる。
海外展開においてCCCが重要視するのは、地域特性を考慮した戦略だ。そのため直営ではなくフランチャイズ展開で、社員は現地採用している。
アジア太平洋への出店は、2012年の台湾から始まった。当時は、台湾の映像パッケージレンタル・販売チェーンの大手「亞藝影音」(ヤイインイン)との事業提携により、亞藝影音の店舗をTSUTAYAにリニューアルおよび新規出店の計画を進めていた。しかし、動画コンテンツの台頭などデジタル化の波により戦略をシフト。
ツタヤブックストアの出店に舵(かじ)を切り、2017年以降、台北、桃園、台中、高雄など一等地への出店を重ねる。2025年5月時点で、同国のメインエリアである西側に12店舗を展開。今後は、人流が少なく商業が難しいと言われる東側にも出店を拡大する見込みだ。
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2020年には中国に進出。ブランディング強化を目的に、1級都市にまず1店舗を出店する計画を進めてきた。1号店は「杭州天目里(クイシュウ・テンムウリ) 蔦屋書店」で、世界的建築家のレンゾ・ピアノ氏がプロデュースした商業施設「天目里」内に開業したため、非常に注目を集めたという。
続いて、上海に2店舗の蔦屋書店を出店。さらにツタヤブックストアの出店も進め、2025年5月時点で12店舗(蔦屋書店3、ツタヤブックストア9)を展開する。
「台湾・中国のメインユーザーは20〜30代の若年層で、両国とも書籍市場は縮小しているものの、日本のIP商材、特にアニメ商材が非常に好調です。一等地に出店を重ねたことで、現地での『ツタヤ』のブランド認知が進んでいます。台湾では約160〜500坪のさまざまなサイズの店舗を構え、中国では約500〜700坪のパッケージを広げています」(橋本氏)
中国ではコロナ禍に出店を重ねた影響で、これまでに3店舗を閉店している。フランチャイズオーナーの多くが商業施設のデベロッパーで、施設全体の営業不振から閉店を余儀なくされたケースが多い。そうしたケースを除けば、順調に拡大しているそうだ。
●2022年にマレーシア進出、3店舗を展開
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続いて、2022年にマレーシアに進出。現地における蔦屋書店とツタヤブックストアのフランチャイズ事業の展開にあたり、CCCと双日(東京都千代田区)で合弁会社・TSUTAYA BOOKS MALAYSIA SDN.BHD.を設立し、事業拡大を進めている。
なぜ台湾、中国に続き、マレーシアだったのか。
「タイやインドネシア、オーストラリアなどさまざまな国から出店のオファーをいただきましたが、現地調査を経てマレーシアに決めました。同国は東南アジアの中でも貧富の差がそれほどなく、国民全体の英語力が高い。マレー系、中華系、インド系の3大民族から成る多民族国家で、文化の架け橋になるには非常に良いエリアだと考えました」(上本氏)
日本企業の東南アジア進出といえば、タイ・バンコクやシンガポールが真っ先に浮かぶが、バンコクでは加盟企業が決まらなかった。かつ、英語の識字率が低いのも懸念事項だ。シンガポールは物価が高く商売が成り立ちづらいという理由から、マレーシアを優先したという。
2022年7月、1号店の「ブキット・ジャリル 蔦屋書店」を開業。ブキット・ジャリルは首都クアラルンプール南部に位置する住宅地・商業地で、東京の「二子玉川」のようなエリアだという。
同店は2021年12月にオープンしたマレーシア最大級の複合商業施設内にあり、店舗面積は約800坪と広大だ。書籍や雑貨売り場、アートギャラリー、購入前の書籍や雑誌を閲覧できるカフェなどが入る。
2023年10月には、クアラルンプールの中心地に2号店の「ツタヤブックストア インターマークモール店」を開業。2024年11月には、シンガポールに隣接するマレーシア第二の都市・ジョホールバルに、3号店の「ツタヤブックストア イオンモール テブラウ シティ店」を開業した。
●1号店は1000人の大行列、家族連れに好評
「マレーシアでのターゲットは主に中華系、20〜40代の子どもを持つファミリー層で、児童書売り場を充実させています。さらに、各店の来店層に合わせて英語、中国語、マレー語、日本語の書籍をバランスよく展開しています」(上本氏)
マレーシアの店舗はどこも想定以上の反響で、1号店では開業日に1000人以上の行列ができた。
「東南アジアでは、『ツタヤ』のブランド認知は高くありません。ただ、日本の有名な書店が開業すると口コミで情報が広がっていたらしく、大勢の方が来店されました。ちょうど、コロナが収束しつつあったときで、外出したい気持ちが高まったタイミングと重なったことも影響したかもしれません」(上本氏)
マレーシアでは子どもに絵本を購入する文化が浸透しており、書籍のジャンルでは「児童書」が最も人気だ。中でも「英語の児童書」は、最も売れ行きが良いという。IP商材も好調で、特に日系の商品は飛ぶように売れているそうだ。
「現地ではわれわれのような複合書店は珍しく、単なる本屋というより、時間を消費するようなライフスタイル提案型の設計が好評の理由かもしれません。実際、カフェに立ち寄って本を読んだり、交流を楽しんだりする方が多いですね」(上本氏)
●カンボジアでも想定以上の売れ行きに
2025年4月には、カンボジア1号店となる「ツタヤブックストア イオンモール プノンペン」をオープン。同国での展開も、双日との合弁会社が担っている。カンボジアを選んだ理由は、コロナ禍を除いて高い経済成長が続いていて、人口増加が予測されること、日本との友好関係が深いことだという。
「実は、同国の加盟企業の方とは私の知人を介して出会いました。カンボジアは歴史的背景から文化を発信する施設が乏しく、図書館は国内に1つだけ、本屋もほとんどありません。国を良く変えていくには読書を通じて知識を得ることが必要で、書店を出すなら『ツタヤ』を開業したいとのお話をいただきました」(上本氏)
カンボジアといえば、発展途上国のイメージを持つ人が少なくない。しかし、1号店がオープンしたプノンペンの中心部には高級住宅街やホテルが立ち並び、住民の大半は中高所得層のニューファミリーだという。
店舗面積は466坪で、同国の書店では最大規模。書籍はもちろん、文具や雑貨も豊富に扱う。カンボジアと日本の食文化を融合させたカフェレストランもあり、長く過ごせるよう設計されている。
カンボジアでもオープン前から話題を呼び、公式Facebookのアカウントには1万人以上のフォロワーが集まった。開業初日はひっきりなしにお客が来店し、すっからかんになる棚もあったという。
「現地に競合がいないこともあってか、想定以上の売れ行きでした。人口のボリュームゾーンである20〜30代が主な来店層で、全体的に書籍の需要が高く、児童書が最も売れています。カフェも非常に好調ですね」(上本氏)
●「空間デザイン事業」を拡大する動きも
今後の展開として、中国・台湾では引き続き出店を進めつつ、商業施設や企業などの空間デザイン、ブックディレクション、アートの提案といった事業も開始するという。
「日本国内で蓄積してきた空間デザイン領域の事業を、まずは中国で展開予定です。現地の大手企業と提携して進めていきます。出店は重要なコンタクトポイントであり、体験価値やブランド認知の向上に役立ちますが、文化の架け橋となるために、ライフスタイル全般の提案にまで広げていきたいと考えています」(橋本氏)
一方、進出から日が浅いマレーシアやカンボジアは、まず店舗数を増やしていく方針だ。
「マレーシアでは、クランバレーやペナンといった人口200万人規模の都市への出店も計画しています。カンボジアでは、現地加盟企業との契約で2034年までに6店舗を出店する計画です。エリアはプノンペンがメインで、有名観光スポットのアンコールワットがあるシェムリアップも検討しています」(上本氏)
マレーシア、カンボジアでの好調を受けて、さらに海外展開が加速するかもしれない。
(小林香織、フリーランスライター)
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