「腹話術のやり方は教えない」から一転、いっこく堂が明かす30年のキャリアと令和世代の反応

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2025年05月25日 08:10  週刊女性PRIME

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腹話術師、ものまねタレント・いっこく堂(撮影/山田智絵)

 長年、腹話術界のトップを走り続けてきたいっこく堂も、今年で62歳。2023年には初孫も誕生し、プライベートでも節目を迎えた。それでも止まることなく、今なお芸を磨き続けている。一方で、年齢を重ねるにつれ、芸との向き合い方にも変化が生まれてきたという。唯一無二の腹話術師は、今、どこを目指しているのか。本人に話を聞いた。

腹話術界のトップ・いっこく堂が目指す場所

 今回の取材には、おなじみの存在である「師匠」と「カルロス・セニョール・田五作」も同席。人形は約30体あるが、実際に出番が多いのはだいたい同じメンバーだという。'24年に出演したフジテレビ系バラエティー『千鳥の鬼レンチャン』にも「師匠」と共に出演。腹話術で長渕剛や松山千春、桑田佳祐などの歌モノマネを披露し、お茶の間を驚かせた。

「普段テレビに出てもそこまで反響はないのですが、『鬼レンチャン』のときはかなりありましたね。『腹話術で歌えるのか!』って。腹話術の歌ネタは、10年くらい前にテレビで披露していたので、自分の中ではそんなに驚きはないと思っていました。でも世間的にはいまだに『声が遅れて聞こえてくる人』の印象が強いみたいですね(笑)」

 視聴者層は若い世代も多く、中には腹話術そのものを知らない子どももいた。

「小学生のお子さんが『この人ずるい。人形が歌ったら合格するのは当たり前じゃん』と言っていたとか。僕が声を出しているということに気づいてなかったんです。まさかこんな反応がもらえるとは思っていなかったので、出演したのは大正解でしたね」

 それまで歌ネタのレパートリーは、大人世代に親しまれる曲が中心だったが、番組出演をきっかけに若者向けの曲も聴くようになった。

「最近でいうと、Mrs. GREEN APPLEとか、Saucy Dogとかを聴きます。若い人向けのショーはなかなか機会がないんですけどね。せめて歌えるようにはしておこうと思って練習しています」

 取材中、突然その場で西田敏行さんの歌モノマネを披露してくれた。口を閉じた状態であるにもかかわらず、部屋中に声が響く。

「テレビではわかりづらいですが、実は声量がかなりあるんです。胸などを使って響かせるので、大きな声もちゃんと出るんですよね」

年齢を重ねたので“教えたい”意欲も

 しかし、年齢を重ねる中で、「いつまで腹話術ができるのか」という不安も感じるようになった。

「昔よりも高音が出せるようになったので、声はまだいけそうです。ただ、問題は体力。腹話術はセリフも多いし、人形を操るのに上半身の筋肉をかなり使うので、体力の消耗が激しいんです。最近は、1時間のショーをやるともうクタクタ。前はそれを1日に2本、しかも毎日のようにやっていたから自分でも驚きます」

 それでも「70代までは大丈夫そう」と笑う。

「とはいえ、70代になるのもすぐですからね。皆さんそうだと思いますが、年を取ると月日がたつのが本当に早く感じます。別に悲観的になっているわけじゃなくて、そろそろ“死”についても考え始める年齢です。人間いつ死ぬかわかりませんから。腹話術のやり方を教えようと思えるようになったのも、そうした年齢による心境の変化が大きいですね」

 かつては、腹話術のやり方は絶対に教えないと決めていた。しかし現在は、自身のYouTubeチャンネルで腹話術のやり方を公開。「声が遅れて聞こえてくる」でおなじみの衛星中継のネタも、すべて無料で見ることができる。

「周りからは、『無料で見せていいの?』なんて聞かれますが、全然構いません。僕の動画を見て、新しい腹話術を考える人が出てきてくれたらうれしいです。

 例えば、お笑いと腹話術、両方の才能を持った人が出てきたらすごいですよね。僕はお笑いの才能に乏しく、腹話術なら勝てるかもと思ってやり始めたタイプなので。でも難しいのが、普通にしゃべって笑いが取れる人は、腹話術をやらないんですよ(笑)」

 動画のコメント欄の中には、米国の公開オーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に出演してほしいという声も挙がっているが、本人は「あまり興味ないんですよね」とのこと。

「でももし出るとしたら、歌ネタかな。以前は海外でもショーをしていましたが、やはり海外のお客様は盛り上がるのが上手ですね。日本人よりも食いつきがいい感じがします」

 文化の違いは、ネタの内容にも表れている。

「海外にも腹話術師はいますが、人形に政治批判を言わせたりするんですよ。

 日本ではなかなか見ないネタですね。海外だとスタンダップコメディーが主流だから、腹話術もその流れなのかもしれません」

 世界中の腹話術師を見てきた中で、「すごいと思う人もいた」というが、自身を超えるレベルの人物がいたかという質問には、「うーん」と首をひねる。世界規模で見ても、いっこく堂と同レベルの腹話術師はいないのだ。

 もちろん日本でも、彼に代わるような新しい腹話術師は20年以上出てきていない。それでもいまだに新ネタを考え、芸を磨き続けるモチベーションは、どこからくるのだろうか。

「単純に、もっとうまくなりたいという気持ちだけです。自分の芸を見て、『ここは直したほうがいいな』と思うことがいまだにあるんです。人形がしゃべりだすタイミングと、僕の口を閉じるタイミングとかね。ちょっとずれるだけで、腹話術に見えなくなる。見直すべき細かい点は、まだまだ尽きません」

画期的な若手とコラボをしたい

 プライベートでは、'23年に初孫が誕生した。現在はカンボジアで暮らしているため、直接会うのは年に1、2度だ。

「でも離れているからといって、寂しさは感じないです。今の時代、ビデオ通話を使えば、顔を見てコミュニケーションができますから。僕が沖縄から東京に出てきた40年前は、電話をするのも大変でした。300円で3分もしゃべれないんですよ。そのころを知っているから、今はいい時代です」

 60歳という節目の年齢を越え、さらに家族も増えたいっこく堂。今後、腹話術師として、どんな挑戦をしていくのか。

「みんながもっと腹話術に関心を持ってくれたらうれしいですね。僕が始めた30年前は、腹話術ってバカにされる芸だったんです。それをなんとか、今の状態まで持ってきましたが、それでもまだまだと感じます」

 しかし、数年前から神戸市の腹話術師が主催する「F―1腹話術グランプリ」が開催されるなど、アマチュア腹話術師たちが動き出している様子もうかがえる。

「何か画期的なネタが生まれて発信されれば、どこにいても、きっと注目されるはずです。僕自身、何もないところから出てきました。

 若手ですごい腹話術師が出てきたら、ぜひコラボしたいですね。もしいなければ、僕がまた新しいことを考えて、頑張ります(笑)」

<取材・文/中村未来>

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