
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第103回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
* * *
本連載のタイトルに「ウーバーイーツ組合委員長の」という文言が入っている通り、私はウーバーイーツ配達員の有志メンバーで結成する「ウーバーイーツユニオン」という団体で執行委員長というポストに就いています(任期は1年、毎年の定例会で組合員の投票により決められます)。
先日、ウーバーイーツユニオンが関わる、ウーバーイーツ配達員とウーバーイーツとのアカウント停止をめぐる裁判で、解決金を得て和解したという報告をするために記者会見を行ないました。
|
|
とはいえ、会見の内容については新聞や通信社を通していろいろ出ていて、目新しいことはないので、記者会見はどのようにして開くのか、ということについて書いていこうと思います。
記者会見というと、最近ではフジテレビの第三者委員会の記者会見など、大きな会場を使い、時間無制限で、すべての質問に誠実に回答するというものをイメージされる方が多いと思います。
しかし、配達員の有志で結成した小規模な人数の団体では、大きな会場を借りられるお金はありません。そこで、東京・霞ヶ関の厚生労働省の建物内にある会見室を使わせていただきました。
まず、弁護団の先生、ウーバーイーツユニオンの会見出席メンバー、裁判の原告となった配達員の方のスケジュールを調整。候補日をいくつか用意して、弁護団の先生のひとりが厚労省に電話。厚労省内にある記者クラブに「こういった内容の記者会見を会見室で行ないたい」と伝えます。そして、記者クラブの方が会見室の空き状況を確認。記者会見の日程を確定させます。
その後、記者クラブにどんな内容の記者会見をするかなどの内容を記入した申請書をFAXで送信。記者クラブの方たちが、この会見に関する幹事社を決め、幹事社の方が各メディアに連絡、出席者をとりまとめるなど、会見の準備を行なってくれます。そして弁護団の別の先生の方が、今回の裁判の訴状や原告の方のコメントをまとめた資料を作成。当日、会場の入り口に資料を置きます。
|
|
ここまで読んでお気づきの方もいるかと思いますが、記者会見を開くまでに私がやったことは、空いているスケジュールを伝えただけです。
弁護団の方は労働系の裁判を担当している方が多く、裁判の結果報告といった会見を厚生労働省で行う機会がけっこうあるとのこと。そのため、会見の申請に不慣れな人がもろもろ下準備をしたり、申請書を書き込むより手早く会見が開けるそうです。
そして何より、今回の記者会見については、和解条項に秘匿すべきものが入っていたので、素人であるウーバーイーツユニオンのメンバーがいろいろ動いて、万が一条項に抵触することがあったらまずいということで、会見までの下準備はほとんどお任せしました。
記者会見後にウーバーイーツユニオンのホームページやSNSで発表する裁判結果についての意見表明は、書記長が記者会見の1週間ほど前に原案を作成。私が修正したい箇所などを確認します。なので、こちらに関しても私の作業はほぼありません。会見の下準備をお任せする中、私がやることは、会見で何を発信するのかの整理です。
この裁判の和解で解決金がウーバー側より支払われたことに関する意味合いについてなど、専門的なことは弁護団の先生方がコメントするので、私には現役配達員としての思いを述べることが求められます。
|
|
この時「よかったです」「ホッとしました」といった、汎用性のある言葉を用いては記事を見た人の印象に残りません。かといって、感情に任せた発言をすると会見の席で言いたいことがうまく伝わらない可能性があります。
では、この裁判の結果を受けて発信したいことは何か。考えた末「アカウント停止になった場合、ウーバー側に事情を懇切丁寧に説明した文言を何度送っても定型文と思われる同じ文章しか返ってこないので、精神的に不安定になる。アカウント停止処分の際にはしっかり精査していただきたい」と伝えようと考えました。
会見は幹事社に選ばれたメディアの方が進行を担当。弁護団の先生方による今回の裁判の説明、和解内容の紹介、原告となった配達員のコメントの読み上げがあり、私がコメントを述べ、その後は各メディアからの質問という流れでした。スキャンダラスなことは一切ない会見だったからか、1時間ほどで終了。その後はメディアの方との名刺交換やその際に出た質問に答えて会見は終了となりました。
ただ、仕事はこれだけでは終わりません。このようなニュースは相手側のコメントも取材して、さらにその取材コメントを受けてウーバーイーツユニオン側がどう感じるかといったことまで取材して記事にするところもあるので、当日は夜まで、名刺交換をした記者の方からかかってくる電話の対応が求められます。今回の会見では夜11時過ぎまでいろいろコメントを出しました。
記者会見は会見前より会見後の方がやることが多いですが、自分たちの活動を知ってもらうことが大事なので、いろいろ取材をしてくれる記者の皆さんには感謝しかありません。
文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明