「姉ちゃんのせいだよ!」おとなしく真面目な弟が壊れた日…姉が見た「異常な部屋」の光景

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2025年06月12日 16:11  日刊SPA!

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 生きているとたまに出会う、やさしくて真面目な聖人君主のような人。けれどその人は、本当に自宅やひとりのときでも同じように人格者なのだろうか——。
「疑問に感じたら、私たち家族のようなケースもあることを思い出してほしい」と岩下晴美さん(仮名・40代)は話す。

◆評判も家族仲も良好な弟

 晴美さんの弟・拓実さん(仮名・30代)は、おとなしくて真面目な性格で、ご近所さんや学校関係者からも評判がよく、小さい頃から父親の友人である経営者から気に入られていた。そして拓実さんは、大学卒業と同時に父の友人が経営する会社へ就職。活躍している様子だった。

「父にとって拓実の存在はかなり自慢のようでした。弟は周囲からの仕事や性格面の評判が良いだけでなく、家族にもやさしく誠実。私を含めて家族の誰もが弟のことを大好きで、自慢で頼れる存在だと思っていたのです」

 ただ晴美さんと両親は、拓実さんには直接確認できない心配なことがあった。それは、聖人君主のような弟に、なぜか親友と呼べるような友だちや彼女ができないということ。拓実さんはいつの頃からか、学校から真っ直ぐ自宅に戻って自室で過ごすようになっていたという。

「それは拓実が社会人になってからも続いていました。私は弟と歳が離れていたので、結婚後は10年ぐらい別で暮らしていましが、両親からの話を聞くと少し心配で……。そんなある日、夫は出張。子どもは友だちとキャンプのお泊りイベントへ出かけたため、私だけが実家へ行く機会があったんです」

◆入院で明かされた「異常な部屋」

 ところがその日、弟の拓実さんが食中毒で病院へ運ばれるという事態が発生。意識も朦朧としているほど重症だったため、着替えなど入院準備をしようと拓実さんの部屋へ入った晴美さんは絶句。その部屋は、まるで泥棒でも侵入したかのように散乱していたのだ。

「しかも人形のようなものに名前を書いた紙が巻かれ、カッターナイフなどで切り刻んであったんです。とくに私の名前が書かれたものはとても多く、残酷な状態だったこともショックでした。弟に恨まれている自覚もなかったのでなおさらです」

 いても立ってもいられず退院した直後の弟に事情を聞いてみた晴美さん。人形のようなものを傷つける行為は、弟のストレス発散方法だったことが判明する。そして、周りから「いい子」「真面目」「やさしい」などと言われ続けてきたストレスなどについて吐露しはじめた。

「すごく苦しかったこと、そして弟が聖人君主のような人間を演じるしかなかったのは私のせいだったと話しはじめたのです。弟とケンカをした記憶すらなかった私にとっては、寝耳に水。説明してくれるまで、原因もまったくわかりませんでした」

◆「褒められること」が苦痛に…

 そして弟の拓実さんは、衝撃的な言葉を口にする。どうやら原因は「姉ちゃんが僕のことを“いいヤツ”呼ばわりしたから。そして、僕のことを褒め続けて庇い続けてきたからだ」ということらしい。晴美さんは2つの意味で言葉を失った。

「ひとつめは、私が褒めたり庇ったりしたことが弟に大きな負担を与え続けていたこと。そして無意識だったとはいえ、弟を褒めたり“いいヤツ”呼ばわりしたりすることで、自分にとって有利になると考えて行動していた自分がいたかもしれないと気づき、ハッとしたのです」

 最初のキッカケは子どものとき、ダダをこねていた晴美さんに弟が自分のお菓子を譲ってくれたこと。嬉しすぎた晴美さんが両親や近所の人たちにそのことを自慢すると、みんなが「なかなかできることじゃない」と褒め称えた。誰にでも経験がありそうな些細な出来事である。

「でも、たまたまそういうことが続いたあと、弟がお菓子のことでダダをこねたことがあったんです。すると親が『いつもはそんな子じゃないのに』『お菓子ぐらい』と言い、私も『いつもの拓実じゃない!』『拓実の意地悪!』と責め立てたそうです。正直、記憶にはないのですが……」

◆褒め言葉が人を縛ることも

 自分に失望の表情を向ける親や晴美さんの様子にショックを受けた拓実さんは、子どもながらに「まわりをガッカリさせてはいけない」と悟ったとか。そしてその後は、意識して行動するようになったというのだ。それを知った晴美さんは猛反省。

「そして気づいたんです。誰かを褒めすぎたり、ちょっとした出来事で“この人はいい人だ”というイメージを周りが持ってしまうことで、その人が“周囲の期待通りに行動しなければいけない状況”をつくり出しているということに……」

 そして、「悪口だけでなく褒め言葉も、ときには相手を生きづらい状況に追い込んだり負担を与えたりする可能性もあって、周りはそれに気づきにくいのだと知りました」と晴美さん。

 ときには褒め言葉も誰かを追い込む凶器となるかもしれないことは覚えておきたいものだ。

<TEXT/夏川夏実>

【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。Xアカウント:@natukawanatumi5

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