「少子高齢化・核家族化が進み、お墓の継承者がいない家が増えています。そのなかで、時代に合ったお墓のスタイルを望まれる方が多いことを実感しています」
そう語るのは、“明治天皇の玄孫”であり、作家の竹田恒泰さん(49)。竹田さんは昨年4月に、お墓の設計・開発を手掛ける「株式会社前方後円墳」を設立。代表を務めている。
お墓や仏壇の販売などを手がける(株)はせがわが2024年8月に発表した「お墓に関する実態調査」によると、今後、お墓の購入・改葬を検討している人のじつに8割以上が、一般墓よりも樹木葬・納骨堂を含む「永代供養型のお墓」を検討しているという。
樹木葬とは、墓石を建てず、樹木などを墓標とするお墓。納骨堂は、遺骨を納めるための屋内施設にあるお墓のこと。この2大人気の永代供養型のお墓に割って入ってきそうなのが、竹田さんが手掛ける新スタイルのお墓だ。
そのお墓とは、歴史の教科書でたびたび見たことがある、「前方後円墳」の形をした令和版の「古墳墓」。古墳とは、主に3世紀半ば〜7世紀にかけて築かれた、土を盛って造られたお墓。古墳には前方後円墳、前方後方墳、円墳、方墳など、さまざまな形がある。日本最大の前方後円墳である、仁徳天皇陵を含む大阪府南部の「百舌鳥・古市古墳群」は世界文化遺産にも登録されている。
|
|
令和版・古墳墓は、檀家義務はなく承継者や、毎年支払う管理費なども不要。宗教・宗派を問わず、誰でも入ることが可能であるという。少子化の時代に合った形式のお墓として注目されているのだ。
「見学にこられた多くの方々から『こういうお墓を待っていた』とおっしゃっていただいております。お墓の話をするときは、ニコニコしながら説明するということはあまりないと思うのですが、なぜか古墳だと妙にみなさんの表情が穏やかで。『これ、おもしろいね』って、笑顔で聞いてくれます。なかには『死ぬのが楽しみになってきた』と、おっしゃる方も」(竹田さん、以下同)
日本文化の研究者でもある竹田さんが、複数の考古学者らの協力を得て、設計・開発した本格的な古墳墓。水壕に囲まれた全長17.5m、幅13m、高さ3.3mの大きな前方後円墳の正面には、白い大理石の鳥居と祭壇が。そして御霊の安寧を祈り、“御鏡”“御剣”“御勾玉”の「三種の神器」を副葬品として埋蔵するなど、大和時代の古墳文化を忠実に再現している。
年に2回、春と秋のお彼岸に、神道形式の「御霊祭」が斎行され、神主が埋葬された方全員の名前を唱えるのだそうだ。今年3月に一基目が千葉県に、5月には香川県に二基目が完成。さらに今後も全国各地で建設が計画されている。
なぜ今の時代に、古墳墓を作ろうと思ったのか。
|
|
「きっかけは5年ほど前。私の母方のお墓は普通の仏教霊園にあるのですが、父方のお墓は神道式で、宮内庁が管理する墓所にあり、一人一基の古墳なんです。父は存命ですが、その墓所には敷地がなく、父が入るところがない。そこで、新たにほかの霊園で父の古墳墓を造成しようと思ったのが、そもそもの始まりです」(竹田さん、以下同)
竹田さんが霊園や石材店をはじめ、さまざまな人たちと古墳造成のための話し合いをするなかで、いつしか周囲から「自分も入りたい」「うちにも古墳墓を作ってほしい」といった要望が多く寄せられるようになってきた。そこで、現代のライフスタイルや価値観に適応した本格的な古墳墓を自らが建設・販売することを決めたのだという。
だが、新事業スタート当初から、“神仏習合”という大きな壁に直面することに……。
「私は霊園業に関してまったくの素人だったので、まずは専門家の方々にいろいろ教えを請いながら手探りで始めました。最初はどこに古墳を作るかという場所探しからでしたが、これがもう大変で……」
霊園の大半は、お寺が経営する仏教霊園。仏教霊園の中にどうやって鳥居や祭壇といった“神道式”の施設を作るか。お寺側の理解を得ることがなかなか難しく、高いハードルとなったのだ。
|
|
「加えて、定期的に地元の神社の神主さんが来て、そこで御霊祭を行うことが実現できなければ、古墳墓を作る意味がありません。仏教霊園の中で神主さんが祭祀を行うことを嫌がるお寺がほとんどだったので、当初は断られるケースばかりでしたね」
それでも、霊園を経営する全国のお寺と粘り強く交渉を続けた竹田さん。地道な努力の結果、神仏習合の古墳墓建設に理解を示すお寺も徐々に増え、すでに完成している前方後円墳二基をはじめ、現時点で大阪府、宮城県、広島県など、約15カ所で建設が計画されている。
「この現代版の古墳墓は、合同で埋葬される区画があるほか、1人用や2人用の区画もあります。そして霊園によって異なりますが、ペットと一緒に入ることができる区画も用意しております。墓の管理は霊園が行う永代供養となっており、お墓参りの間隔が空いても、雑草が生えて荒れ放題になることはありません」
一基の古墳墓には、およそ5千人分の遺骨が埋葬できるという。一般的なお墓を購入すると毎年管理費などが生じるが、古墳墓であれば、最初に使用料や諸費用を支払ったら、それですべて終わり。毎年支払う管理費はゼロだ。
気になるお値段だが、5月に完成した香川県高松市の古墳墓価格は、合祀墓(2000柱)であれば、18万2千円〜。1人用は、55万7千500円から、2人用が71万7千500円からとなっている。ちなみに、一般墓の平均購入価格は約150万円。樹木葬、納骨堂は約70〜80万円といわれている。
購入者はすでに100人を超え、購入を検討している登録者の数は全国で5千500人にも達しているという。
「今後、47都道府県に古墳墓を二基ずつ、5年で百基を目標に事業を展開していきます。家族単位で入れる小型の古墳墓などの販売も計画中。まずは、多くの人に古墳型のお墓があるということを知っていただきたいですね」
おひとりさまからの問い合わせが多くあるという古墳墓。自分が住む場所の近くに、こんな大きな前方後円墳ができたら、見学だけでもしてみる価値があるかも――。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。