東野幸治、なぜテレビの最前線で活躍できるのか? ラリー遠田が分析する“ブレない”姿勢と“フラット”な視点

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2025年06月20日 13:00  リアルサウンド

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東野幸治、秋野ひろ、久馬歩『もっと よしもと虫学校』(コルク)

 お笑い芸人の東野幸治がプロデュースを手掛けたギャグ漫画『もっと よしもと虫学校』(ヨシモトブックス)が、5月15日に発売された。


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 ダウンタウンファミリーの一員としてキャリアをスタートさせ、今やゴールデンタイムの番組でMCを務める“テレビの顔”である一方、佐久間宣行のYouTubeチャンネルへの出演や、ABEMAでの新番組など、メディアの垣根を越えた活動が目立つ。さらに、関西のニュース番組では時事問題にも鋭く切り込むなど、その活躍は多岐にわたる。


 なぜ東野は、同世代のベテラン芸人がテレビから距離を置く中で、常に第一線で輝き続けることができるのか。お笑い評論家のラリー遠田氏に、東野が長年活躍している理由を分析してもらった。


■東野幸治の根底にある“サブカル志向”


 テレビの最前線でMCとして番組を回す姿が印象的な東野だが、ラリー氏は、彼の本質は“サブカル”にあると指摘する。


「東野さんは映画やドラマ、漫画などが好きで、今のテレビの真ん中にいるイメージとは裏腹に、本来はマイナーというか、サブカル寄りの方だと思います。だからこそ、カルチャー系の仕事も本人は嫌じゃないし、むしろやりたいと思っているはずです」


 この“サブカル志向”こそが、東野の活動の幅広さにつながっているという。彼は、番組の規模やメディアの種類によって仕事を選ぶことをしない。「マイナーな番組だから出ない」「YouTubeには出ない」といった線引きをせず、自身が興味を持つかどうかを判断基準にしているのだ。


 「いろんな共演者、スタッフ、番組、企画に対して、全部フラットに接しているんです。自分が興味を持てば出演するというスタンスを昔から貫いています。テレビタレントとしてMCをたくさんやるようになっても、その姿勢は変わりません。ベテランの中でこういったタイプのタレントは他にあまりいないので、彼の存在が際立って見えるのでしょうね」


 多忙を極める中でも、多くのコンテンツに触れ続けている東野。そのインプットは、彼にとって特別なことではなく、ごく自然な行為なのだろう。この“フラットさ”こそが、東野幸治という芸人の根幹をなす人柄であり、芸風の源泉となっているのだ。


■時事問題も“フラット”に捉える視野の広さ


 東野の“フラットさ”は、カルチャー方面への興味関心だけに留まらない。彼は、ABCテレビのニュース情報番組『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』でMCを務め、政治や時事問題に対しても的確なコメントをしている。


 一見すると、彼の持つ“お笑い”や“サブカル”のイメージとは結びつかないようにも思えるが、ラリー氏によれば、これもまた彼の“フラットさ”の一つであるという。


「東野さんは結婚してお子さんもいて、1人の父親、1人の社会人として、すごくしっかりしたところがあるんです。だからこそ、ニュース系や情報系の番組もこなせる。芸人にはお笑いだけを追求するタイプと、それ以外のこともやるタイプがいますが、東野さんは後者です。彼はお笑いも、映画やドラマも、そして芸能や政治のニュースも、すべてを同じ地平でフラットに捉えているのだと思います。自分にオファーがあって、求められていることであれば、どんな番組でも同じ姿勢で臨む。そういうことだと思いますね」


 キャリアの初期は、絶対的なスターであるダウンタウンの番組に“後輩の1人”として出演し、そのイメージが強かった東野。しかし、今田耕司らと共に「このままではいけない」とそれぞれがソロでの活動を模索し始めた。


 その過程で、東野は自身のサブカル趣味や社会性を武器に、唯一無二のポジションを確立していったのである。


■未成熟な若手を輝かせるMCの手腕


 ソロ活動の中で磨かれたのが、今や彼の代名詞ともいえるMCとしての手腕だ。ラリー氏は、その能力を「天才的」と評する。


「MCとしての仕切りは、本当にうまいですよね。ただ段取りよく進行するだけなら、他にも適任者はいるでしょう。しかし東野さんは、そこにどうやって笑いを加えていくかを常に考えている。相手が誰であろうと、最終的にはやり取りを笑いに着地させることができるんです」


 その真価が発揮されるのが、バラエティに不慣れな若手芸人やタレントと絡むときだ。相手が面白いことを言えなくても、その“不慣れさ”を東野がイジることで、結果的に笑いが生まれる。


「あえて意地悪なことや失礼なことを言うときもありますが、それが不思議と嫌味にまではならない。毒舌と受け取られるギリギリのラインを見極める、そのさじ加減が絶妙なんです」


 一見すると冷たいキャラクターに見えるが、それも彼の“フラットさ”の表れだとラリー氏は分析する。


「冷たく感じられる言動に、悪気はないんです。観ている側も共演者も『東野さんはこういう人だから』と自然に受け入れている。だから、多少突き放すようなお笑いのスタイルをとっても、それが面白く成立するわけです」


 このMCスタイルが世に広く知られるきっかけとなったのが、カルト的な人気を誇った深夜番組『あらびき団』(TBS系)だ。まだブレイク前の、場数を踏んでいない芸人たちの荒削りな芸を、東野がスタジオで“面白がる”という構図は、彼の真骨頂であった。


「まさにあれが、東野さんのMCスタイルの原点です。あの番組で、彼のそういう側面に多くの人が気づき、MCとしての仕事が増えるきっかけになった面もあると思います」


 『あらびき団』は、出演者のポテンシャルを瞬時に見抜き、その面白さを引き出すという、極めて高いMC力が試される番組だったのだ。


 東野幸治は、常に“フラット”な視点で世界と向き合い、自身の興味の赴くままに活動の幅を広げてきた。その柔軟なスタンスと、他者の魅力を引き出す天賦の才こそが、お笑いの最前線に立たせ続けている最大の理由なのだろう。


(花沢香里奈)



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