最高裁で5月に開かれた上告審弁論では、生活保護費の減額により「孫に会いに行く交通費がない」「友人もいなくなった」といった訴えが相次いだ。専門家は「人とのつながりがなくなり孤立すれば、ストレスなどで心身に悪影響が生じる」と指摘する。
「絶対にやめたくなかった孫のための100円貯金ができなくなった」。弁論で大阪市の原告小寺アイ子さん(80)は、孫に会いに行く交通費さえ捻出できない苦しい生活を訴え、「何もできない今の私はただ生かされているだけだ」と語った。
愛知県の原告千代盛学さん(71)は糖尿病性の網膜剥離で失明し、生活保護を受給。以前は友人から誘われ、1回100円の温泉に通うこともできたが、減額されたことでやめたという。「毎日お金のことばかり考えて息が詰まる」と意見陳述した。
他者との交流やつながりが乏しくなることについて、東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典副所長は「精神面などの健康に影響することはさまざまな研究で明らかになっている。社会保障サービスなどの口コミ情報に接する機会も減り、十分な支援を受けられない恐れも出てくる」とリスクを指摘する。
生活苦により健康が脅かされるケースもある。熊本訴訟の原告側代理人、阿部広美弁護士によると、原告2人が昨年夏、節約のためエアコンを使わずに熱中症で救急搬送された。命に別条はなかったが、阿部弁護士は「昨今の物価高の影響で、受給者は追い込まれている」と語る。
神奈川訴訟の井上啓弁護士は「経済的に苦しい受給者は裁判所に行く交通費を出すことも難しい。生活保護に対するバッシングもあり、訴訟を続けられる人は限られている」と強調した。