
「和平さん」みたいな人と付き合いたい
鎌倉を舞台に、4人きょうだいの「長倉家」と、隣人となったテレビ局ドラマプロデューサーの吉野千明(小泉今日子)が織りなすホームドラマではあるのだが、今までのホームドラマとはどこか違っていた。長倉家は両親が早くに他界、長男・和平(中井貴一)が親代わりとなって弟妹を育ててきた。だからこそ、親子の愛情とは違う、少しだけ距離を置いたきょうだい愛が描かれており、ドライでありながら同じ目線でいたわり合っているのが心地いい。
そしてこのきょうだい関係に新風を吹き込んだのが、隣人となった千明である。
この千明と和平の関係が興味深い。最初、千明は次男である真平(坂口憲二)といい仲になるのだが、年齢差もあってそこは互いに納得ずくで別れを迎える。だが、それ以降、千明はかえって長倉家にとって「家族のような存在」になるのだ。
毎日、朝食を長倉家でとり、和平と顔を合わせれば丁々発止、互いに言いたいことを言い合って1日が始まる。
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言いたいことを言っても大丈夫だと思える相手
今の世の中、言いたいことを言える場、相手がいないと嘆く女性は多い。マチコさん(35歳)もそうだ。「職場でもプライベートな場でも、とにかく言葉を選ばなければいけない。もちろん、こちらも大人だから考えて言っているつもりですが、『それ、コンプラ違反』と言われたら、もうその先は言えない。
前の彼は、会えない時期が続いているとき、電話で私が『早く一緒に寝たいなあ』と言っただけで『セクハラー』と言ったんですよ。もちろん冗談交じりだったけど、そのときちょうどうちの会社で上司のセクハラが問題になっていたところで」
盛り上がった気持ちが一気に冷めた。恋人同士なのにいちゃいちゃすることさえできないのかとなんだか疲れてしまったと言う。
「軽口を受け止めてもらえないこともありましたね。彼がモテちゃったみたいなことを言ったので、『またまたー、自分だけそう思ってるんじゃないの』と冗談で返したら、『浮気されても泣くなよ』とまじめな顔で言われて。
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「男の品」とは
そういう意味でも、ドラマの中の和平は理想的だったとマチコさんは言う。「男の品は照れにある」と思うのだが、和平は基本的に自分の身に起きた、ちょっといいことを自慢したりはしない。分かってしまって説明しなければいけないときは、「自慢しているわけじゃありませんよ」と前置きしてから照れつつ話すのだ。「言いたいことは言うのに、相手を傷つけるようなストレートな表現はしない。それでも相手が傷つくことも考えた上で、フォローしながら話す。それが優柔不断と言われてしまうゆえんですが、相手の意志を尊重しているということなんですよね」
だからマチコさんも「和平ファン」だという。ちょっと頑固なところもあるが、人の意見は聞き入れる。今の時代に迎合するわけではないが、自分の中で芽生えた感情や変化を恐れることはない。それは彼自身の人生経験と、ふいに知り合った隣人である千明の影響もあるだろう。
深く話し合うことで「分からなくても理解はできる」と感じたい
和平は軽々しく人の気持ちを「分かった」とは言わない。千明といつものように二人で飲んでいるときは互いにじっくりと話を聞くことに徹する。相手の気持ちを自分の中に落とし込み、共感できる部分を探っていく。簡単に「あるよね、そういうこと」とか「それはあなたが悪いんじゃないの」などと決めつけるような言葉は発しない。千明が仲よしの女友達と集っているときは、場に「そうだよね」「あるある」という言葉が飛び交う。女同士なら簡単に分かってしまう感情なのだが、鎌倉男子の和平は、そう簡単に共感はしない、というかできない。
「会話って答えを出す必要がないケースって多々あるでしょう? でも男性は結論を出したがる。求められてもいないのにアドバイスしたりする。和平さんはそうじゃない。じっくり聞いて、自分の考えを少しずつ話す。そうすると話した千明も、また自分の気持ちを深掘りしていく。
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顔を合わせて話すことの重要さ
マチコさんは、ゆっくりしみじみ語り合うことが最近、減っているなと感じている。友達であっても家族であっても。やりとりはスマホのメッセージで済ませてしまう。報告だけすることで、会話が成立しているように勘違いしているのかもしれない。「顔を合わせてちゃんと話す。それがどれほど重要なのか、今回のドラマを観てつくづく感じました。和平さん的な男性を私も見つけたいと思っています」
一人でいても生きていける。いや、むしろ人は一人なのだと思いながらも、誰かがいたらもっとハッピーになれる時間が増えるのが理想だとマチコさんはしみじみと言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))