古舘伊知郎(70)が、12月7日の東京・EXシアター六本木から全国5カ所で「古舘伊知郎トーキングブルース 2025」を開催する。来年1月に福岡、2月に名古屋、3月に大阪、横浜と“しゃべりの巡礼”に出る。テーマは「2025(ニセンニジュウゴ)」。今年2025年(令7)の1年間で、何を見て、何に怒り、何に笑ったのかを2時間半、ノンストップでしゃべりまくる。70歳、古希になった古舘に聞いてみた。【小谷野俊哉】
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今年6月3日に亡くなった長嶋茂雄さんは、最後まで長嶋茂雄として生き、長嶋茂雄として死んだ。
「本当のスーパースターって自分がアイコンだっていう風にメタ構造でしっかり客観的に描いてるから、最後まで長嶋茂雄であるというのを見せて、最後まで演じてくれるじゃないですか。微動だにせずにね。アントニオ猪木さんも、68キロになって死ぬ直前までカメラを回すってことを許してるじゃないですか。本当ならかっこいいところだけを見せて、死にたいと思ったらいいんですよ。でも、全部含めて自分の諸行無常だと思って、長島さんも猪木さんも見せてくれちゃう。そこにメディアがどう甘えちゃいけないのか、バランスを取るのかっていうことは、僕は持っておかなきゃいけないと思ったりします」
古舘伊知郎は1977年(昭52)にテレビ朝日に入社。「ワールドプロレスリング」の過激な実況中継で大ブレークして、84年にフリーになった。今年になって、若き日に世話になった“プロレス界の住人”が亡くなった。新日本プロレスの専務取締役営業本部長だった新間寿氏は90歳、東京スポーツ記者、新日本プロレス取締役の永島勝司氏は82歳で亡くなった。
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「そういう人たちがね、昭和の面白い癖者たちがどんどんいなくなっています。一抹の寂しさがありますね。新間さんとなんか、ずっと過激なアナウンサー、過激な仕掛け人で、過激だけ一緒だった。永島さんとは、僕が局アナの時代はプロレス会場の体育館で必ず会って、放送席と記者席で向かい合わせなんですよ。ケータイなんかない時代で、新聞社は会場に臨電(臨時電話)を設置している。永島さんに頼んで臨電を貸してもらって、女の子に電話したりしてた。『明日、帰ったらデートしない』って言って、永島さんに『そういう電話で使うんじゃねえよ』って怒られてる。そんな悠長な時代。新間さんにも鍛えられたし、怒られたしね」
先人に怒られ、鍛えられ、今がある。
「そうやって、人って怒られないと、昭和のパワハラを受けてないと成長しないんですよ。今はもう、体罰も暴力の1つですよ。つるつるのきれいな、雑菌がはびこることを許さないわけですよ。そういう風に厳しいから、テレビもつまんなくなったし、あらゆることが外国から来た社会規範を導入することにきゅうきゅうとしているじゃないですか。働き方改革しかり、コンプライアンスしかり、ガバナンスしかり、行動しかり。あらゆることをデオドラント、消臭効果、殺菌効果を狙うからつまんない。もうちょっとね、清濁合わせ飲む、やっぱり薄汚い水に一番魚がはびこるじゃないけど、もうちょっと水から汚すっていうかね」
あらゆるものが規則に縛られることで、停滞する。
「だからタレントさんの規範も厳しすぎて、国分太一の問題では記者会見の有り様も変わって、どんどん進化していく。それが時代の流れなんでしょうけど、すう勢なんでしょうけどね。僕はね、テレビに出る人とか、映画とかサブスクリプションやいろんなものに、つまり媒体に顔をさらして出演する人っていうのは、全身をさらせばムーディー女優になるし、顔だけさらせば普通のアナウンサーになるのか知らないけどもね。アナウンサーも含めてね、テレビに出るっていうのは結構浅ましい人なんだよっていうね、結構むごたらしい、あざとい人種なんだよっていう宣言をそろそろしないといけないと思う」
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メディアに出る人間は“堅気”じゃない。
「昭和の芸人論を持ち出したら、もう古いんですけどね。何やったっていいんだ、それは芸の肥やしなんだって、そんな時代ではないです。一般の人たちが、その一般っていうのが分からないんだけど、総じて言えば、一般の人たちが自分たちの地平幕に降りて来いと、銀幕のスタンダードを許さないと。社会規範も、自分たちだって本当は不倫の1つもしてみたいし、火遊びもしてみたいけれどもね、と。そうはいかないんで、きゅうきゅうとしてるんで。お前らも一緒じゃなくちゃ許さないって時代に、突入したわけですけど」
一般人と芸人が、同じ社会規範を求められる時代になった。
「この時代を経て、テレビとかに出るやつは半端もんだからとか、普通じゃねえからなと。その代わり他に面白いことしゃべれよとか、歌えよっていうね。変な歌、歌ってみろよとね。プロって、やっぱり変な人ですよ。昭和のスーパースター長嶋茂雄さんとか、アントニオ猪木さんみたいに変な人なんですよ。何かを演じているしね」
プロもアマチュアと同じ規範を求められる世の中になった。だからこそ感じるのが、プロとアマの違いだ。
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「最近、思うんですけど、50周年を超えたアルフィーとか、それからチャゲアスのASKAの武道館コンサートに行ったりして、年代が近いアーティストの頑張りとか見てると“絶対年齢”じゃないなと。歌のうまさとかいろいろ見てるんだけど、僕は歌のことは分からないんだけど、素人を見てるとアッと思うことがある。SNSとかTikTokとかになんでもね、路上ライブやってる人も含めて、“他人の歌”を歌うのがうまい人が、いっぱいいるじゃないですか。プロよりうまい人って言ってもいいですよね。今活躍してるアーティストっていう類いの人たちより、よっぽど歌が数倍うまい人たちが、ごまんといます。でも路上ライブの切り取りであろうが、スタジオで歌ってうまさを見せてもらうとしても、ぜいぜい1曲、2曲が限界です。アマチュアだと」
アマチュアとプロの違いを、芸歴61年を誇る小林幸子(71)のコンサートで実感した。
「幸子さんも元気ですよね。新橋演舞場の公演に行ったんですよ。大したもんですよ。あれが“長距離走”のプロですよね。それでいて、ニコニコ動画とかにも出て、若い人にちゃんとアピールする。なんかやるじゃないですか、ギャルをやったり。10歳からキャバレー回りですからね、あの時代。昭和はそれで、今だったら児童福祉法違反になりかねない。やっぱりプロですよね、プロは違います」
プロのすごさは、その継続性だ。
「プロって癖があって、歌がそんなにうまくなくても、それでいてもすごい個性的に聞こえて、何10曲聴いても飽きないでステージングに酔いしれられるっていうところがある。僕は42・195キロの持久力で赤筋・白筋って分けると、赤い筋肉の回遊魚業の筋肉を持ってる人をプロと言って、そして白筋の瞬発力を持っていればアマチュアの人でも1曲、2曲はプロよりうまい。だけど、こっちは持続性がない」
(続く)
▼「古舘伊知郎トーキングブルース『2025』」
25年12月7日 東京・EXシアター六本木
26年1月18日 福岡・Zepp福岡
26年2月12日 愛知・Zepp名古屋
26年3月7日 大阪・Zeppなんば
26年3月20日 神奈川・Zepp横浜
◆古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)1954年(昭29)12月7日、東京都生まれ。立大卒業後の77にテレビ朝日入社。同8月からプロレス中継を担当。84年6月退社、フリーとなり「古舘プロジェクト」設立。85〜90年(平2)フジテレビ系「夜のヒットスタジオDELUXE、SUPER」司会。89〜94年フジテレビ系「F1グランプリ実況中継」。94〜96年NHK「紅白歌合戦」司会。94〜05年日本テレビ系「おしゃれカンケイ」司会。04〜16年「報道ステーション」キャスター。現在、TBS系「ゴゴスマ」水曜日コメンテーターなど。血液型AB。
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