開業初年度は1億円赤字 奄美のホテルが“癒し路線”で再生したワケ

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2026年05月17日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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奄美のホテルが“ウェルネス特化”で変えた館内と絶景

 「健康」や「癒し」を目的に旅をする人が増えている。米シンクタンク「グローバル・ウェルネス・インスティテュート」の報告書によると、2023年の世界のウェルネス市場規模は6.3兆ドル(約989兆円)で、そのうちウェルネスツーリズムは8302億ドル(約130兆円)だった。


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 あれこれ観光地を巡るのではなく、自然散策や運動、瞑想、温泉、健康的な食事などを通じて、心身をリフレッシュさせる旅行を指す。「リトリート」とも呼ばれ、こうしたコンセプトを打ち出すホテルや地域も増えてきた。


 このウェルネスツーリズムに振り切ったことで、赤字から一転、黒字化に成功した高級リゾートホテルがある。世界自然遺産に登録された奄美大島の最南端にある「THE SCENE(ザ・シーン)」だ。2015年の開業初年度は1億円の赤字だったが、2年目に「ウェルネスホテル」に方向転換したことで黒字化、2024年には過去最高売上を更新した。


 同ホテルを運営するのは、ストレッチ専門店「Dr.stretch(ドクターストレッチ)」をはじめ、健康・スポーツ事業を展開するnobitel(ノビテル、東京都新宿区)だ。同社のホテルトラベル事業部執行役員、兼ザ・シーン支配人の小林良輔氏に、「ウェルネス特化ホテル」の戦略と成果を聞いた。


●開業1年目で1億円の大赤字


 ザ・シーンは「本物のプライベート」をコンセプトに、2015年に誕生した。奄美空港からクルマで約2時間、島の最南端にあり、目の前にはプライベートビーチが広がる。キレイな星空が見られるほか、神秘的な雰囲気が漂う離島・加計呂麻島へのアクセスもいい。


 羽田空港から直行便で約2.5時間と、沖縄や海外のアジアリゾートよりも都心から近く、秘境を求める人に適した場であるとして、40〜60代の経営者層やシニア夫婦をターゲットに、高級リゾートとして開業した。


 「当ホテルは全21室と小規模で、周辺は人が少なく穏やかです。奄美大島自体も大規模な観光開発がされていません。そうした穴場的な場所を探している人をペルソナにしたのですが、うまくいきませんでした」


 実際、ターゲット層の集客には成功したものの、評判にはつながらなかった。もともと1989年に建てられた古いホテルであり、改装はしたものの、部屋は30〜46平米と狭い。同社の主軸事業は健康・スポーツ分野で、観光は未経験。ホテル運営のノウハウ不足もあり、接客レベルが十分ではなく、食事も気に入ってもらえなかった。他社の高級リゾートと比べて見劣りすると評価され、口コミ評価も低かった。


 「結局、1年目で想定以上となる1億円の赤字を出してしまいました。これではマズいと試行錯誤していた最中のこと、ヨガのアクティビティーに参加したお客さまが、涙を流していたんです。『スタッフが何かやらかしてしまったのか?』と思い、お声がけしたところ、『命の洗濯ができました』と返ってきました。加計呂麻島を眺めながらヨガをしていたら、自然と涙がこぼれたそうです」


 この出来事を機に、小林氏は方針転換を決めた。開業2年目に打ち出した新コンセプトは、ネイチャー(自然)とクレンズ(浄化)を掛け合わせた「ネイチャークレンズ」だった。


●「方向転換」で黒字化、何を変えた?


 「当社は、国内外に約300店舗ある『ドクターストレッチ』の運営をはじめ、健康産業を主軸にしています。そうした企業がリゾートホテルを手掛けるのは、ちょっとおかしい。加えて、この場所には人を浄化するようなチカラがある。それならば、思い切って“ウェルネスホテル”として打ち出そうと考えました」


 当時は「ウェルネスツーリズム」という言葉が浸透しておらず、「リトリート施設」としてアプローチ。「非日常の空間で心身をリフレッシュし、腸内環境など体の内側を整えるための旅」と打ち出し、ターゲットも都心でバリバリ働く20代後半〜60代の女性に変更。宿泊料金の値上げも実施し、1泊当たりの客単価を1万4000円引き上げた(食事込み)。すると、メディア取材が急増した。


 「口コミ評価が下がる中、メディアでたくさん取り上げていただき、WebサイトのPVが上がっていきました。広告費を削減したのにもかかわらず、PVは伸び、健康意識の高い男女ペアのお客さまが、次々と訪れるようになったのです」


 リトリート施設というアプローチがターゲットの女性に届き、彼女たちがパートナーを連れて訪れるようになったという。


 コンセプトの変更に伴い、サービス面も一部変更した。最も分かりやすく変えたのは「接客スタイル」だった。


 「以前は高級リゾートらしく、きっちりした接客をしていたのですが、フレンドリーな接客スタイルにしました。ヨガやピラティスのスタジオで受けるような。そうしたら、以前は多かったクレームがゼロになりました。きっちりした接客だと完璧さを求められますが、フレンドリーに変えたら『人間らしさがあって、1人1人が考えながら働いていていいね』と評価をいただけたのです」


 料理やアクティビティーは、何も変えていない。だが、「伝え方」を変えたことで満足度が上がっていったという。


 「料理は『おいしい』ではなく、『体にやさしい』という表現にしました。料理は全体的に薄味で、以前は低評価だったのですが、『体にやさしい薄味にしています』と伝えると納得していただける。アクティビティーも『豪華クルージング』と訴求していたものを、『自然を通じてクレンズするウェルネス体験』としました」


 こうした取り組みにより、顧客の反応が徐々に変化。「非日常の体験だね」「こういうのをリトリートって言うんだね」と、前向きなコメントをもらえるようになった。結果として、2年目には減価償却費約5000万円を除いたEBITDAベースで黒字化を達成。つまり、5000万円のマイナスをプラスに逆転したわけだ。


●「快眠体質プラン」も話題に


 その後、コロナ禍の2021年11月に開始した「快眠体質プラン」もメディアで話題になった。2泊3日または3泊4日で、3食付き。料金は約10万円から。日の出とともに体を目覚めさせるサンライズヨガや星空の下でのキャンドルヨガ、睡眠を促すヘッドケアなどの体験が組み込まれている。さらに、瞑想やサンセットクルーズなどの有料オプションも用意した。


 「利用者の約9割が女性のひとり旅で、2024年には過去最多の35組が利用しました。高価格帯のツアーですが、リピーターも多いですね。当ホテルでは、コロナ禍と円安が追い風になり、2024年に過去最高の売り上げを更新しました。現在、リピーターは売り上げベースで約3割になり、過去3年で倍増しました」


 ウェルネス特化プランは他にもいくつかあり、ザ・シーンを代表する「目玉ツアー」として打ち出している。利用者は30〜50代の女性がメインで、ひとり旅のほか、夫婦や友人同士、母娘で訪れる人もいるそうだ。


 ただ、近年はホテルの稼働率が高まり、繁忙期は予約が取れなくなったことから、高価格帯のウェルネス特化型プランは11〜2月の閑散期のみ提供している。奄美大島は冬の平均気温が15〜18度と暖かいことから、真冬でも「気候の良さ」と「エメラルドグリーンの海」を目的に訪れる人が少なくないそうだ。


 それにしても、ヨガをしたり、自然に触れたりするだけでよく眠れるのだろうか。小林氏に尋ねたところ、それ以外にも快眠につながる要素があるのだという。


 「奄美大島は人が少なく、電車が走っていません。クルマもゆっくり走っていますし、速いスピードで動くものを目にしないんです。また、多くの宿泊者が『高確率でウミガメを見られる』シュノーケリングに参加します。日光を浴びて適度な運動をすることも快眠につながり、実際に『驚くほどよく眠れた』という方は多くいます」


 さらに、2025年7月からは、新たな自然体験プログラムも開始した。アミューズ(山梨県富士河口湖町)が提供するアクティビティー「足漕ぎカヤック」を導入し、カヤックを使ったナイトツアーや無人島上陸ツアーなどを提供している。「子どもでも乗りやすく、水面との距離が近い」として、想定以上の反響があるという。


●「ウェルネス専門」の旅行事業も開始


 ザ・シーンのホテル事業が軌道に乗ったこともあり、ノビテルでは新たに「旅行事業」にも参入。リトリートやネイチャースポーツに特化した旅行・ホテル予約サイト「Wellness TRIP(ウェルトリ)」を2022年9月に開始した。


 販売するツアーは、人気インストラクターが同行して、ヨガなどのアクティビティーを現地で体験できる内容となっている。そのため、料金は2泊3日で15万〜20万円程度と高額だが、反響は上々だという。


 「“どこに行くか”よりも、“誰と行くか”が参加動機になっていて、憧れのインストラクターが同行するため非常に満足度が高いんです。参加者の多くは女性の一人参加ですが、目的が一致しているため参加者同士のコミュニケーションも活発です。女性が女性を応援する(または支持する)“推し活”需要にマッチしているのだと思います」


 ノビテルでは、今後も「ホテル」と「旅行」を軸に観光事業の成長を目指す方針だ。奄美大島の観光開発について尋ねると、「非常に伸びしろがある」と小林氏は考えを示した。


 「奄美大島は、2021年に世界自然遺産に登録されたばかりのホットなエリアです。国内では今後、新たな世界自然遺産の登録は難しいとされる中で、既存の世界自然遺産と比べて、最も観光開発の伸びしろがあるのではないかなと。貴重な自然環境を守ることが最重要ですが、長い目で開発が進んでいくのではないかと思っています」


 自社の事業展開については「ウェルネスホテルブランド」として、ザ・シーンを他地域に展開していく考えもある。すでに、静岡県浜松市でウェルネス兼ドッグホテルの「THE SCENE hamanako」が2020年12月に開業している(同ホテルの運営は別企業)。


 「今後は、後継者がいない宿、集客に苦戦している地方の宿などの『再生事業』に注力していきます。旅行業に参入して健康特化のツアーを販売しているのも、そのためです。『ホテル』と『旅行』のシナジーを今以上につくっていきます」


 ウェルネスツーリズムといえば、山形県上山市や北海道函館西部地区、兵庫県淡路島なども独自の取り組みを進めている。


 特に淡路島は注目度が高く、パソナグループでは長期滞在型の未病リトリート施設「THE PASONA natureverse retreat(ザ・パソナ・ネイチャーバース・リトリート)」を2026年6月23日に開業予定。ホテルニューアワジグループ(兵庫県洲本市)でも、過去最大規模となる約90億円を投資して、2つのラグジュアリーリゾートホテルの開発を進めている。砂浜でのウォーキングなどウェルネスステイにも適した環境で、2027年1月に開業予定だ。


●著者プロフィール:小林香織


 1981年生まれ。フリーランスライター・PRとして、「ビジネストレンド」「国内外のイノベーション」「海外文化」を追う。一般社団法人 日本デジタルライターズ協会会員。エンタメ業界で約10年の勤務後、自由なライフスタイルに憧れ、2016年にOLからフリーライターへ転身。その後、東南アジアへの短期移住や2020年から約2年間の北欧移住(デンマーク・フィンランド)を経験。現地でもイノベーション、文化、教育を取材・執筆する。2022年3月からは東京拠点。


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