【第79回カンヌ国際映画祭】黒澤明監督『姿三四郎』(4K修復版)世界初上映(左から)東宝グローバルの小松士恩氏、石川慶監督、ティエリー・フレモー氏 フランスで開催中の「第79回カンヌ国際映画祭」で現地時間15日、カンヌ・クラシックス部門に選出された、黒澤明監督のデビュー作『姿三四郎』(1943年)の4K修復版が世界初上映された。上映には東宝グローバルの小松士恩氏と、石川慶監督が登壇した。
【画像】黒澤明監督『姿三四郎』4K修復版ポスタービジュアル 本作は、青年・三四郎(藤田進)が柔道に魅せられ、柔道家として成長していく姿を描いた作品。映画祭公式サイトでは、「日本の伝統社会を背景に、“生きる意味”や自己鍛錬、他者への敬意を描き出した作品」と紹介されている。
今回上映された4K修復版は、東宝アーカイブにて35mmマスターポジフィルムと35mmデュープネガを用いて修復。映像と音声は最新技術によってデジタル化され、新たに制作されたDCP(デジタル上映用データ)には、長年失われていた約12分が収録されている。
登壇した小松氏は、本作がたどった複雑な歴史について説明した。
「1943年の初公開時は97分でした。翌年の再上映では、戦時中の物資不足や制限により、黒澤監督の同意なしに79分へカットされました。その後、オリジナル素材の一部は失われ、戦後の1952年に再上映した際は、削除シーンをテロップで補う形になりました」
1990年代、日本の国立映画アーカイブがロシア・モスクワで失われていた素材の一部を発見。2002年には、それらを組み合わせた35mmプリントの91分版が作られた。
小川氏は「今回上映したのは、その91分版をベースにした4K DCPです。まだ欠落部分はありますが、最新技術を使った現時点での最善の修復です」と胸を張った。
昨年の同映画祭ある視点部門に選出された『遠い山なみの光』などの作品で知られる石川監督は、「『姿三四郎』は私の大好きな映画の一つ」と切り出し、映画監督として今なお学び続けている作品だと熱弁した。
「この映画が作られた当時はプロパガンダ映画しか許されない時代でした。その中で柔道という題材を選んだのは賢明だった思います。伝統的な武道についての物語なので軍部も反対しにくいですし、アクション満載でエンターテインメント性があり、映画制作そのものに集中できたのだと思います」
さらに、黒澤演出の真髄についても言及した。
「私がこの映画で最も好きなのは、緊張感の作り方です。柔道の試合シーンでは、戦いそのものよりも、雲や風、草、人々の息遣いといった“環境”を丁寧に映し出している。緊張感を極限まで高め、戦いは一瞬で終わる。その演出が本当に素晴らしい。今見ても驚くほど新鮮です」
また、「日本映画は黒澤のようなスケール感を失った」と語られることについても持論を展開。
「今の日本映画でこれほどのスケール感を見つけるのは難しいです。その言い訳としていつも“予算がないからできない”と言われます。でも『姿三四郎』を見れば、その言い訳は通用しないことがわかります。黒澤監督はデビュー作の時点ですでに“黒澤”だったのです」と語った。
会場には、地元カンヌの柔道クラブに所属する柔道家たちの姿も。司会から「この作品を見たことがある人?」と問いかけられると、複数の柔道家が手を挙げ、日本映画史に残る名作が国境を越えて愛され続けていることを印象づけた。