
すでに真夏のような暑さの日も増え、熱中症は“夏本番”を待たずに起きている。注意したいのが、外出中だけでなく、自宅で過ごしているときの熱中症。梅雨時は湿度が高く、汗が蒸発しにくいと、室内でも身体に熱がこもりやすい。さらに睡眠不足や水分不足も、熱中症リスクを高める要因に。
熱中症患者は6〜7月に急増
熱中症と聞くと「真夏が最も高リスク」というイメージがあるかもしれないが、さにあらず。
「実は熱中症患者は6〜7月に急増します。この時季、自宅で熱中症になってしまうのは、気温がそこまで高くないのと、室内にいるという油断から対策が遅れてしまうからです」
と、医師の伊藤大介先生。
家の中にいると気温や湿度の急上昇に気づきにくい。そのため、エアコンを使わなかったり、水分補給を疎かにしがちだ。加えて梅雨時から夏にかけては、室温だけでなく湿度の高さも大きな要因となる。
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「人間は汗を蒸発させて体温を下げますが、湿度が60〜80%になると汗は蒸発しにくくなってしまう。その結果、身体の中に熱がこもり、室温がそれほど高くなくても熱中症を発症することがあります。5月以降は温度計だけでなく、湿度計もこまめにチェックしましょう」(伊藤先生、以下同)
もうひとつの原因は、急に気温が上がると、身体が暑さに慣れておらず、うまく汗をかけないことだ。
「暑さに身体が順応できていないと、必要なミネラルである『ナトリウム』(塩分)も最初、汗とともに流れ出てしまいます。ベタベタした汗だと蒸発しにくく、身体に熱がこもりやすい。それで6月、上手に汗をかけないうちに急に気温が高くなると、熱中症になる人が増えるのです」
徐々に慣れて汗腺の働きがスムーズになると、ナトリウム含有量が減り、サラサラした汗になるそう。
「サラサラの汗は気化しやすく、熱中症になりにくい状態になります。日頃、運動や入浴などで汗をかく“練習”をして、暑さに慣れておくと安心です」
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熱中症は最悪の場合、命を落とすこともある怖い病気。そうならないために大切なことは?
「熱中症とは高温多湿の状況で身体が機能不全になることの総称ですが、症状の重さには段階があります(下記参照)。早めに気づき、できるだけ軽いうちに対処することがカギです」
水分補給はただの水ではダメ
熱中症の症状が出たら、できるだけ早く涼しい場所へ移動したり、衣服をゆるめて、首や太ももの付け根、脇の下など太い血管が通る場所を冷やし、水分・塩分を補給するとよい。
「水分補給はただの水ではダメ。真水では10分の1程度しか血液中にとどまりません。水分とともにミネラルも身体から失われている状態なので、経口補水液など水分と塩分を同時にとれるものを飲みましょう。水分もとれないほど吐き気が強いときは、病院で点滴してもらうと、素早く確実に補給できます」
注意したいのは普段から我慢強い「頑張り屋」タイプの人だそう。
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「ミドル世代にも多いのですが、ちょっとしただるさやしびれ、めまい程度だと、無理して乗り切ろうとしたり、しばらく様子見する人も。特に手足のしびれやこわばりがある場合は重症度が進みやすいので、不調のサインが出たら軽視しない。重症化を防ぐ上で大切なことです」
ほかにもボーっとする、自分で水分をとることが困難、感染症ではないのに体温が38度以上になった場合には、躊躇せずに医療機関へ。
また、前述の処置をして数十分様子を見ても回復しなかったり、最初から重症度3の症状がみられる場合や、糖尿病や腎機能不全、高血圧などの持病がある人は症状が軽くても、病院に行ったほうがよい。
「熱中症で体温が上がっているときに解熱鎮痛剤を飲むのは厳禁。さらなる脱水を引き起こしたり、腎機能に負担をかけるからです。特に腎臓に障害がある人は絶対に避けてください」
自力で動けるならば、内科または救急外来がある病院やクリニックで受診を。
「高齢者は体調の悪化に気づかず、意識不明で救急搬送されるパターンがほとんど。迷ったら自治体が運営している救急相談センターに電話してもいいですし、自己判断は厳禁です」
ミドル世代の女性も熱中症リスクが高い
特に高齢者は節約意識からエアコンの冷房機能を使いたがらない人も多い。熱中症による救急搬送数の約6割が高齢者だ。また、約4割は室内で発症しているというデータもある。
「高齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、冷房をつけなかったり、水分不足に陥りやすい。ほかにも子どもやミドル世代の女性も熱中症リスクが高いです」
子どもは身体に必要な水分量が多い分、少しでも減ると脱水症状が出やすく、ミドル女性は更年期症状による自律神経の乱れで体温調節がうまくできず、熱がこもりやすい傾向がある。
「熱中症のリスクは、『脱水の自覚がある』『睡眠不足』『食欲不振』『疲労感』『精神的なストレス』の5つの要素があると上がることがわかっています。このことから、脱水に注意し、食事と睡眠をしっかりとり、疲労や精神的ストレスをためない生活を心がけたいですね。さらに肥満や運動不足もリスクを高めます」
暑さでどうしても食欲がわかない人は、漢方薬に頼るのも有効な手段だ。
「五苓散や清暑益気湯など、夏バテに効く漢方もあり、それで食欲が戻ることも多いです。心配のある人は今のうちにかかりつけ医に相談してみましょう」
意外にも、美容や健康面で注目される「腸活」は、熱中症の重症化予防にも効果が見込める。
「熱中症で腸内が高温にさらされ、腸内に悪い菌が増加。するとそれが体内をめぐって全身に炎症反応を起こす『敗血症』になりやすい。ヨーグルトや発酵食品など、腸にいい菌が含まれる食品を積極的にとることは重症化予防につながります。4週間以上は摂取し続けたほうがベター」
市販の冷却グッズも上手に活用したい。
「ハンディタイプの扇風機は、気温が暑い中でそれだけで使っても意味がないと、WHOが警告を出しています。使う際はミストなどを併用すると、気化熱で温度を下げやすいですよ。ネッククーラーは首の太い血管を冷やせるので効果的です」
できることから始めて、熱中症を予防しよう。
取材・文/遊佐信子
伊藤大介先生 一之江駅前ひまわり医院院長。東京大学医学部卒業後、複数の医療機関勤務を経て現職。近著に『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(文藝春秋)

