スクエニ221億円の巨額損失……カプコン、コナミと大きな差がついた理由

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2024年05月15日 09:31  ITmedia ビジネスオンライン

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 スクウェア・エニックスが「コンテンツ廃棄損失」として221億円の特別損失を計上した。


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 ゲーム開発における戦略的転換として、同社は開発プロジェクトをより選択的かつ集中的に進めることを目指し、質と投資収益率を重視する方針にシフトするという。この巨額減損の背景には『ファイナルファンタジーXVI』『ファイナルファンタジーVII リバース』など、主要タイトルの売り上げが期待通りではなかったことがあるだろう。


 特にプレイステーション5が消費者へ十分に行き渡っていないうちにリリースした『ファイナルファンタジーXVI』は累計300万本程度の販売にとどまり、人気作をリメークした『ファイナルファンタジーVII リバース』も発売後の売り上げが期待を下回った。


 『ファイナルファンタジーVII リバース』が不振だった原因は、PS5の普及率の問題だけではなさそうだ。同作はサイドクエストやミニゲームのボリュームが過剰で、往年のプレーヤーを中心に「ゲーム体験を損なう」という声もあった。ゲームシステムなどについて、期待されていたほどの革新性や魅力を提供できていないとの意見もあった。


●巨額のコンテンツ廃棄損失は問題か?


 耳慣れない言葉である「コンテンツ廃棄損失」だが、これは投資における「減損損失」の考え方に近い。


 コンテンツ廃棄損失とは、企業が製品開発プロセスで、未完成のプロジェクトや商品を中止する際に発生した損失を指す。開発中のゲーム、ソフトウェア、映画などのコンテンツが商業的にリリースされることなく終了した場合、それにかかった投資や開発費用が回収できず、経済的な損失として計上されるということだ。この損失は、通常は会計上の特別損失として処理される。


 コンテンツ廃棄損失が発生する主な理由としては、市場環境の変化、プロジェクトの予算超過、商業的成功の可能性が低下したことなどが考えられる。特に技術進化が早い業界では、開発中に新しい技術が登場し、現行のプロジェクトが時代遅れになることも珍しくない。


 ただし、このようなコンテンツ廃棄損失は一時的な財務上の打撃となり得るものの、長期的には不採算プロジェクトを整理し、リソースをより有望な取り組みに再配分する効果もある。つまり、中長期的には企業の健全性を改善する施策の一つである。


 このような損失を対外的に公表することで、投資家に対して透明性を保ちつつ、事業の健全化を図る姿勢を示せる側面もある。事業化が難しいコンテンツを、特別損失を恐れてダラダラと開発し、本業の利益を垂れ流すくらいであれば、見切りをつけて再出発できる方が健全という見方もできるわけだ。


 もっとも、コンテンツ廃棄損失は新たなIPを開拓する企業が直面するリスクの一つであり、研究開発が重要な業界では避けられない。


●でも時価総額はカプコン・コナミの半分……一体どこで差がついた?


 では、スクウェア・エニックスの業績や時価総額はどうか。同社の売上高は約3600億円に達すると予測されている。『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』など国際的に成功しているIPを通じて、グローバル市場へ攻めていく姿勢もうかがえる。


 また、営業利益は550億円と、前期の443億円から20%程度増加するとみられており、増益基調に転じている。しかしコロナ禍で巣ごもり需要が活発化した2021年度の業績に比べると、売り上げ、利益ともに超えられていない。足元の増収も、円安の影響を除外すると実質的な業績の成長はそれほどでない可能性もある。


 そんなスクウェア・エニックスの時価総額は約6500億円だ(5月14日時点)。カプコンの約1兆4600億円(同)やコナミの約1兆5500億円(同)に比べると半分ほどしかない。この差はどこにあるのか。


 カプコンやコナミは有力IPの強さを維持している。カプコンは『バイオハザード』『モンスターハンター』などで海外展開に成功し、コナミの『遊戯王 マスターデュエル』は複雑なルールをゲーム上で表現するイノベーションがあった。


 カプコンの時価総額増加の背景には、海外市場での強力なプロモーションと、単なる焼き直しではなく、著名タイトルの本格的なリメーク作品を連続で成功させた点がある。現在同社の海外売上高比率は60%と、国内を上回る。円安による業績への恩恵も非常に大きく、カプコンのビジネスモデルは今や、無形のコンテンツを輸出する産業そのものだといえる。


●スクエニは「守り」に入っている?


 カプコンやコナミが2020年以降に株価を大きく伸ばしてきたのに対して、スクウェア・エニックスの株価は依然として横ばいだ。スマホの移動系ゲームアプリ『ドラクエウォーク』や、建築系ゲームの『ドラゴンクエストビルダーズ』など、挑戦的なタイトルもあるが、いずれも『ポケモンGO』や『マインクラフト』の二番煎(せん)じ的な印象も強く、同社固有のイノベーションと言いがたい。「守りに入っている」と思うユーザーもいるだろう。


 スクウェア・エニックスがさらなる成功を収めるには、プレーヤーの期待に応えるためのイノベーションとコンテンツ設計の見直しが必要だ。同社の時価総額の成長率が、カプコンやコナミより劣っている主な理由は、経営戦略における攻めの姿勢の有無と、海外市場における成功度合いの差にある。


 スクウェア・エニックスがこれらの課題をどのように乗り越えていくかが、今後の同社の位置付けを左右するはずだ。引き続き注目したい。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。X(旧:Twitter)はこちら


このニュースに関するつぶやき

  • カプコンはともかく、コナミはもはや「コンピュータゲーム屋」ではないと思う。
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