米ファンド傘下になったケンタッキー マクドナルドに劣る「重要な課題」を乗り越えられるか

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2024年09月09日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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カーライル傘下で日本KFCはどうなる?

 創業以来、三菱商事の傘下でケンタッキー事業を展開してきた日本KFCホールディングスが、TOB(株式公開買い付け)によってカーライル・グループの傘下に入った。カーライルといえば、過去に居酒屋チェーン「はなの舞」で知られるチムニーや、沖縄地場のオリオンビールを買収した米ファンドであり、バイアウト投資を得意とする。2000年代の低迷を打開しコロナ禍で業績が伸びた日本KFCはまだ課題も多いが、今後どのように生まれ変わっていくのだろうか。


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●「特別感」が先行し、デフレ時代に苦戦


 日本KFCの歴史は、三菱商事が米国でケンタッキー事業を展開するケンタッキー・フライド・チキン・コーポレーションと折半で日本法人を設立し、1970年11月に名古屋で国内1号店を開店したところから始まった。当初は米国と同じくロードサイドで出店したが、なかなかうまくいかず、軌道に乗り始めたのは東京・青山店のオープンからだ。その後、1992年に1000号店を開店し、現在は約1200店舗を展開している。


 1990年代は順調に店舗数を拡大した日本KFCだが、2000年代に入ってからは低迷が続いた。同社のチェーン全店売上高は1100億円前後で横ばいに推移し、店舗数も1000を超えてから頭打ちとなったのである。


 主な理由はデフレ時代で同社の割高感が目立ったためだ。テレビCMの影響もあり、クリスマスなど特別な日に利用するチェーンとして定着した一方、日常的な利用を訴求できなかった。コンビニがホットスナックとして注力しているチキンの台頭も一因といわれている。


 しかしながら2019年3月期以降は停滞を打開し、業績も伸び始めた。コロナ禍での成長が著しく、2020年3月期から2024年3月期における日本KFCホールディングスの業績は次のように推移している。


売上高:796億円→896億円→975億円→999億円→1106億円


営業利益:47億円→63億円→61億円→36億円→58億円


店舗数:1133→1138→1172→1197→1232


●成長のきっかけは「エブリデイブランド」


 日本KFCにおける近年の成長は、テークアウトとの相性の良さをはじめとした、コロナ禍でも逆風を受けにくかったファストフード業態であることが主な要因だ。加えて、普段利用を促す「エブリデイブランド化」の取り組みも奏功したといえる。


 2018年に期間限定で当時500円の「ケンタランチ」を発売し、ランチ利用における売り上げを伸ばした。もちろん現在は500円から値上げしているものの、単品で頼むより150円前後割安である。また、500〜1000円近くも安くなるバーレルなどの商品も人気をけん引した。


 そんな日本KFCも、冒頭の通り経営権がカーライル・グループへ移ることになった。2月末に当時株の35%を握っていた三菱商事による売却方針が明らかとなり、その後5月21日から7月9日にかけてカーライル・ファンド傘下のクリスピーがTOBを実施し、市場から日本KFC株を買い占めた。三菱商事からカーライルへの譲渡は9月の予定で、買収総額は1300億円となる。


 確かに近年の業績は回復したとはいえ、日本KFCの存在は三菱商事にとって重荷になっていた。同社における小売事業の資産効率は資源やモビリティといった他事業より低く、規模も小さい。拡大の余地がないと判断されているのか市場の評価も低く、他の外食大手と比較して株価もパッとしなかった。1000店を超える飲食チェーンで約1400億円(TOB実施時)という時価総額は小さい印象がある。


●「はなの舞」やオリオンビールを支援してきた


 カーライル傘下に入った日本KFCは今後、どう生まれ変わるのだろうか。日本法人であるカーライル・ジャパンは2000年に設立し、以降は国内でバイアウト投資を行ってきた。バイアウト投資とは、ある企業を買収して改革し、企業価値を高めてから売却することで利ざやを得る投資方法のことだ。公式Webサイトによると、カーライルではこれまで日本で約40社、4500億円を超える投資を行ってきたという。


 具体例を挙げると2009年に居酒屋「はなの舞」で知られるチムニーに出資してMBOを支援し、2012年に再上場させた。この間の差額で100億円弱の利益を得たと言われる。チムニーの改革では会計や食材在庫の徹底管理、調理技術の向上など、突飛な施策ではなく基礎を固める施策を行った。


 2019年には野村ホールディングスと共同で沖縄のオリオンビールを買収し、現在は将来的な上場を目指して改革を行っている。オリオンビールはカーライル傘下でECサイトのリニューアルや海外販路の強化を進めたほか、倉庫の効率化やシェアオフィス活用による東京支社の閉鎖といった地味な取り組みも行った。米ファンドと聞くと手荒い印象もあるが、カーライルは一見すると当たり前のような施策で傘下企業の改革を進めてきたのだ。


●2つの課題をどう乗り越えるか


 カーライルは、日本KFCについても同様に、企業価値を高めてから再上場を目指すことになるだろう。現在の課題を解決する形で改革が進みそうだ。


 日本KFCが抱える課題の一つがDXの遅れである。競合であるマクドナルドは無人オーダー機やセルフレジを積極的に導入。特にモバイルオーダーの定着化は店舗の効率化につながった。対する日本KFCは遅れている印象がある。業態こそ違うが、松屋は券売機を設置したセルフ式店舗を展開、すき家・吉野家も後に続く。人手不足の昨今、こうした施策は急務になるだろう。日本KFCは以前よりセルフ式店舗を増やしているが、今後加速するかもしれない。


 もう一つの課題が「ランチ以外の利用が少ない」点だ。ケンタランチの導入で日常利用を進めたとはいえ、店舗によって夜は閑散としていることが多い。「朝マック」「夜マック」など、メニュー構成に緩急をつけるマクドナルドとは対照的である。


 営業時間にも差が現れており、マクドナルドは早朝や深夜営業を行う店舗もある一方、日本KFCの多くは午前10時〜午後9時の営業である。夕方のカフェ利用に関しても「マックカフェ」を提供するマクドナルドに対し、ケンタッキーのイメージは薄い。人手不足で深夜時間の拡張は難しいが、朝利用や夕方のカフェ利用を開拓する余地はあるだろう。サイドメニューの甘いものは今のところ「チョコパイ」と「ビスケット」しかなく、スイーツ関連が増えていく可能性も高い。


 買収完了後、カーライルは店舗のデジタル化やメニューの拡充を進め、積極的な出店戦略を実行するとしている。地道な施策でどう企業価値を高めるのか、今後の動向に注目したい。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • KFCの最大の誤算はオリジナルチキン一択で勝負しとけば今頃店舗数は歯医者より多くなってた。余計なメニューやチャラいサイドメニューなど要らない
    • イイネ!13
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