SES企業が未経験者をJava歴5年と偽り送り込み→裁判に…蔓延の背景

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2025年02月11日 19:00  Business Journal

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「Unsplash」より

 プログラマーやシステムエンジニア(SE)などのITエンジニアを顧客先に常駐させるなどして労働力を提供するSES(システムエンジニアリングサービス)企業。1月7日付「日経クロステック」記事によれば、採用で未経験者歓迎を謳うあるSES企業が、未経験のエンジニアについてJava開発歴が5年あると顧客に対して虚偽の説明をして受注し、当該エンジニアが現場で叱責を受けるなどの精神的苦痛を受けたとしてSES企業を提訴するという事案が起きたという。未経験者がITエンジニアになるための入口ともいわれているSES企業だが、同様の事例は多いのか。また、徹夜や長時間労働が当たり前だった一昔前のIT業界を知るエンジニアからすれば、今のエンジニアの働き方は「ヌルすぎ」にみえるというSNS上の投稿が少し前に話題となっていたが、ITエンジニアの労働環境はかなりホワイト化したといえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


 SES企業とは一般的に、顧客企業と準委任契約であるSES契約を締結して業務を遂行し、その対価として報酬を受ける。成果物の完成に責任を負い納品物の検収をもって対価が支払われる請負契約や、顧客の指揮命令下に置かれる派遣契約とは異なる。SIerが発注元であるエンドユーザー企業から請負契約でシステム開発案件を受注し、SES企業はそのSIerから発注を受けて業務を遂行するケースが多い。建設業界と同様に元請け、2次請け、3次請けと多重下請け構造になっているIT企業において、コードを書くプログラミングなどの実務を担っているのがSES企業だ。


「大手のSCSKあたりは顧客企業から直接受注しているケースもあるが、大半のSES企業は孫請けやその下位のレイヤーでプロジェクトに入っている。元請け企業のプロジェクトマネージャー(PM)だと人月単価200万円以上というケースもあるが、現場でゴリゴリとコードを書くSESのプログラマーは人月単価数十万円ほど。“人出し企業”という言われ方をされ、IT業界のなかでは賃金が低く“下位層”というイメージを持たれがち。未経験者がIT業界に入るためには、とりあえずSES企業に滑り込んで3〜5年ほど修行し、経験者という肩書を持って大手SIerや大手テック企業に転職するのが成功パターンといわれる」(大手SIerのSE)


上流と下流の違い

 そんなSES企業で前述のような事態が起きているという。SES企業が未経験者を採用し、経験を持つエンジニアだと偽って顧客先に送り込むケースは珍しくないのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。


「ここ数年で始まったことではなく、かれこれ20〜30年前からある話なので、珍しくはありません。根本的な原因としては、日本のIT業界特有の多重下請け構造があげられ、上流の元請けSIerと下流の下請けSESといったかたちでヒエラルキーのようなものが存在します。上流のSIerは顧客と打ち合わせをして要件・仕様を固める一方、下流のほうはとにかく作業者となる人を集めることが最優先になりがちです。そのため未経験者が1週間くらいのかたちだけの研修を受けて現場に放り込まれ、要点定義書や仕様書を読めずに自分が何をすべきかもわからず、エンジニアとしてのコミュニケーションのやり方もわからないといったケースが生じます」


いまだに体育会系の気質が根強いIT業界

 SES企業といえば過酷な働き方というイメージをIT業界内では持たれがちだが、SES企業に限らず、「ITブーム」「ITバブル」といわれた1990年代後半から2000年代にかけては、IT業界は徹夜や異常な長時間労働、連続勤務などが当たり前の世界とされてきた。そうした時代を生き残ったITエンジニアたちの目には、「残業=悪」とみなして残業を厳しく取り締まり、若手社員への厳しい指導も厳禁とされる今の労働環境は緩すぎると映ることもあるようだ。


「社会的な流れもあり、業界全体としてはホワイト化が進んでいるといえます。たとえばエンジニアがお気に入りのキーボードやチェアを選べるようにする企業もあり、人手不足を受けて企業側にはエンジニアから選ばれる努力をしようという動きも強まっています。一方で下流のほうでは、何十人ものエンジニアがタコ部屋に入れられてパイプ椅子と低スペックのノートPCでプログラミングをして、徹夜も強いられるという環境もいまだにあります。本来、常識的な労働時間のなかで人を育成して、それを前提にマネジメントしていくというのがあるべき姿なのに、『終業後や休日など業務外でも勉強し続ける“ワークアズライフ”でなければ成長しない』というメンタリティーの人も少なくなく、いまだに体育会系の気質が根強い業界であることも確かです」(田中氏)


 大手テック企業のエンジニアはいう。


「昔は1週間くらい家に帰れないというのはザラで、明け方に1〜2時間だけ机に突っ伏して仮眠を取り、起きてそのまま仕事を始めるという感じだった。なので知り合いのエンジニアのなかにも過労死する人はいた。次々に新しい技術が生まれて、知識や教育もきちんと体系化されておらず、研修や勉強もなく一人でサーバ回りもウェブ周りも行き当たりばったりでこなしていくという感じだった。あの時代が良かったとはまったく思わないが、今も残っているエンジニアは技術力も問題解決能力も高いとみなされ、かなり高い給料をもらっている人も多い。フリーランスだとPMやプログラマーとして複数の仕事を掛け持ちして月収150万円くらい稼いでいる人も珍しくない」


(文=Business Journal編集部、田中健太/データアナリスト、鶴見教育工学研究所)



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