限定公開( 1 )
AIブームを背景に、その計算処理を担うデータセンターの需要が急増している。三菱商事と、米国の大手データセンター事業者Digital Realty(デジタル・リアルティ)による対等出資の合弁会社MCデジタル・リアルティ(MC DIGITAL REALTY)は国内で、KIXキャンパス(大阪府茨木市・箕面市)で4棟、NRTキャンパス(千葉県印西市)で2棟、三鷹市データセンターで2棟の計8棟のデータセンターを運用中だ。
同社の畠山孝成社長によると、2023年あたりからGPU(画像処理半導体)絡みでデータセンターの需要が大幅に増えてきたという。「数年で運用規模を倍に伸ばしたい。そのカギになるのは電力供給を十分に受けられるかどうか」だと指摘する畠山社長に、今後の展望を聞いた。
●急増するデータセンター 2027年には4兆円市場に
2024年版の情報通信白書によると、世界のデータセンターの数は米国が最も多い。2024年3月末時点で5381、欧州各国が2100、日本は219しかなく米国の5%にも満たない数字になっている。数でみるとかなり立ち遅れていると言わざるを得ない。
|
|
全世界の市場規模(売上高)でみると2020年はコロナ禍で落ち込んだものの、その後は順調に回復。2023年は34.1兆円、2024年は36.7兆円と予測している。一方、日本は、2022年は2兆938億円であるものの、その後は確実に伸びているようだ。2027年には4兆1862億円まで成長するとみられている。それでも米国と比べると大きな開きがあるのが実情だ。必要とする電力を確保しながら、このギャップを、いかにして埋めていくかが課題になっているのだ。
日本でもこの数年で急速にデータセンターの需要が高まり、千葉県の印西市周辺は一躍データセンターの集積地点となっている。この数年、データセンターの建設ラッシュは続く。
●ニーズに応じた2つのサービス
MCデジタル・リアルティは、三菱商事と、世界に300以上のデータセンターを保有するDigital Realtyとの合弁により2017年に設立された。急増している大規模なAIの需要に応えられるハイスペックなデータセンターのインフラを提供しようとしている。
データセンターのサービスは、コロケーションサービスと、ハイパースケールサービスの2種類がある。コロケーションは、AI、データ分析、機械学習など電力集約型のアプリケーション導入を目指す顧客や、サービスプロバイダー向けに設計されている。セキュリティ水準の高いデータセンターに自社のサーバを設置して1ラックから利用できるのが特徴。導入事例としては、半導体やサイバーセキュリティ関連の事業をしているMACNICA(マクニカ、横浜市、原一将社長)や、AIを活用した自動運転サービスの開発をしているTURING(チューリング、東京都千代田区、山本一成CEO)などがある。
|
|
ハイパースケールサービスは、国内外の大手IT企業、クラウドコンテンツ事業者向けの大規模データセンターサービスだ。数メガワット規模のサーバルームを単位貸ししたり、1棟丸ごと貸し出したりしている。ディープラーニングの研究開発をしているPreferred Networks(プリファード・ネットワークス、東京都千代田区、西山徹社長)が2026年1月に本格運用する予定だ。
●4つの特徴
畠山社長は、同社のサービスの特徴として以下4点を挙げる。
1. 堅牢で信頼性のあるサービスを提供できる。データセンターのある千葉県印西市と大阪府の茨木市・箕面市は、いずれも水害リスクが低く、地盤が固く地震の恐れも少ない強固な地盤上に建てている
2. 高電力の供給能力を確保し、電力不足の心配が要らない
|
|
3. 冷却能力が優れており、今後は水冷設備が中心になる
4. 事業の拡大に伴い、設備の拡張を求められることが多いが、大規模拡張も含めて十分対応できる
畠山社長は「AIの開発では大規模で高速な計算基盤が必要となります。当社はこうしたニーズに対して多くの選択肢を提供できます。日本の中では、NVIDIAを始めとするGPUサーバの運用環境に最適なものは数社しかなく、わが社はその中でも先行しているのが強みです」と強調した。
●首都圏と関西圏が中心
同社はこれまで首都圏と関西圏の需要に応えるために、データセンターを建設してきた。これまでの歩みをサーバ用電源容量の推移で振り返ると、2017年の発足当時は29MW(メガワット)だったものの、2024年には168MW(首都圏が94MW、関西圏が74MW)まで増加してきている。
畠山社長は「2024年は首都圏で印西市のNRTキャンパスに3棟目となる『NRT14データセンター』を着工しました。100MW規模に拡張できる一つのマイルストーンに到達しました。今後は東京圏、関西圏共に良い形で倍増する計画を立てています。ニーズのある地域に近い場所で、データセンターを建設していきたい」と述べた。
データセンターは稼働すると、施設内で運用しているサーバなどのIT設備が発熱する。そのため、設備をいかにして効率的に冷却するかが課題なのだ。このため寒冷地にデータセンターを建設しようとする動きもある。畠山社長は「最新式の水冷式冷却設備を導入すれば、寒冷地に建設する必要性はそれほどないと思います」と指摘した。
●実質再生可能エネルギーに転換
同センターは、環境負荷の低いデータセンターの運用を目指しているのが特徴だ。コロケーションサービスで使用する電力は実質100%再生可能エネルギーに転換した。また、三菱UFJ銀行が引受先となってグリーンボンドを発行。調達した資金はデータセンターの開発運営に充てるなど、環境を意識した経営をしている。
AIの計算基盤を支えるデータセンターは、電力消費量の大きさが課題だ。その中で、いち早く「実質100%再エネへの転換」を打ち出したのは先見の明があるだろう。
●課題と展望
畠山社長はデータセンターを取り巻く課題として、以下4つの項目を挙げた。
1. 国家戦略・グランドデザインと官民連携の強化
2. 電力供給能力の拡大整備
3. AIインフラの構築
4. ソフトを支えるオペレーションの専門家人材の育成
中でも電力の安定供給はデータセンターの安定運用には不可欠だ。エネルギー基本計画が見直されている中で、政策的な後押しや制度改善も必要だとしている。今後の展望は「運用資産を倍増し、大きく出ていく年にしたい」と事業の拡大に強い意欲を示した。
いくら最新鋭の半導体装置があっても、膨大なデータを活用しなければ無用の長物になる。その運用に不可欠となっているのがデータセンターだ。印西市のデータセンターが立ち並ぶ場所に足を運ぶと、窓のない3、4階建ての倉庫のようなビルがいくつも立っている。こうした最新鋭の装置を、効率よく運用できるデータセンター設備を提供しているのがMCデジタル・リアルティのような運用事業社だ。一見すると目には見えないため、AIの成果や業績を支える黒子のような存在ではある。しかし、この設備が効率良く稼働しないと、AIが予定した成果を出してくれない。
このため、いまAIを使う側はどのデータセンターを使うか選ぶタイミングになっている。MCデジタル・リアルティがその特性を生かす形で、どこまで顧客をつかめるか。
(中西享、アイティメディア今野大一)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。
OpenAI マスク氏の買収提案拒否(写真:TBS NEWS DIG)9
OpenAI マスク氏の買収提案拒否(写真:TBS NEWS DIG)9