
「ゲームやSNS・動画閲覧を我慢できない」
「何か見ていないと寂しい」
「タイパ(タイムパフォーマンス)重視」
「もう習慣になっている」
【写真】スマホを見て、「ながら食べ」する人はどれぐらいいる?
親が子に、夫婦間で注意しても、なかなか止めてもらえず。知人・友人であれば言いづらい…と、SNSでもたびたび話題になる「ながら食べ」。なかには、生活の効率化「タイパ」だと主張する人も。
『Z世代のタイパ意識に関する調査』(※)によると、Z世代が自然とタイパを意識して行っていることとして「ながら行動」を挙げている人が約46%。その中でも「タイパを重視しているもの」として1位に「仕事」24.3%、2位に「食事」15.7%を挙げている人がいました。
マナー・礼儀としても気になりますが、「ながら食べ」は消化によくないのでは?という声もあります。実際はどうなのでしょうか?
|
|
フリーランス管理栄養士として年間500人以上に栄養指導を行い、食品添加物セミナー、企業のコラムなどを執筆している豊田友理絵さんにお話を聞きました。
タイパ求めて「ながら食べ」、それは効率的なの?
ーー「タイパを重視しているもの」として「食事」を挙げている人が多いという結果もありますが…。
世間のテンポの速さ、情報があふれているのが当たり前の中、「タイパ」重視であるのも仕方がないのかな、とも思うのですが、食事中の「タイパ」に関しては、本当にそれが効率的なのかは疑問を持つところです。
ながら食べをすることで「食べ過ぎ」や「消化不足」などを引き起こすことが、ゆくゆくは将来病気へと発展してしまう可能性もあります。
そういった健康被害が現在の「タイパ」の代償となるのであれば、そこは私たち管理栄養士が声を大にしてしっかりと食事方法について伝えていかなければならない部分だなと思っています。やはり社会的な問題であると感じます。
|
|
若いうちは大丈夫でも、将来的には…
――スマホの「ながら食べ」、身体にはどんな影響が?
みなさん「なんとなく良くない」とわかっていても、習慣的にやりがちだと思います。ながら食べは、毎日の身体のコンディションをはじめ、将来の健康にも大きく影響してくるのではないかと懸念しており、考えられる影響としては5つほどあります。
1つ目は、見た通りですが…姿勢が悪くなることです。
スマホを操作しながらの食事やパソコンを見ながらの食事は、 ついつい背中が丸まったり、肘をついて背骨が歪むなど姿勢が悪くなりがちです。 姿勢が悪い状態で食事をすると、内臓を圧迫し消化吸収に負担をかけます。
――確かにスマホを見るときは、みんな下を向いて、姿勢が良くないイメージです。
|
|
その結果として、2つ目は、消化吸収能力が低下してしまいます。
姿勢が悪いことにより、消化機能が低下し、基礎代謝も低下。肥満や生活習慣病になりやすくなります。
また、脳は食べ物の味だけでなく、見た目や香りによっても「今は食事中だ」という認識が働きます。脳が食事中である事を察知すると、消化器官に指令が出され、 唾液や胃酸、消化酵素を分泌させて食べ物の消化吸収に備えます。
ながら食べをして他に意識が行ってしまうと、 脳が食事をしていると判断できずに消化機能が鈍ってしまいます。 結果、十分な消化吸収が出来ず、胃の不調など、健康面での大きなリスクに繋がりやすくなります。
――自分では気づかなさそうですね。
若い世代はそれほど健康に気を使わずとも過ごせますが、やはり40代・50代になってくると身体に変化が出てきます。
例えば、40代のサラリーマンの方に「特定保健指導」として食事指導なども行っていますが、やはり時間がないのもあって基本的に早食いです。それが血糖値の高さなどにも繋がってきています。
――それは怖いです。ほかにも身体にとってよくない理由は?
3つ目、満足感が低下し、食べ過ぎることです。
目の前の食事に集中していないと「食べた」という意識が低くなり、満腹感・満足感を得られにくく、またどれくらい自分が食べたかも把握しづらくなることから、食べ過ぎにつながりやすくなります。
さらに、満腹感・満足感を得られなかった分、食事のあとにおやつを食べたり、間食も増え、結果カロリーオーバーに繋がりやすいです。
歳を重ねてから食習慣を変えることは結構大変ですので、常日頃からよく噛むこと、栄養バランスや何を食べるかということに気をつけることが、将来的に病気になりづらい身体へと繋がっていきます。
――噛む回数については、やはり「ながら食べ」だと減ってしまいますか?
その通りです。4つ目に、咀嚼回数が減り、早食いしやすくなります。
ゆっくり噛んで食べることで、満腹中枢がしっかり働きます。ながら食べをしていると、その意識まで回らなくなり、早食いになりやすくなります。
ですので、噛む回数を増やすと、自然と食事をゆっくり摂ることができ、満腹中枢が刺激されるまでに時間がかかるため、一度に食べ過ぎてしまうことを防げます。多く噛んで消化が効率的に進み、栄養素がより速く吸収されることも、満腹感を得やすくなる要因となり肥満予防にもなります。
――とにかく「よく噛むこと」がとても大切なのですね。
一口食べ物をいれたら30回噛むことが推奨されています。よく噛むことで食物が細かく砕かれるので、消化器官への負担が減り、効率的に消化することができます。
また、歯をよく使えば歯周組織の血流が増加し、歯肉の健康を促すことにより歯周病の予防にもつながります。また、歯に付着した食べかすや汚れをある程度取り除くことができるため、細菌が繁殖して口臭の発生を防ぐこともできます。
――噛むことにはそんな効果が…!
さらに、口腔内の筋肉が刺激され、脳に咀嚼の情報が送られて、脳は血流を増加させる反応を示します。これにより、脳に酸素や栄養素を運ぶ血液の流れが増えて、脳の機能も活性化されます。
また、咀嚼にはストレスを軽減する効果もあります。ストレスが軽減されると、脳の血流が増加し、脳の機能が活性化されることが分かっています。
このように、よく噛むことにはメリットがたくさんあります。
ごはんを美味しく味わえていない!?
――咀嚼回数を増やせるコツはありますか?
私が昔からよくやっているのは、食べ物を口にいれてから「あ・り・が・と・う」を6回唱えながら食べることです。
「お・と・う・さ・ん」「お・か・あ・さ・ん」「お・じ・い・ちゃ・ん」「お・ば・あ・ちゃ・ん」「あ・り・が・と・う」などと組み合わせても良く、数字を数えるよりも噛みやすかったり、食べ物や作ってくれた方への感謝の気持ちも同時に感じられます。
また、「一口食べたら箸を置く」のもおすすめです。どんどん箸を進めたくはなりますが、箸を置くと自ずとゆっくりと食べることができ、しっかり噛むこともできます。味わいを感じることができる上、食材の食感や歯ごたえ、音に意識を向けることもできます。
誰かと食べることも、メニューや美味しさについて話しながらになるので時間がゆっくり流れますし、よく噛むことに繋がっていくかと思います。
――噛むことでしっかりごはんのことも意識できそうすね。
そうなんです。スマホのながら食べの影響の5つ目は、味覚に対して鈍感になってしまうことです。
食べているものを見ない=脳に情報が入ってこない、ということになり、視覚の情報としては断然スマホの中にある動画やSNSの内容が脳を占めていきます。
食べ物の情報が入ってこないので、「なんとなく食べた」という印象しか残らず、味・香り・食感に意識がいかず「味わって食べる」ということができていない状態であるかと思われます。
それが当たり前になってしまうと、味覚に対して鈍感になっていってしまうのではないかと。「味わって食べる」経験が少なくなると、ちょっとした味の違いや風味の差などもわからなくなっていく可能性も考えられます。
――どうしてもスマホが手放せない場合は?
できるならば時間をかけて食べていただきたいです。よく噛むことができれば消化にも良く、食べることに満足感を得やすかったり、食に興味を持つということにもつながっていくかと思います。
ただ、スマホはやはり依存要素も多く、なかなかやめられるものではないかなと思っています。スマホが心の安定剤になってらっしゃる方もいらっしゃると思いますので、急に0にするのではなく、食事中はちょっとずつ置く時間を増やしたり、「今日は見ずに食べることにしよう」と決めたり、ご自身の可能な範囲で調整していくのが良いかもしれません。
――食べることと、そこにかける時間を重視していかないといけませんね。
今回、あらためて「ながら食べ」ということを考えてみるとたくさんの問題があり、スマホとうまく付き合っていくのもなかなか難しいなとあらためて思いました。
「ながら食べ」は「何をしながら食べるのか」ということも大事です。誰かと一緒に会話を楽しみながら…、音楽を聴きながら…、外で自然を見ながら…などであれば積極的に行っても問題ないと思います。
食べることから意識を逸らした結果、「食事の重要性」が失われていってしまうことが怖いです。同じ食卓を囲んでいても、スマホを見ている家族がいたり、会話がなかったり…というのはすごく残念な状況だなと思います。
管理栄養士としては食に興味を持ってもらえることが嬉しいので、「味わって食べることの大切さ」をこれからもしっかりと伝えていきたいですね。
◇ ◇
スマホが手放せない生活のなか、食事時間もつい「スマホを見る」ことで趣味や娯楽の欲求を満たしていることが想像できます。「『食べもので身体ができている』ということを本当に理解している人は少ない印象です。せっかくの美味しいご飯を目の前に、みなさんもったいないことをしているのではないでしょうか。将来を見据えて、ご自身のご飯の食べ方、ぜひ一度考えてみてください」と豊田さん。
すぐにスマホを離すことができない人は、まずは、噛む回数を増やすことから。「回数を増やすのが難しい場合は、“しっかり味わって食べること”を意識してみることからスタートしてみるのが良いかもれません」と提案してくれました。
<参照>
ピュアフィールド株式会社 栄養士コラム「ながら食べは太るNG習慣!スマホは置いて食事に集中。」
(※)otalab調べ『Z世代のタイパ意識に関する調査』
調査期間:2024年8月9日〜2024年8月15日
調査機関:株式会社アップデイト(自社調査)
調査対象:47都道府県在住の18〜27歳男女
有効回答数:992
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)