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「日本最大の小売業」の株価が、たった4カ月で4割以上吹き飛んだ。
【画像】営業利益は過去最高を更新した(出所:イオン決算説明資料)
イオンは1月5日に年初来高値2542円をつけた後、4月30日には1490円まで下落。下落率は実に約41%に達した。決算発表のあった4月9日には一日で7%超下げる場面もあり、市場の失望は数字以上に重い空気をまとっている。
それでもなお、記事執筆(5月15日)時点のPER(株価収益率)は56倍だ。同じ国内大手で見ても、セブン&アイ・ホールディングスが17倍前後、パン・パシフィック・インターナショナルHD(ドン・キホーテなどを運営)が25倍であり、小売業の平均PERである20倍台と比べれば、足元の株価ですら「割高」とされる水準にある。4割下げても「業界平均の2倍超」という評価が残っている点には目を見張るべきだろう。
その大きな理由のひとつとして、イオンは個人投資家比率が極めて高く株主優待目的の長期保有層が多いという点が挙げられる。
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あえて言うならば、株主優待目的で細かい数字を気にしない個人投資家は多少株価が高くても買っているし、手放さないからこのPERが正当化されているといえそうだ。
機関投資家目線では、需給の歪(ひず)みによって、本来買えたはずの値段よりも高い値段で買わざるを得ないとみることもできる。
ちなみに、イオンに限らず「人気の優待銘柄」は相対的に割高になりやすい。優待を握りしめている個人と、割高でもファンドの運用ルールなどで買わなければならない機関投資家のシビアな視線が交錯する。
決算翌日の急落は、その均衡が一気に機関投資家側へ傾いた瞬間ともいえそうだ。
●営業最高益でも売られる理由
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2026年2月期決算は、表面的には文句のつけようがない内容だった。
イオンの連結売上高は10兆7153億円(前期比5.7%増)で営業利益2700億円を突破(同13.8%増)。5期連続で過去最高売上高を達成し、営業利益も過去最高を更新した。
さらに2027年2月期予想では、営業収益12兆円、営業利益3400億円と、前期の過去最高からさらに2ケタ成長を見込むという強気の姿勢を崩さない。
それでも株価は急落した。理由は決算に記された最後の一行にある。
同社の親会社株主に帰属する当期純利益の予想は、10兆円の売上高に対して1%未満のわずか730億円(前期比0.4%増)だった。営業利益が4分の1以上伸びるのに、純利益はほぼ横ばいだったのだ。
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市場は営業利益と純利益の異様な乖離(かいり)に違和感を覚えたのである。
●「イオン帝国」にのしかかる統合コスト
この乖離は偶然ではない。「イオン帝国」ともいわれることすらある、超巨大な企業グループ構造そのものが、営業利益と純利益の乖離を生み出している。
そもそもイオンは、イオンモール、イオンフィナンシャルサービス、ウエルシアHD、イオンディライトなど、上場子会社を多数抱える複合体だ。
連結営業利益はこれらの子会社をフルに取り込むが、純利益の段階では子会社の利益のうち「外部の少数株主に帰属する部分」が控除される。営業利益の伸びがそのまま親会社株主に届かない構造的なハンディキャップを、もともと抱えているのだ。
これに加えて、足元では大型の構造改革コストが純利益を圧迫している。イオンは2025年以降、イオンモール、イオンディライト、ホームセンターのサンデーなどを順次完全子会社化する方針を表明済みだ。狙いは、少数株主に配分されていた利益を取り戻し、グループ経営の自由度を高めることだった。
長期的にはポジティブといえる施策だが、TOBに伴う買収プレミアムや関連費用、グループ再編コストは、当面の純利益を確実に削る。
さらに、ドラッグストアやデベロッパー事業の積極投資、PB「トップバリュ」の原価低減投資、デジタル基盤整備など、収益化までに時間を要する投資案件が並ぶ。営業利益と純利益のあいだに、未来への投資と資本コストが厚くのしかかっている格好なのだ。
●「トップバリュ」2兆円目指す、構造的優位
イオンは新たな中期経営計画で、2030年度にPB「トップバリュ」の売上高を2兆円規模に引き上げる目標を掲げた。2026年2月期実績の約1兆2000億円から、2027年2月期は1兆4000億円を目指す。
PBは粗利益率がナショナルブランドより高く、構成比上昇はそのまま利益率改善に直結する。さらにイオンはPBの原価低減で生まれた余力を価格に還元し、低価格で販売する方針も明確にしている。インフレ下で「低価格の訴求と利益率の向上」の両取りを狙う、教科書的だが極めて野心的な戦略だ。
実際、足元の決算でもPB商品の伸びは際立っている。トップバリュの売上高は2026年2月期に約1兆2000億円に達した。これは、ファーストリテイリングのユニクロ国内事業を上回る規模であり、単一のPBブランドとしては日本最大級だ。
原材料調達のスケールメリット、生産委託先との価格交渉力、売り場の自由度――どれを取っても、ナショナルブランド依存の同業他社にはまねできない優位性を持つ。
ここに、ショッピングセンター(SC)事業の収益化やフィナンシャル事業のアジア展開、ヘルス&ウエルネスの拡大が重なれば、営業利益3400億円という今期計画から、さらに上振れするようなシナリオも描ける。
また、完全子会社化による本体へのプラス寄与や構造改革の効果が顕在化する頃には、純利益を積み増す可能性も十分ある。
ただし、それまでの2〜3年は、営業利益と純利益のギャップに苦しむ決算が続く可能性に注意が必要だ。PER60倍という投資家からの期待を正当化し続けるには、毎四半期、市場の高い期待に応えるような「サプライズ」が必要になる。
市場から問われるのは、PBの利益率改善や完全子会社化後の収益改善、そしてアジア事業の収益化時期だろう。この3点を、市場が納得する形で示せるかにかかっている。
イオンの真価が問われるのは、これからだ。
●筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
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