姫乃たま×マーライオン対談 音楽は“不器用な10代”をどう変えた?「舞台に立つと積極的になれる」

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2014年12月09日 07:21  リアルサウンド

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左・姫乃たま。右・マーライオン。

 マーライオン、21才、ギターを弾き語る同い年の男の子。あまりに生真面目で、あまりに不器用。私、姫乃たまとマーライオンが活動を始めたのは、いまから5年前のこと。ふたりとも16才になったばかりでした。あれから多くのバンドが解散し、周囲のアイドルもどんどん引退していきました。残ったのは意外なことに、あまりに不器用なふたり。


マーライオン:あの、今日は精一杯話します。
姫乃たま:あはは、そんな生放送じゃないんだから。


 路上ライブで知らない人から「下手くそ!」と怒鳴られて泣いていたマーライオンが、今年3ヶ月連続でアルバムをリリースしました。アニソンのコピーでなんとなく地下アイドルをしていた私は、不思議なことにまだ歌いながらライターをしています。久しぶりの再会、そして初めて、友人としてではなく、音楽をやっている者同士として向き合いました。


■たま「ふたりとも引っ込み思案なのに、舞台で大勢の前に立つと積極的になれる」


たま:初めて会ったのは、下北沢のCAVE-BEだったよね。あの日はTHEラブ人間の金田康平くんがブッキングのイベントだったような。当時、友人のジョンE.I..s君がThe Quandataっていうバンドをやってたので観に行ったら、弾き語りなのに全くギターが弾けないマーくんが出てた(笑)。


マー:違うの。あれは舞台上で曲作ってたの。親に内緒で活動してたから家だと弾けないし、学校だと恥ずかしいから、ステージ上で曲作ってるって悟られないように曲作ってたの。


たま:わはは、ステージ上のほうが恥ずかしいでしょ! でも、ふたりともプライベートだと引っ込み思案なのに、舞台で大勢の前に立つと積極的になれるんだよね。マーくんは当時、輪をかけて人見知りだったから、楽屋でも全然喋らなくて、周囲のバンドマンが「なんか高校生来ちゃったけど大丈夫?」みたいな雰囲気になってた。でも、舞台に出ると人が変わったように瞳孔が開いてて、弾けないギターをほとんど叩くようにしながら、女に振られたとか、絶対許さないとか叫んでて。サビだけは事前に短いメロディーが用意されてるから、さっきまで叫んでたのに急に歌い始めて、あまりのギャップにみんなが衝撃を受けてたよ。あの弾き語りスタイルはどこで確立されたの?


マー:僕は子守歌で岡村孝子とCarpentersを聞いて育ったから、自分的には、体験を歌詞に込めた、歌ものポップスをやってる気持ちだった。


たま:うーん、うん(笑)。でもとにかく周りの大人が、この子は天才だから面倒見なくちゃいけないって可愛がられてたよね。


マー:それより僕は初めて会った姫乃ちゃんが全然同い年に見えなくて、東京すげーって思った。神奈川で育ったから、恵比寿の高校に通ってるっていうのが信じられなかったし、姫乃ちゃんは僕にとって新しい文化だったんだよ。


■マー「文化祭の前日に、「お前はギターもボーカルも下手だから、明日のライブでクビな」って言われた」


マー:僕が音楽を始めたのは失恋がきっかけ。中学二年の時に松たか子に似てる女の子から、「趣味がない男とは付き合えない」って振られて……。


たま:松たか子似の中二女子!(笑)


マー:僕は小説を読むのが好きだったけど、たしかにそれ以外の趣味がなかったから、楽器を始めようって思った。ちょうどその頃に、第一回目の閃光ライオットが募集を始めてたから、バンドメンバーを集めてthe pillowsのカバーをした。でも録音方法もわからないし、応募の期日には間に合わなくて、それでもなんか楽しかったから、高校では軽音部に所属して、THE BACK HORNのコピーを三人でやる無謀なバンドを組んだら、文化祭の前日に、「お前はギターもボーカルも下手だから、明日のライブでクビな」って言われて。せめて本番終わってから言ってくれよって、はらわたが煮えくり返るような気持ちで演奏したよ。でもライブは楽しかったんだよね。ただもうバンドで揉めるの嫌だったから、マーライオンって名前でソロ活動しようって決めたんだ。


たま:私は音楽が好きだったから高校からDJをするようになって、それで初めて地下アイドルのイベントに行ったんだよね。そこで知り合ったアイドルさんに誘われて、いきなり舞台に立ったから、それ以前に楽器とかを触ったことはなかったなあ。


■たま「17才の誕生日に合わせてイベントを主催した」


マー:活動を始めた頃は高校二年生だったけど、学校が中高一貫校だったから、新しい文化が取り入れられない閉鎖的な空間だった。みんな、はみ出さないように普通にすることをすごく大事にしてた。家も厳しかったから、親に内緒で活動してたし、門限もあって出番が早くないとライブに出演できなかったんだよね。


たま:私は同時期に初めて舞台に立ってから、ありがたいことに誘われるがまま色んなイベントに出演してた。その中に、優勝するとライブハウスが一日タダで貸し切れる投票制の勝ち抜き式アイドルライブがあって、そこで優勝して初めて17才の誕生日に合わせてイベントを主催したんだよね。THEラブ人間とマーくんにも出演してもらって。あれ、楽しかったなあ。


マー:僕も自主企画をやるようになって、そこで発売するために初めて「ニヤニヤロックンロール」っていうCDを作ったんだよね。ひらくドアのタカユキカトーさんが録音してくれたんだけど、僕がCDの焼き方を知らなかったから、全部データCDで焼いちゃって、聞けないってたくさん言われた……。


たま:んふふ、買った買った。聞けなかった(笑)


マー:タカユキさんも、まさか焼き方がわからないとは思わなかっただろうなあ。


■マー「知らない人に「死ね」って怒鳴られて号泣しちゃった」


たま:マーくんさ、下北沢で路上ライブやってて、よく怒鳴られたりしてたよね。


マー:そう、小田急の旧駅舎の近くに、いるじゃない、変なヒモ売ってるお姉さん。あのお姉さんに「歌唱指導してやる」って言われて、素直に指導されてたんだけど、お姉さんの歌が全然うまくないのね。もちろん僕よりはうまいんだけど、それを指摘したらお姉さんが切れちゃって。その時、制服だったから心配した人が通報してくれて、警察が来たのでお姉さんと目を合わせて「解散!」って。


たま:わはは。知らない人に「死ね」って怒鳴られて泣いてたこともあったよね。


マー:それまでは知り合いがいる状況でしか路上でやったことなかったんだけど、初めてひとりでやってみたら、案外あったかくないのね、街が。しかも「死ね」って怒鳴られて完全に心折れちゃって。あの日は辛かった。その後に姫乃ちゃんが来てくれて、やっと知ってる人に会って安心して号泣しちゃったんだよね。


たま:私もなんだか悔しくなっちゃって。憂さ晴らしにジョンE.I..s君に「マーライオンが、うるさいって怒鳴られて泣いてた」って報告して、そりゃ、うるさいわ!って笑ってた。ごめん(笑)。


マー:でもその後ジョンE.I..sさんもすごい慰めてアドバイスしてくれて、グッときてまた泣いたよ(笑)。


■たま「マーくんは、10代限定弾き語りイベントで人々を圧倒した」


たま:マーくんは周囲に可愛がられる一方で、深く知らない人から批判の対象にされることも多かったよね。その人たちを圧倒したのが川崎市民ミュージアムの10代限定弾き語りイベントだったんじゃないかなと思う。


マー:あの時はギターのケーブルがぬけて、マイクが倒れて、散々だったんだけど、竹内さん(神聖かまってちゃんの動画などで知られる竹内道宏監督)が撮影してくれたんだよね。その後、大学一年の年度末に「日常」っていう音源で初めて全国流通したんだけど、神聖かまってちゃんの、の子さんが帯コメントを書いてくれて。しかもマーライオン君はひとりで活動しててすごいって応援してくれてた。すごくいい先輩。


たま:あの辺から、多くの人の目に留まったことで活動が広がっていった感じがしたよ。


マー:高校に在学してた時、僕のライブ動画を同級生が見つけちゃって、ニコニコ動画に転載したのね。多分いまでも観れると思うんだけど、コメントがひどくて自宅の最寄り駅とかバラされてて。書き込んでるのはほとんど同級生なんだけど、もう思いやりとかそういうのがなくてさ。


たま:ネチケットが(笑)


マー:そう、それ。そういうのがなくてさ。スクールバスで知らない奴から思い切り背中蹴られて、ラブソングなんか歌ってんじゃねーぞって言われたもん。ムカついたから「スピッツもaikoも歌ってんだろ!」って言っちゃった。


たま:自分とスピッツを並べたんだ!


マー:咄嗟にそれしか出てこなかったんだよね……。でも悪口言われた時期と、受験で活動休止した時期が重なっちゃって、逃げたみたいにみえて悔しかったから、「日常」で活動が広がって良かったよ。


■マー「僕も姫乃ちゃんも高校を卒業するときに、変わらなきゃっていう気持ちがすごくあった」


たま:それから数年会わない期間があったけど、今年の5月にジョンE.I..sくんの結婚式で再会したらスーツ着てラップしてたからびっくりした。この間まで制服でギター叩いてたのに!


マー:最近、ちゃんと音楽を聴いてみようと思って、CDショップで働き始めて、キエるマキュウとか聴くようになった。知人にトラックを作ってもらってラップするようになったのがここ1、2年のこと。


たま:でも、弾き語り時代の叫びが、ポエトリーリーディングだったとしたら、ラップに移行するのってそんなに急なことじゃないよね。


マー:まあ、あの叫びはポップスだったんだけどね。僕の中では。


たま:私も高校生の間はアニソンのカバーとかをしてたんだけど、ずっとしっくりこなくて悩んでたんだよね。始めたきっかけが急だったからビジョンがなかったのは仕方ないとしても、これじゃないなっていう意識ははっきりあった。このままでいいのかなっていう気持ちと、右も左もわからなくて試行錯誤してる間の失敗が積み重なって、だんだん嫌になってきちゃったんだよね。マーくんのデータCDの失敗だってすごい周りからしたら、笑いごとだし愛嬌もあるけど、本人からしたらやっぱり多少は傷つくじゃない。そういうモヤのような気持ちが積み重なって、もう辞めようかなって思った時に、やっぱり改名して出直そうって。


マー:僕も姫乃ちゃんも高校を卒業するときに、変わらなきゃっていう気持ちがすごくあったよね。


たま:うん、そうだね。ラップしてるマーくんを見た時に、最初の弾き語りとは違うジャンルだけど、着実に進歩してるのを感じた。私もFriendlySpoonっていう宅録ユニットでボーカルをさせてもらって、ようやく納得できる形で初めてCDを全国流通できたり、ふたりとも不器用にだけど、じわじわ進んでるのが嬉しかった。


マー:そう、結局じわじわ進むしかないんだよね。失敗して失敗して。


たま:でも失敗するたびに、周りの人が助けてくれて。ふたりとも恵まれてたね。


マー:うん。でも僕、最近もライブハウスで知らない人から「調子乗ってんじゃねーぞ!」って怒鳴られたんだよね。


たま:本当に巻き込まれやすいよね(笑)! これからも助け合って進んでいこうよ。


(姫乃たま)



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