【池袋・買春男性死亡事件:前編】2時間6万円で買われた“ホテトル嬢”が客を殺めるまで

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2019年12月01日 22:02  サイゾーウーマン

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世間を戦慄させた事件の犯人は女だった――。平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。自己愛、欲望、嫉妬、劣等感――罪に飲み込まれた闇をあぶり出す。

第7回:池袋・買春男性死亡事件

 池袋駅東側にそびえるサンシャイン60を擁するサンシャインシティ。そこに続く「サンシャイン60階通り」(当時)に面したホテルに女が呼び出されたのは水曜日、午後6時ごろのことだった。彼女は母親に「モデルの仕事を始めた」と言っていたが、ホテトル嬢として生計を立てていた。ロビーで待っていた男は、女を見てうれしそうに呟く。

「若くて綺麗な人が来てくれてよかった」

 男はあらかじめチェックインしていた723号室へ女と共に入った。

「優しそうな人」

 一方の女も、そんな第一印象を抱いていた。ところが2時間後、女の電話で部屋に駆けつけたホテル従業員が目にしたのは、血まみれで倒れている全裸の男と、同じく全裸で血まみれになりながら泣き叫ぶ女の姿だった。

 密室で何が起こったのか。男が回していたビデオカメラが、一部始終を見ていた。

ビジネスホテルに呼ばれたホテトル嬢

 1987年4月15日、東京・東池袋にあるビジネスホテルTの客室内で、大手通信会社社員・谷口智明さん(28・当時・仮名)が、電話で呼び出したホテトル嬢・大鳥清美(22・当時・仮名)にナイフで刺されて死亡した。

 ホテトルとは公衆電話に貼られた小さなピンクビラで客を取る派遣型性風俗のひとつ。風営法の許可や届け出がなく、本番行為も横行していた。実家からほど近い台東区のマンションで中学時代の同級生と同棲していた清美がホテトル嬢として働き始めたのは、事件の1年前からだったという。

 地元の小中学校を卒業した清美は、高校に進学したが、2年の頃に中退した。ホテトル嬢として働く前は、喫茶店のウエイトレスや両親が営むラーメン店の店員として働いていた。ところが父親が家出し、母親と妹との3人家族となる。

 「モデルになった」と母親に嘘をつき、ホテトル嬢を始めた清美は、その3カ月後に実家を出て同棲を始めた。実家近くの商店主はこう語る。

「お母さんは病弱だし、同棲相手は稼ぎが良くなかったと聞いてる。自分が売春して支えるつもりだったんじゃないのかな」

 とはいえ、ホテトル嬢という仕事は危険と隣り合わせでもあった。当時の風俗ライターは「最近は年に1人くらいの割合でホテトル嬢が殺されているんです。山中にまで連れ去られたり、数人の男たちに輪姦されたりというトラブルも出ている危険な稼業なんです」と解説している。

 大手通信会社に勤める谷口さんは、再婚し2人目の妻と彼の両親が住む埼玉県浦和市(当時)の家で暮らしていた。職場での評判は「真面目で几帳面。問題を起こしたことはない」、知人らも「地味で目立たない男」と口をそろえる。ところが彼にはある趣味があった。アダルトビデオや裏ビデオの収集だ。集めるだけではなく、それらを毎日のようにダビングし、愛好家らに売りさばいていた。妻は、谷口さんが夜な夜なダビングに勤しんでいることにうすうす気づいていたという。

 ホテトル嬢の清美が、客の谷口さんを刺殺――密室で起こった出来事が明かされたのは、事件から2カ月後に東京地裁で開かれた初公判でのことだった。

 冒頭陳述によると、谷口さんがホテルTにチェックインしたのは事件の日の午後2時。ホテトルクラブに電話をかけ、2時間3万円のコースを4時間分、6万円で予約。やってきたのが清美だった。部屋に入り、谷口さんは料金に交通費の1万円を上乗せした7万円を支払った。

 契約成立を報告するための電話を店に掛けながら清美は、あることが気になっていた。ベッドの正面に設置された8ミリビデオカメラ。それは三脚に据え付けられており、そばにはライトバッテリーもあった。これらの機材は谷口さんがチェックイン前に、あらかじめ北区十条のレンタルショップで借りていたものだった。

 清美が電話を切った途端、谷口さんは豹変する。いきなり清美のみぞおちを殴りつけ、ベッドに押し倒したのち、ナイフを突きつけてこう凄んだのだ。

「静かにしろ。大きな声を出したら殺すぞ!」

 そして清美の右手親指付近にナイフを突き立てた。指が切れて出血する清美に絆創膏を貼り、あらかじめ計画していた行動に取り掛かる。客室に用意されていた浴衣の帯で清美の両足首を縛り、持参していたガムテープで両腕を縛り付け、言った。

「これからおまえの恥ずかしい姿を見てやるから、いいな」

 そう言って、部屋に運び込んでいた大型バッグの中から次々と“道具”を取り出す。ポラロイドカメラ、35ミリカメラ、ピンク色のバイブレーター、マッサージゼリー、下剤、浣腸、ゴム手袋、ろうそく、ドライバー、散髪用ハサミ、ナイロンロープ、綿ロープ、洗濯バサミ、クリップ、ゆで卵、にんじん、きゅうり、バナナ……。

 清美の衣服を脱がせ、ナイフでストッキングとパンツを切り裂いた谷口さんは、彼女の股間にバイブをあて挿入し、その様子をポラロイドカメラで執拗に撮影する。やがて自分も横になり、設置していたビデオカメラのスイッチを入れた。手足を縛っていた帯とガムテープを外し、右手と右足、左手と左足をそれぞれ帯で縛り直し、股間を大きく広げるようにした。しつこくバイブレーターを使いながら、清美に命令する。

「声を出せ。感じてる顔をしろ」

 殺されるかもしれない。清美は谷口さんに従った。
(高橋ユキ)

――後編は12月2日(月)更新

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  • 記事を読んで、うわーうわーやだなーあるあるだろうなーって思っていたけど、ゆで卵、にんじん、きゅうり、バナナというところで、それ持ってピクニック行っとけよと思いました。
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