障害者のグループホーム開設を近隣住民が反対「障害者は怖い」…ダウン症の弟の姉が直面した現実は、過去の自分だった

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2024年01月31日 20:10  まいどなニュース

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岸田さんのご家族。中央にいるのが弟さん ※岸田奈美さん提供

「弟のグループホームが歓迎されなくて、家族じゃなかったらよかったと思った日のこと」

【写真】悲しむ岸田さんを慰める心優しい弟さん

作家の岸田奈美さん(@namikishida)は、数年前にダウン症の弟さんがグループホームに入居した時の話をエッセイとして公開。さまざまな困難や悲しみに直面したエピソードが、大きな反響を呼びました。

ようやく入居が決まった矢先、思わぬ反対の声

X(旧Twitter)に投稿された内容は、岸田さんが以前、noteに投稿されたエッセイ『姉のはなむけ日記〜ダウン症の弟のグループホーム入居騒動〜』からの抜粋です。

岸田さんのお仕事や車椅子生活を送るお母さんの住居の問題など、家族のさまざまな事情が重なったこともあり、グループホームで暮らすことを決めた岸田さんの弟さん。

施設の空きや、交通アクセス、送迎車の問題など、数々の課題に直面しますが家族で一つずつ解決してゆき、ようやく開設予定のグループホームへの入居が決まりました。

しかし、その矢先、さらなる問題が起こります。なんと、一部の近隣住民から、施設の開設について、強い反対意見が出たというのです。

「『自分たちが住んでいる地域に障害者がいるなんて、気持ち悪いし、トラブルがあったら怖いから、といわれてしまって……』

気持ち悪い。 まったく予想できない言葉ではなかった。

昔っから、言うてくるヤツはおったしな。なんも知らんねんからしゃーない。

けど、まさこのタイミングで言われると思っていなかったので、絶句してしまった

(岸田さんの投稿より引用)」

グループホームは自治体からも承認され、近隣住民の方々への説明も済んでおり、来月には開設する予定でした。にもかかわらず、ここにきてそんな反対の声が上がるとは…、岸田さんは驚きます。

施設担当者の話によると、「庭でバーベキューをしていて、障害のある人にお肉とかをジーッと見られたりすると、家族が怖がる」というような反対理由もあったそうです。さらには、「グループホームの周りを壁と柵で見えないように囲って、カギをつけてほしい」と条件を提示する声もありました。もちろん、入居者の人権を考えると、そんなことはできるはずがありません。

岸田さんは家族として、自身の弟さんの優しく、楽しい人となりを知っていました。しかし、一方で世間には障害者に対する「怖い」「気持ち悪い」といったネガティブな印象は根強く残っています。

世間の人々に向かって、そんなことはないと説明したい。ですが、それに意味がないことも、岸田さんは知っていました。いくら強い気持ちで訴えても、世間からは「当事者の家族だから」で片付けられてしまう――。

「わたしが、家族じゃなかったら。きっと信じてもらえただろう。きみの優しさを。

ままならないこの世界で、生きていきたいという思いを。

ごめんな。

姉ちゃん、言い返せずに、ほんとにごめん。

姉ちゃんだから。

きみのことが大好きな姉ちゃんだから。

役に立てなくて、ごめん。ごめんな

(岸田さんの投稿より引用)」

辛い現実に、「家族じゃなかったら、よかったのに」と岸田さんは思いました。弟さんは、悲しみにくれる岸田さんの背中をさすって、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と慰めてくれたといいます。

近隣住民が反対した本当の理由…思い出した自分の過去のこと

岸田さんは、さらに「グループホームに反対された理由と、過去が重なってしまった日のこと」というタイトルで、続きの話も投稿されています。

翌日、近隣住民から反対されている理由を聞いてきたと、施設担当者より連絡がありました。

ここで、意外な事実を岸田さんは知ることになります。

実は、その施設の入居希望者だった人が、先方の自宅を訪れていたというのです。その方は施設見学のためにこの地域にやってきましたが、途中で道に迷い、間違ってその家を訪問してしまったとのこと。

そんな日中の出来事について家族から聞いた家の主人が、施設に開設反対の旨の連絡をしてきたのでした。

たったそれだけで反対意見を出すなど、やりすぎのようにも思えます。しかし、岸田さんはこう思いました。家族の人たちは、そのくらい怖い思いをしたのだ、と。

岸田さんがそう感じた背景には、自身の幼少期の体験がありました。

「わたしがまだ、幼稚園に通っていたときのことだ。

母と、友だち家族と、ファミレスに行った。

その日も、運ばれてきたお子様ランチに、舌なめずりをしながらフォークを突き刺すところだった。

「キャアッ!」

入り口の方で、誰かが甲高く叫ぶ。

なにごとかと思う間もなく、わたしの前髪が、つむじ風にでもさらされたみたいにぶわっと浮いた。

目を開けると、男の人がいた。

ガツガツと、わたしのお子様ランチを、手づかみで食べていた。

(岸田さんの投稿より引用)」

ファミレスで突然、見知らぬ男性に自分のお子様ランチを食べられてしまった、という驚くべき経験を岸田さんはしていたのです。その男性は、障害者施設から逃げ出してきた人だったとのこと。あまりに怖い思いをした岸田さんは、泣きじゃくりながら「障害者なんてきらい」と叫んでしまったそうです。

自身の弟が生まれながらの障害があることを知ったのは、それから数年後のこと――。 そして今になって、そんな当時の自分の叫びが、世間の無理解な人たちの声となって、ブーメランのごとく自分に突き刺さってくるのでした。

例の家族のなかには、小さなお子さんもいたそうです。そのような家庭のなかに、入り込もうとしてくる見知らぬ人間が現れたら――恐怖はどれほどのものだったでしょう。その相手が障害のある人だったとしたら、その枠組み自体に悪い印象をもってしまっても、それは仕方のないことなのかもしれません。

単に相手側の偏見や差別意識がよくないとは言い切れない問題。その背景には、互いの家族の立場から、それぞれの願い・幸せが相容れない――そんな現実が横たわっていたのです。

無理解という問題の根深さ

弟さんのグループホーム入居にまつわる苦難が描かれた投稿。

岸田さんは、当事者家族としての思いや希望ばかりでなく、反対する近隣住民の気持ちも想像して描かれており、地域社会の障害への無理解に対する問題が根深いことを感じさせられる内容です。

岸田さんのXのリプ欄にも、たくさんの反響がありました。

「胸がいっぱいになりました」
「めちゃくちゃ考えさせられました、、、」
「僕の兄も知的障害を持っていて、これからグループホームを探します。岸田さんの記事を見ながら苦しくなり何度も深呼吸をしましたが、為になりました!このように発信して頂き、ありがとうございます!」
「ご家族にとっては本当に理不尽なことで胸が痛くなります。でも近隣の方も家族の平穏な生活を夢見てやっと手に入れたマイホームかもしれない。そんなことがあったら不安でたまらなくなる気持ちも分かります。相手の気持ちも理解しながら、それでも家族を思って頑張られる奈美さんは素敵な方です」
「無理解からくる辛い言葉、苦悩、葛藤、人間の素晴らしさと、人間の汚さと、時々ユーモア、全部盛り込んだ素晴らしいお話、ありがとうございました」
「社会は優しくならなければならない、人は人を互いに許容しないと社会はなくなってしまう。わかってる事なのになぜできないのだろうかと自問します」

ご家族に当事者がいる方の感想、望ましい社会のあり方と現実とのギャップを嘆く意見、いろいろな思いがあることを踏まえながら家族を思って活動される岸田さんを称賛する声など、さまざまなコメントが寄せられています。

  ◇ ◇

その後も紆余曲折ありながら、岸田さんの弟さんは無事グループホームに入居。近隣の人たちも今では優しく接してくれており、弟さんは楽しい日々を送られているそうで、何よりです。

最後に、作者である岸田さんにコメントをいただきました。

「このポストは、以前ダウン症の弟がグループホームに入るまでの笑ったり泣いたりを綴った『姉のはなむけ日記』の一篇になります。noteの連載当時もさまざまな反響をいただきましたが、今回の大きな反響にとても驚いています。今後も、弟や家族との日々を綴っていきたいと思いますので、見守っていただけたら嬉しいです」

岸田さんのお話の通り、『姉のはなむけ日記』の全編24話はnoteにて公開中(一部有料)。また、エピソード全編をまとめた「総集編」も無料で読むことができます。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・竹中 友一(RinToris))

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