進歩する小児のアトピー性皮膚炎治療

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2024年02月21日 15:00  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

アトピー性皮膚炎の特徴と分子標的薬の登場

 アトピー性皮膚炎の患者数は日本で約125.3万人1)と報告されており、最も多い皮膚疾患に挙げられています。

 「特定されていない」「奇妙な」という意味のギリシャ語「アトポス」に由来する「アトピー」は、眼や鼻、皮膚などのさまざまな部位で異常な過敏反応を起こしやすいアレルギー体質をさします。

 そのような体質を原因とするアトピー性皮膚炎には以下のような特徴があります。

  • かゆみ
  • 左右対称性の湿疹
  • 良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性疾患

 小児から成人まで幅広い年齢層が悩まされるアトピー性皮膚炎は、原因があきらかでなく根本治療法のない状態でした。そのため、患者さんのなかには症状の改善を諦める方も少なくありませんでした。

 近年、アトピー性皮膚炎の病態解明が進み、主な要因として「皮膚のバリア機能の低下(乾燥)」「タイプ2炎症(アレルギー性炎症反応の起こしやすい環境)」「かゆみ」の3つがあることがわかりました。そこで2018年に登場したのが分子標的薬です。炎症の原因物質を標的として作用します。分子標的薬は、これまで適切な治療を一定期間行っても十分な効果が得られなかった成人の中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんの治療の選択肢を大きく広げました。

 分子標的薬適応が限定的だった小児に対しても、2023年9月にデュピルマブが生後6か月以上の治療薬として日本で初めて承認されました。

 2023年の分子標的薬の適応拡大によって、小児アトピー性皮膚炎治療も大きな変革期を迎えました。これを機に、2024年2月6日、製薬会社のサノフィは、専門家の医師を招き「小児アトピー性皮膚炎セミナー 〜広がる治療選択肢〜 小児特有の課題から考える早期治療の意義」を開催しました。

小児のアトピー患者さんへの心理学的アプローチ


大塚篤司先生(サノフィ株式会社提供)

 大塚篤司先生(近畿大学医学部 皮膚科学教室教授)は、「治療の基本となるのは塗り薬ですが、分子標的薬によって、これまで治療の難しかった中等症以上の小児患者さんに対し、治療成績の劇的な改善が期待できるようになりました」と述べています。

 また大塚先生は診療の際、患者さんの治療に対する抵抗感を見定めることも大切だといいます。例えば、アトピー患者さんの場合、かゆみが強いときに「かいてはいけません」と言われると、ついかきたくなってしまいます。このような性質を「心理的リアクタンス(選択する自由が外部から脅かされたときに生じる、自由を回復しようとする反発作用)」といいます。

 そこで、かゆみが強い患者さんに対し、「かいちゃだめ」とは言わずに、下記のような提案をするそうです。

  • 患部を20℃程度に冷やす(保冷材はダイレクトにあてずにタオルでくるむ)
  • シャワーなどで患部を温める(やけどに注意し、温度は38〜40℃が望ましい)
  • メントール(ハッカ)配合の市販のかゆみ止めを使う
  • 爪を短くし、やすりで磨き、「患部をかく癖」を抑える

 大塚先生はアトピー性皮膚炎に対する最新の治療を行うとともに、心理学を活用して、患者さんの症状がどうしたら改善するかを追求しています。

アレルギーマーチを見据えた早期治療介入の意義

 近年、小児のアレルギー疾患が増加するなか2)で、アレルギーマーチの発症、進展の予防が重要な課題に挙げられています。アレルギーマーチとは、アレルギー体質によって引き起こされる、乳幼児期のアトピー性皮膚炎から始まり、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などの症状が次々と出現してくる現象のことです。


長尾みづほ先生(サノフィ株式会社提供)

 長尾みづほ先生(国立病院機構三重病院 小児科 臨床研究部長)は、アトピー性皮膚炎の小児患者さんの場合、アレルギーマーチのみならず、二次的に睡眠障害や精神疾患、発達障害の頻度も高くなると指摘します。

 その予防のためにもアトピー性皮膚炎に対する早期の治療介入が重要だといいます。

「近年、急速にアトピー性皮膚炎の病態解明が進み、分子標的薬などの新薬が続々と登場したことで治療の選択肢は広がっています。ただし、乳幼児期、学童期、思春期以降で治療選択肢となる薬剤の種類は異なるため、各薬剤の適応となる年齢層を念頭に置いた治療計画の立案が大切」と補足します。

 また乳幼児期における治療の主体は養育者ですが、学童期、思春期へと成長するにつれ、治療の主体が本人へと徐々に移行していきます。思春期から成人期は治療の継続が難しい時期でもあり、本人の理解や学校などとの連携も必要になります。

 アトピー性皮膚炎への早期治療介入は、患者さんの未来を良い方向に変える可能性があります。将来を見据え、医療機関に相談してみてはいかがでしょう。(QLife編集部)

1)厚生労働省「令和2年 患者調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/r02syobyo.pdf (2024年2月15日検索) 2)厚生労働省「平成28年2月3日 アレルギー疾患の現状等」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf (2024年2月15日検索)

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