【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第6回】判断ミスを反省。ケビンには“自分がコントロールできるものに集中すること”が大切

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2024年06月07日 23:20  AUTOSPORT web

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2024年F1第8戦モナコGP 小松礼雄代表&ケビン・マグヌッセン(ハース)
 2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。今シーズンのF1もヨーロッパラウンドに入り、まずはイモラとモナコでの連戦を迎えた。しかしハースは両レースで無得点に終わり、モナコでは予選の失格や大きなクラッシュによるリタイアと厳しい結果に。その一方で小松代表は、ここまでの多くのレースで入賞を争うことができている現状も評価している。そんなエミリア・ロマーニャGPとモナコGPの週末を小松代表が振り返ります。

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2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選18番手/決勝12位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選10番手/決勝11位

2024年F1第8戦モナコGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選DQ/決勝DNF
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選DQ/決勝DNF

 今シーズンのF1もヨーロッパラウンドに入りました。その最初のレースであるエミリア・ロマーニャGPの話に入る前に、少しマイアミGPを振り返ろうと思います。

 マイアミGPのスプリントでケビンがルイス・ハミルトン(メルセデス)からポジションを守ろうとしてコースオフを繰り返す走りをした後、僕はケビンと「もっとクリーンにレースをしなければいけない」という話をしました。ケビンがハミルトンを抑えたことがニコの助けになったのは事実ですが、前回のコラムにも書いた通り、あのような走りをして結局どうなったかというと、ハミルトンの後ろにいた角田裕毅(RB)にも抜かれてしまったわけです。

 あの時ニコのDRSを使うことができず感情的になったケビンですが、自分で自分のことを制御できないのはよくないことです。ペナルティポイントに関してももう後がないので、エミリア・ロマーニャGPでは絶対にクリーンなレースをしないとダメだと念を押し、イモラに行く前にも再度話をしました。

 ケビンはメンタル的にも回復し、実際にエミリア・ロマーニャGPではそういう走りをしてくれたと思います。予選ではQ1の最後のアタックラップ中に妨害を受けて18番手に終わりましたが、レースのスタート前に「後方から違う戦略で走るけどクリーンにやらないといけないし、自分のコントロール下にあることだけに集中しよう」とグリッドで伝えました。チームのミスでピットストップのタイミングを遅らせすぎて周冠宇(キック・ザウバー)に詰まってしまったので、その点は反省していますが、イモラでのケビンはいいパフォーマンスを発揮してくれたと評価しています。

 続くモナコでもレース前のグリッドで、イモラと同じように自分でコントロールできることだけに集中して判断を下そうと話しました。あとで触れますがうちは予選で失格になったため2台とも最後列からのスタートになり、ケビンは20番手からスタートしニコと周を抜いて、セルジオ・ペレス(レッドブル)の後ろにつきました。

 レーススタート後、ターン1の立ち上がりではペレスよりケビンの方がよかったのですが、あの段階でリスクを取って17番手に上がろうと試みる理由はないので、あの判断ミスは痛手だったとクラッシュ後に戻ってきたケビンに伝えました。最終的に重要なのは入賞できるかどうかであり、後方からのスタートなのに1周目にリスクを取って17番手を争うことに意味はありません。

 もちろんケビンには「ペレスがスペースを空けるべきだった」という言い分がありますが、ケビンがペレスの右後ろにいた時点でスペースはまったくないし、ケビンのフロントアクスルがペレスのリヤタイヤより前に出た時点で、ケビンはもうバックオフできません。唯一クラッシュが起きないとしたら、それはペレスがケビンにスペースを与えた場合だと思います。しかしそれは、ペレスの判断に委ねるということです。そういう状況になる前に、ケビンは自分で物事をコントロールできるうちに自分の決断でバックオフするべきでした。

 ケビンの言い分もわかりますが、あのアクシデントが起きたことでクルマを修復するためにお金もかかりますし、メカニックの仕事も増えてしまい(クルマの修復は次のカナダGPまでには間に合います)、今ではケビンも反省していると僕にテキストを送ってきましたが、次のカナダGPに向けてもう一度話し合うつもりです。

 一方でニコはこのアクシデントに巻き込まれる形でリタイアになりました。ニコはケビンとは反対にミディアムタイヤでスタートし、1周目にピットインさせてハードタイヤに履き替えて最後まで走る戦略だったんです。モナコのコース特性上、ピットストップをしてもすぐに隊列に追いつけるので、そのまま走り続けて前方のドライバーたちがピットインする際に順位を上げられるはずでした。だからスタートでケビンが前に出ようとした時も、ニコは抵抗もしなかったですし、する必要もありませんでした。クラッシュ後、ニコは「まったく不必要だった」と言っていましたが本当にその通りです。

 ちなみにクラッシュしたケビンが戻ってきた後、僕は彼と30分以上話をして、それからピットウォールに戻りました。でも戻ってきてタイミングモニターを確認したら、席を離れる前とほとんど状況は変わっていなかったですね。みんな抜かれないとわかっていてペースを落として走るから、ハードタイヤでもミディアムタイヤでも最後まで走り切れてしまうので、順位が変わらなくても当然不思議はありません。

 また赤旗中断中にタイヤを変えることができるのも、モナコで順位が変わらないことの一因ですよね。ピットストップは何かが起こるチャンスですが、今回のように赤旗中にタイヤ交換の義務を消化すれば、あとは最後まで走り切るだけなので何も起きなくても仕方ないです。誰かのタイヤがダメにならない限りは何も起きないし、モナコGPのレースをおもしろいものにするために専用のタイヤを作ったり、タイヤのルールを変えてみるというのもひとつの策だと思います。

■トップ10を争えている現状を評価。今後は改善の規模とスピードを重視

 4月中旬の中国GPからマイアミGP、エミリア・ロマーニャGPと3戦続けてVF-24のアップデートを行ってきましたが、その成果としてクルマが改善されていることを確認できました。ただし、残念ながら想定の6〜7割くらいの改善に留まっているのが現状です。クルマを解析する能力が上がり、どのエリアで思ったほどの改善が見られなかったのかもわかっているので、しっかりと妥当な評価が下せたと思っています。

 今は問題点を解決するためにどうすべきかを検討しているところで、それが早くわかればわかるほど今後の開発に活きていきます。クルマが速くなったことは明らかですが、風洞で確認した性能を100%発揮できなかったというのも事実なので、それを認め、受け入れて改善していかなければなりません。

 シーズンの3分の1を終えた感想としては、今はどんな状況でもなんとかトップ10の近くで戦えていることを評価しています。またシーズン中にクルマを改善できる能力があることも証明できたと考えていますが、あとはその規模や、どれくらい早く改善できるかというところに焦点を置いています。

 反対に、先にも書いた予選での失格については教訓として活かしていかなければなりません。今回投入した新しいリヤウイングのDRSの設定が規則に準拠していなかったことが失格の理由ですが、すでに根本的な原因はわかっていて、ひとりひとりがもう少し自分のやる仕事について考えてコミュニケーションを取っていれば防げたはずでした。

 もちろんみんないい仕事をしてくれています。しかし仕事はひとりでやるものではないし、自分のしたことがほかの人に影響を与えるということを意識して、それを受け取る立場になったら何が必要かというのを考えるべきでした。誰かひとりの責任ではありません。これが今年初めての大きな失敗だったので、ひとりひとりが意識を持ってどう立て直すかが一番重要です。

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